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第41回 社員のやる気を削いでしまう管理職の「ある言葉」の話
「やる気」「モチベーション」という組織課題は、本人の気持ちの問題ではあるものの、特にリーダーの影響は大きいものです。ある会社では管理職の口ぐせが社員のやる気を失わせる大きな要因となっていました。
社員のやる気を削いでしまう管理職の「ある言葉」の話
組織作りや風土改革といった課題の中で、「やる気」「モチベーション」という言葉が出てくることがよくあります。
そもそも「やる気」「モチベーション」というのは、周りからどんなアプローチをしたとしても、本人が前向きに消化しない限りはそれが盛り上がることはありません。最終的には本人の気持ちの問題であり、「やる気を出すか出さないかを決めるのは自分次第」「やる気が出ないことを周りのせいにするべきではない」というのが私の持論です。
とはいうものの、周りの環境が本人の気持ちに大いに関係することは間違いなく、「やる気」「モチベーション」が盛り上がるような働きかけが不要かといえばそんなことはありません。特にリーダーの姿勢、態度、振る舞いは、メンバーたちの「やる気」「モチベーション」に大きな影響を与えます。
心理学や精神分析学などの学術的な手法を使い、人にやる気をおこさせる技術を持った専門家を“モチベーター”といいますが、そうやって他人の気持ちを前向きに変えることは可能ということであり、反対に人のやる気を確実に下げる方法もあるということになります。
その効果に個人差はあるとしても、やる気をおこしやすい組織風土作りというのは意識をしていかなければなりません。
ある会社の社長から、「管理職クラスのある社員が、新人レベルの若い社員たちのやる気を削いでしまっている」という相談を受けました。
どういうことがあるのかと聞いてみると、例えば「そんなことやっても“どうせ”無駄だ」「そんなお客は“どうせ”契約に結びつかない」「結果は“どうせ”○○だ」など、何につけても「どうせ……」と、悟ったような話を訳知り顔で若い社員たちにするのだそうです。その「どうせ……」がほかの社員にも伝染し、同じような言い方をする者が増えてきているのだそうです。
これを善意に解釈すれば「不要な試行錯誤を避けている」「効率化を考えている」ともいえますが、この「どうせ……」という言葉はあまり好ましい表現ではありません。特に会社の組織運営や仕事にかかわる場面でいわれる「どうせ……」の後には、だいたいが「無駄だ」「止めよう」「あきらめよう」「仕方がない」など、現状をネガティブに捉える言葉がつながるからです。
「どうせ○○だから……」という言葉の後におこってくるのは、行動するのをやめること、思考を停止することで、これは「やる気」「モチベーション」とは対極にあることです。「どうせ……」という言葉は、自分自身と周りの人のやる気や熱意を消してしまいます。それはさらに他責の姿勢や一方的な不満につながることもあります。
この「どうせ……」という言葉は、意外に多くの会社で耳にすることがあります。「どうせ……」が口ぐせになっているような人がいたり、さらに組織全体がそうなっていたりすることもあります。
よく「言霊」などといいますが、日ごろどんな言葉を発するかというのはとても大事なことで、言い続けると自己暗示にかかります。
ある取り組みを「無理だ無理だ」と言い続けると、その取り組みはほぼ確実に“無理”になります。
一方「できるできる」と言い続けたからといって、それが本当に“できる”かはわかりませんが、少なくとも“できる”ようにするための行動は取り続けます。
このように、言葉を変えると行動が変わります。それがリーダーの言葉であればなおさらです。
ネガティブな口ぐせというのは、本人が無意識のうちに出てしまうことも多いですが、これを意識して変えるだけで、行動はずいぶん変わってきます。口ぐせに気づいて、それを言わなくするだけでも、周囲への影響はかなり違ってきます。
こちらの会社でも、この「どうせ……」という発言をなくすだけで、実は問題の多くが解決されていくような気がしています。
次回は2月28日(火)更新予定です。