第145回 「言えない」のか「考えていない」のか、心理的安全性に関する話

組織マネジメントにおいて「心理的安全性」の重要性が注目される反面、ぬるま湯や甘やかしといった批判的な見方もあります。しかし、企業風土や人材タイプは違っても、実践できれば何かしらの効果はあるように感じます。

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「言えない」のか「考えていない」のか、心理的安全性に関する話

近年の組織マネジメントの中で、「心理的安全性」という言葉が広まりました。これは組織内で自分の意見や感情を安心して表現できる状態のことをいい、Google社が効果的なチームを作るために必要な要素を研究する中で見いだされて注目されるようになりました。
チーム内が安全であるという認識が共有されれば、もし意見の対立などがあったとしても、それぞれのメンバーは安心して発言でき、安心して仕事に取り組むことができ、それがより良いチーム作りにつながっていくとされます。ただ、このことに関しては、「甘やかしすぎ」「自分で何とかすべき」といった反応もあります。「ぬるさ」や「ゆるさ」などと混同されることも多く、本当の意味で「心理的安全性」を実現するのは意外に難しいことのようです。

「もっと積極的な行動を」への反応が鈍い理由

これはある会社で、部長とその配下のリーダーたちとの間でのやり取りです。
部長はリーダーたちに向かって、「もっと自分なりにいろいろな提案をして、自分から積極的に行動してほしい」と言っています。部長から見たリーダーたちは、全般的に積極性が足りず、自分から率先して動き出したり、周囲を巻き込んだりしていくような行動が不足していると感じているようです。
この言葉に対するリーダーたちの反応は、「はい……」「そうですね……」と今一つ前向きな様子ではありません。性格的にちょっとおとなしそうなタイプが多く見えることから、自分から率先して動くことが、それほど得意でない人たちなのかもしれません。ただ、反応が良くない理由は他にも何かありそうです。

このやり取りがあった後、私からリーダーたちに「意見があっても言いづらい場合と、そもそも意見がない、考えていない場合のどちらが多いのか?」と尋ねてみました。リーダーたちはしばらく考えて、「うーん……。半々くらいですかね……」と言います。この答えはだいたい想像どおりで、これまでいろいろな人に同じ質問をしても、「時と場合によって両方ある」というものが大半です。
その比率は、本人の性格や能力、周囲の環境などによっていろいろですが、少なくとも「全部言えないことばかり」とか、「何一つ考えていない」という極端な人はおらず、ほぼ全ての人がどちらの経験も持っています。

「言えない」と「考えていない」とでは対応が異なる

「言えない」と「考えていない」とでは、それぞれ理由が違います。
「意見があっても言えない」というのは、自分なりに考える力はあるということであり、言いやすい雰囲気や聞こうとする姿勢など、周りの環境を少し変えれば、それを表現できるかもしれないということです。短期的に変わる可能性があるということで、ここではまさに「心理的安全性」を高めることが、直接的な解決につながっていきます。

その一方、「意見がない」「考えていない」ということは、そもそもの考える力を身につけさせなければなりません。業務経験や教育研修などを通じて、少しずつ対応していくことが必要であり、相応の時間もかかります。その人の能力的な限界もあるでしょう。ここでは「心理的安全性」を高めたからといって、すぐに解決に結びつくわけではありません。
しかし、それが全く無駄なことではなく、本人が「できない」「分からない」「考えていなかった」と正直に言える雰囲気作りには意味があります。その人の本音を聞くことができれば指導の仕方が工夫でき、より早く能力を身に着けることができるかもしれません。間接的ではありますが、「心理的安全性」を高めることの効果はあるでしょう。

組織作りや人材育成には「心理的安全性」が重要な要素

こういう話を上司たちにすると、やはり「そこまでするのは甘やかしすぎ」「リーダーならそれくらいは自分で何とかすべき」といった反応が出ます。確かにそれは間違いではありませんし、そう言いたい気持ちは理解できます。しかし、それは「変われるかどうかは本人次第」と言って放置していることと同じであり、結局何も改善されないことがほとんどです。

やはり、その人が意見を持っているならそれを吸い上げる環境を作り、発言しても大丈夫という体験をさせること、考えていないならその状況を自覚させ、自発的に考える習慣づけをしていくことが、会社としての組織作りや、リーダーの人材育成としてプラスが多いはずです。そのためにはやはり「心理的安全性」が重要な要素であると感じます。

相手がリーダーともなれば、つい「自分で何とかしろ!」と言いたくなりますが、その人が成長して、それが会社のプラスになるのであれば、一時的には甘やかしと思えることでも、先を見据えて行うべきです。何かしらの働きかけで少しでも良い方向に変わるなら、それを実行することも必要ではないでしょうか。

次回は10月28日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

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小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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