第104回 「好きでもないし向いているとも思わないが辞めない」という新入社員の話

新入社員の早期離職は特に最近問題視されることが多いですが、もし定着率が高かったとしても、その中には良いものも悪いものもあるということを認識しておく必要があります。

「好きでもないし向いているとも思わないが辞めない」という新入社員の話

4月に新入社員が入社して、この時期は研修の真っ最中か、会社によってはそろそろ現場配属かという時期ではないでしょうか。まだ環境に慣れない新入社員と、その受け入れや研修をしている担当者の方々も、それぞれ苦労しているところだと思います。

新入社員に関しては、もうずいぶん前から「753現象」などといわれる早期離職が問題視されています。入社3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職するということですが、これ自体は最近始まったことではなく、若干の違いはあるものの、30年以上前の統計資料でも似たような傾向が見受けられます。
ただ、最近は若手人材の採用が少子化などの理由で難しくなっていることもあり、「せっかく苦労して採用し、それなりに教育投資をした人材に簡単に辞められては困る」ということから企業側の問題意識が高まっており、今まで以上に意識されることが多くなったように思います。

低評価を何とも思っていない

ただ、ある有名企業の方から聞いた話で、ちょっと考えてしまうことがありました。

ある一流大学から入社した新入社員ですが、配属早々にもかかわらず、既に現場では「仕事ができない」「やる気がない」「使えない」という評価をされてしまい、扱いを持て余しているそうです。当の本人も「自分はこの仕事に向いていない」「好きな仕事ではない」などと言っていて、適性がないことを自覚しているようですが、それでも「会社は辞めない」と言っているそうです。その理由は「もしかするとこの仕事が好きになるかもしれないから」とのことで、有名企業のブランドもあるせいか、周りから見ると会社にしがみついているようにも見えてしまうようです。

しかし、本人にはあまり向いていない自覚があり、それでも「会社は辞めない」と言っているにもかかわらず、仕事ぶりは相変わらずで、あまりやる気を見せることがないといいます。積極的な取り組みをすることもなく、いかにも「向いていない」「やりたくない」という雰囲気で過ごしています。さすがに周りの人たちも、ついつい「他の向いている仕事を探してもよいのでは」という話をしてしまうそうですが、今のところ本人に全くその気はないそうです。

会社の方針と社員の思想とのすれ違いで生じるもつれ

そもそも適性がない人材を採用した会社に問題がありますし、新人だからもっと長い目で育成すべきという意見も当然でしょう。頑張っていればいつか花開く可能性もゼロではありませんし、苦手なことでも継続する精神性には意味があるでしょう。「会社への定着」を最優先に考えれば、「辞めない」というのは決して悪いことではありません。

この新入社員に関する話で、「大きな原因は会社にある」「新人に対して早く結果を求めすぎている」という見方は、私も否定はしません。しかし、この話で問題なのは、本人が「この仕事は好きではない」「自分は向いていない」と言っているにもかかわらず、自分なりに立ち向かって改善しようという姿勢が見えないことです。もしかすると、自分なりには頑張っているつもりかもしれませんが、周りにそれが一切伝わらないということは、本人の行動に大きな問題があります。話を聞く限りでは、「何となく続けていれば、そのうち慣れるかもしれない」という本人の安易な態度を感じます。

ここ最近、「働かないおじさん」と称して、給料が高いわりに仕事をしない、業績貢献がない、転職しても仕事は大変になって給料も下がるだけだから会社に居続けるという中高年社員に関する話があります。これまでの経験や貢献、持っている能力といった点では新入社員と全く違いますが、「仕事に向き合うことを避けている」「甘えている」という意味で、私は同じような印象を持ってしまいました。

社員定着率の高さの理由にも良し悪しがある

人材投資という面では、世代を問わず「早期離職」が問題になりますが、行動としては正反対の「会社にしがみつく」ということも同じように問題です。「つらくても続ける」「向いていなくても辞めない」は、一見すれば真面目で好ましい取り組みに見えますが、必ずしもそうとはいえない場合も含まれます。

最近は社員定着を促進する一環として、会社の「働きやすさ」を高める取り組みがあります。ただ、ある調査によれば、「働きやすいがやりがいが少ない」という企業より、「やりがいはあるが働きやすくない(キツい)」という企業の方が、短期的な業績は高いという結果があります。俗に言われる「ブラック企業」がいつまでも成り立ってしまう理由かもしれません。

「やりがい」が行き過ぎると過重労働や搾取につながり、「働きやすさ」が行き過ぎると緩みや甘えにつながります。この両方をバランスよく持つのが、良い会社の条件といえるのでしょう。

社員定着率の高さには、良いものも悪いものもあることは認識しておかなければなりません。

次回は5月24日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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