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第9回 社風が意外と垣間見える訪問時の応対
コンサルタントという仕事柄、様々な会社を訪問させて頂きます。
多くの会社を訪問する、ということでは営業職の人の方が件数は多いかもしれませんが、私たちはそれぞれの会社での人事の課題解決をお手伝いする役目ですので、わりと込み入った社内事情や、場合によっては内輪の愚痴に近いような社内的なお話をいろいろお聞きします。
このあたりは営業職の方とは少し違う部分かもしれません。
また、社内状況を把握する上での大切な材料として、私たちに接して頂く社員の方々の様子には、アンテナを敏感に働かせて見ています。
私たちに対するご依頼を検討するような企業は、組織作りや社員の扱いをもっと高度化したい、要は「きちんとした会社運営をしたい」という企業ばかりなので、非常識と感じるような対応をするところに出会ったことはありませんが、対応の仕方に企業の色があることは間違いありません。
私が印象深かった企業の一つに、あるウェブサービスを展開している中堅企業があります。
平均年齢が30歳くらい、社長自身も30代前半という大変若い企業で、ここ数年で急激に事業拡大して社員も増えています。社屋は都内一等地のビルにあり、ホームページに出ていた社内風景の写真を見ると、中の作りも結構凝っていて豪華な印象です。
俗にいう「今どきのイケイケの会社」というのがおうかがいする前のイメージでした。
私が初めておうかがいした時は、ちょうどお昼時だったので、こちらの会社の社員さんたちが頻繁に出入りしています。電話で受け付けをして広々したエントランスロビーで待っていると、中から出てきた女性に「こんにちは!」と元気に声を掛けられました。「ああ、感じの良い方がお迎えにきてくれたな」と思いました。
さて、ここまでの話なら、まあありがちなことだと思うのですが、実はこの女性は私の訪問先の方ではなく、「お待たせしております。少々お待ちください」といって去っていきました。
その後も社員さんが男女問わずに何人も出入りするのですが、全員が私の目を見てニッコリほほ笑み、わざわざ近寄ってきて「こんにちは!」と挨拶をしてくれるのです。
結構何人もの方から挨拶して頂いているうちにご担当の方がお見えになり、社内にお通し頂きました。
こんなに皆さんが挨拶してくれる会社というのは、正直あまり記憶になかったので、その旨をご担当者に伝えたところ、「いやー、有り難うございます。でも普通のことですよ」とおっしゃいます。
その後の打ち合わせでいろいろやり取りをしていて感じたのは、社内のコミュニケーションの良さです。
確かに上下関係はあまり強くないフラットな感じですが、社員同士の会話でも、もちろん私たち来訪者に対しても、決してカジュアルすぎず、ほど良い距離感で積極的にコミュニケーションを取ろうとします。
伸び盛りの企業で、その活力の源泉を一部見せて頂いたという感じでした。
どんな会社でも、訪問者や部外者に対しては必ず挨拶をして頂けますが、そこには大きく二種類のパターンがあるように思います。
一つは会社全体として意識的に形を作って行っているパターン、もう一つは社員の常識に任せて、自然発生的に行っているパターンの二種類です。
そして、私の印象に残ったこちらの会社では、間違いなく前者の「会社全体として意識的に行っているパターン」だと思います。
誰かが「こうしよう」と提案し、他の社員がそれに賛同し、お互いに確認し合いながら習慣になるまで続けていかなければ、絶対にこうはなりません。
この手のことというのは、多少は意識付けのための注意などがあったとしても、店舗のように常に訪問者がやってくる環境でもない限り、たぶん「社員の常識に任せて、自然発生的に行っている」という企業が大半だろうと思います。
自然発生的であっても、それが定着して実行されているのはすばらしいことですが、その一歩先を行こうとすると、やはり意図的に動くということが必要になります。
リーダーシップも巻き込む力も継続性も必要です。
それが挨拶などという対象ではなく、実際の業務の中でも行われているとすれば、それは間違いなく組織の活力になっているはずです。
企業風土というのは、意外にささいなところからも見えてくるものです。
次回は月6月24日(火)更新予定です。
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