第32回「社員を守る」ということへのお国柄の違いのお話

近頃、時々ではありますが店員に土下座を強要するようなクレーマーの話題を目にします。行き過ぎたクレームにどう対応するかという判断は、会社としてはなかなか難しいところです。

これは最近私の知り合いの会社で起こったことですが、過去数回の取引があった会社との間で、些細な事務処理ミスがあり、先方はそれをきっかけに「今回の費用は全てそちらで持て」「そうでなければ今後一切取引しない」とクレームを言ってきたのだそうです。
上司と担当者とで何とか対応して収めましたが、かなり法外な値引きを要求され、それに応じてしまったそうです。その後、関係先からの情報で、実はこの会社は他の会社ともクレームが多いと評判だったらしく、それを聞いた社長は「もう少し対応方法を考えるべきだった」と反省していました。

こういうことが起こるたびに、私はあるところで目にしたコラム記事を思い出します。
それはクレーム対応について書かれた記事で、ある有名外資系のショッピングセンターでの出来事です。明らかにクレームを通り越し、スタッフに「イチャモン」をつけて、商品を「タダにさせてしまおう」という魂胆があからさまなお客様に対して、欧州系の外国人支配人が、「出て行け! あなたは客じゃない!」「スタッフはあなたの奴隷じゃない、謝れ!」と物凄い剣幕で怒り、クレーマーに謝らせたのです。
その支配人は、「このラインを超えたらお客様じゃない、というギリギリのところまではスタッフに努力させるが、それ以上やらせると、スタッフが仕事に恐怖を感じるようになってしまう。それを避けるために、クレーマーがラインを超えた瞬間からは、スタッフを守るのが義務だ」と話していたそうです。

これを読んだ時に考えたのは、この支配人が日本人だったらどうしただろうか? ということでした。多くの人は、同じように部下・社員を守らなければならないと思うでしょう。その行動として、部下と一緒か、もしくは部下の身代わりになってクレーマーに謝るのではないかと思うのです。穏便に事を済ませようと、クレーマーの言いなりに商品を提供してしまっていたかもしれないということです。

また、これもあるところで紹介されていた話ですが、海外企業のある社員が仕事上で失敗を犯し、その社員の上司のもとへ、上席部長がクレームを言いに来たそうです。
ガラス張りの部屋で、中の姿しか見えませんが、初めは冷静に話している様子だったのが、そのうちお互いにヒートアップし、大声で言い合いをしている様相になってきたのです。そこから漏れ聞こえてきたのは、「彼一人の責任ではない。責任者は私だ!」という直属上司の声だったそうです。その言い合いの後、直属上司はその失敗を犯した社員を呼び、今度は烈火のごとくその社員を叱ったのだそうです。
“自分が責任者”ということの意識が強く、周りの圧力からは部下を徹底的に守るが、直接的に言うべきことははっきり言うということなのだと思います。
「社員を守る」と一言でいっても、その状況や方法はこのように多様です。また、何が正解ということはないのだと思います。それぞれの文化の違いもあるでしょう。

ただ、前述のショッピングセンターの外国人支配人は、こんなことも言っていたそうです。
「日本のお客様は、商品とサービスの品質に厳しいが、時にその限度を超えると、単なるわがまま客に変身してしまうことが多く、さらに店から断られることに慣れていない。これは、頭を下げる接客しか教えられてこなかったからだろう」

日本人のサービスは世界一だと多くの人は胸を張りますが、そのサービス精神が、一方でこういうクレーマーのような人たちを生み出してしまっているのかもしれません。日本人として反省が必要なところでしょう。
「社員を守る」ということは、ひいては「会社を守る」ということにもつながります。その方法についての正解はなかったとしても、これからも考え続けていかなければならないテーマなのだと思います。

顧客サービスに対する意識が偏りがちな日本の場合、会社としての判断基準をある程度仕組みとして共有する必要があるように思います。私はもっと毅然とした態度で臨んでもよいのではないかと思っています。

次回は5月24日(火)更新予定です。

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この記事の著者

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小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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