第56回 「自信満々の社内情報共有」がちょっとずれていた会社の話

さまざまな情報を、誰とどんな形で共有するかは、組織運営の中で確実に必要なことですが、ここで勘違いしてはいけないのは、自分が「伝えたか」よりも相手に「伝わったか」「理解されたか」が最も重要だということです。

「自信満々の社内情報共有」がちょっとずれていた会社の話

社内にはいろいろな種類のさまざまな情報が存在します。それを誰に対して、どんな形で共有するかということは、組織運営の中ではとても重要なことです。情報共有の有無によって、トラブルを未然に防いだり、早期に解決できたり、眠っているノウハウが明らかになったりしますから、企業全体の業績や信頼の向上のためにも取り組まなければならないことです。
機密情報や人事情報、個人情報などを除けば、共有できない情報というのは、実際にはほとんど存在しません。個人の都合で公開を渋るようなものは、逆に不正の温床でもありますから、コンプライアンスを保つうえでも情報共有は重要です。
最近はITインフラが格段に整備されていることもあり、以前に比べて情報共有が進めやすくなっています。今は何でも自分で調べられる環境が当たり前になっていますので、この点で遅れを取ってしまうと、企業の競争力自体が失われていってしまいます。

このような話をすると、当然のことと賛同してくれる社長や幹部社員がいる一方、いまだに肯定的でない人もいます。そんな人の多くは、「伝えてもどうせ理解できない」と言います。
しかし、情報を示さなければ理解者はゼロですが、開示すれば理解できる人は少数でも必ずいますから、それは情報共有を拒む理由になりません。情報共有を進めるには、まず伝える努力をしなければ何も始まりません。

そんな中、ある会社で社内の情報共有に関する話をしていたとき、この会社の社長は「うちはどんな情報も隠さずに社員に公開している」と自信満々におっしゃって胸を張ります。ただ、私がそれまでこの会社の社風を見てきた限りでは、そこまでオープンな雰囲気を感じることがなかったので、もう少し細かく話を聞いてみました。

社長は「会社の業績は社員が全部見られるようにしている」と言いますが、そこで公開していると言ったのは、財務諸表のB/SとP/L、あとは月次の売り上げと利益の集計値という資料で、表計算シートにただ数字が並んでいるものでした。
この資料に対する社員からの問い合わせは、今まで一度もなかったそうで、これをベースにした議論をしたことも無いそうです。
たぶんほとんどの社員が、この資料の意味を理解できないためだと思われますが、社長が言うには、「これだけ情報を見せているのだから、理解できない方が問題」「これくらいのことは読み取れるように勉強するのが当然」とのことです。

実際に社内会議などの場面でも、社長はこの発言のように、社員たちが自分と同等レベルで会社状況を理解している前提で振る舞いますが、社員たちの意識は当然そこまでついてきていません。しかし社長は、「うちの社員は意識が低い」「理解力が足りない」と言って、自分の一方的な発想による施策をどんどん打ち出しています。
その一方的な振る舞いに、社員たちはさらについていけずに不満をため込むという悪循環に陥っていますが、社長自身はそのことへの問題意識はありません。

確かに社員の情報を読み取る力が足りないのはそのとおりです。しかしここで問題なのは、社長が発信するさまざまな会社情報を、相手のレベルに合わせて理解させる、理解しやすいように歩み寄る姿勢が全くなく、結局は社員に「伝えようとしていない」ということにあります。結果として会社全体での情報共有にはつながっていません。

財務諸表などの決算書類というのは、さまざまな会計上の調整もされますので、仮に読み取り方を勉強していたとしても、実態を知るには、その内容を突っ込んで聞かなければ分からない部分がありますし、ただ数字が並んだシートを解説も無いままで見せられても、特に一般社員などは意味が分からないのが当然でしょう。
「伝えようとしていない」という情報開示では、それを行う意味はほとんどなく、不満や不信を生むことを考えると、かえって逆効果になることもあります。

これは極端な例かもしれませんが、社内の情報共有を考えるとき、自分が「伝えたか」よりも、相手に「伝わったか」ということが最も重要です。その結果は必ず業績として会社にはね返ってきます。
誰に何をどうやって伝えるか、それが「しっかり伝わったのか」という相手目線の意識が大切です。

次回は5月22日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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