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第6回 仕事はいまいちなのに社員に好かれる社長のお話
経営者をはじめとしたリーダーのイメージは、基本的には「仕事ができるビジネスパーソン」だと思います。
その人の仕事ぶりが周りの手本になったり、尊敬を得られる要素だったりすると思います。
ただ今回ご紹介する会社の社長は、それとはちょっと違ったタイプの方です。
200名ほどの技術サービス系の業種で、技術的な専門知識が必要な仕事内容の会社です。
こういう会社の社長というのは、社内トップの技術者であったり、創業時からの現場たたき上げであったり、現場の技術に精通している人で、社内でも「仕事ができる人」と評価されていることが多いものですが、この社長は現場の技術的なことはほとんど知りません。
もっと言ってしまうと、仕事に活かせる実務的な専門スキルと思われるものを、まったくといってよいほど持っていません。
技術系の会社の中で、経営者や管理者といったリーダー的な立場の人が現場の技術を知らないとなると、どちらかというと「仕事ができない人」という見方をされ、変に見下されて部下たちが指示通りに動かなかったり、存在を煙たがられたりすることがあります。
この社長も、そういう見方をされてしまう条件にはぴったり当てはまってしまうのですが、なぜか周囲の社員からはものすごく好かれ、尊敬もされている様子です。
なぜなのか興味があり、社長の様子を観察していてわかったことは、この社長はとにかく社員とコミュニケーションをたくさん取っています。
どちらかと言えば単なる声掛けに近く、話の中身は「今はどんな状況?」「いつもご苦労様」「大変そうだね」「問題があったら言いなさいよ」など、他愛もないと言ってしまえばそれまでの内容ですが、社員まんべんなく、しかも頻繁にいろいろ話しかけています。
また、社員を食事や飲み会によく誘っています。これもだれ彼という偏りなく、変な強制もせずに誘い、しかも費用は社長のポケットマネーでまかなっていると聞きました。
「自分は何にも役に立たないから、せめてこのくらいは・・・」などといって、いろいろ社員の話を聞くそうです。
こうやってみてみると、この社長は確かに現場の実務や知識はいまいちかもしれませんが、実は社員の「モチベーター」という大きな役割を担っていて、それを社員たちも認めているのだと思います。
社員たちの声を聞いても、「社長、良い人だからね」とか「社長が頼りないから自分たちが頑張らないと」などと笑いながら話してくれます。
人がリーダーシップを取ろうとすると、何かと他のメンバーより優れていなければならないと錯覚しがちで、特に現場でやっているような実務に関しては、そんな傾向が強いように思います。
しかしこの社長のように、自分が万能ではないことや劣っていることを認めて、自分にできることの中で誠実に行動することが、結果的には社員のやる気を生み、組織を率いるリーダーシップにつながっています。
きっと誰でもできることではないのでしょうが、リーダーとしての背中の見せ方に、こんな方法もあるのだと感心した一件でした。
次回は月3月25日(火)更新予定です。
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