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第66回 「一体感」と「多様性」のバランスという話
企業としてより良い成果を目指すうえで、組織の「一体感」は重要ですが、それを追求し過ぎると「多様性」が失われます。どのように「一体感」と「多様性」のバランスをとるかは、常に考えていなければなりません。
「一体感」と「多様性」のバランスという話
組織作りやチームビルディングの中で、そのグループの「一体感」を作り出すことの大切さは、いろいろな場面で言われます。チームスポーツや共通の目的に向かったグループでの取り組み、その他集団、組織で取り組むことであれば、全てに当てはまるでしょう。
これは企業でも同じで、「企業」というチームがどういう考え方で、何を目指してどうなりたいのかを示す「経営理念」「行動規範」「人材像」「目標の明確化」などは、この「一体感」を作り出すための道具や手段にあたります。
企業人事という仕事では、これらに注目した取り組みがわりと多く、会社の「一体感」を高めるという目的で、さまざまな施策や取り組みを実施します。特に採用活動などにおいては、自分たちの会社がいったい何者なのかを対外的に理解してもらう必要があり、それを表現する拠り所として、「理念」などを重視する傾向が強まります。選考もこの理念や一体感を意識しておこないます。
その一方で、最近はダイバーシティという言葉でも表現される、「多様性」の大切さが言われています。
私が今まで見てきた中でも、特に成長が速い企業では、構成している人材が非常に「多様性」に富んでいるという感じがします。これはグローバル展開をしているような大企業だけでなく、身近にある町工場や、ごく普通の中堅・中小企業でもそうです。
年令や性別、国籍や出身地、学歴などの一般的に言われる属性だけでなく、その人の生い立ちやこれまでの経歴、個々の持つ価値観や職業観、性格的な特性その他、俗にエリートといわれるような人から、たたき上げの苦労人のような人まで、本当にさまざまな人が在籍しています。
「多様性」に富んだ組織では、先入観で排除したりせず、さまざまな人を自分たちの仲間として迎え入れることができる、個人個人の度量の広さを感じます。
企業の組織作りをする中で、「一体感」を作り出すことを重視した取り組みを進めていくと、自分たちにかかわる人を「選別」しようとする動きが目立ち始めることがあります。主に採用や人材登用の場面で、自分たちが気に入った人や気が合う人ばかりを選びだし、そういう人で身近を固めようとします。
これについては、限られた人数で物事をスピーディーに進めなければならない組織であれば、そういう考え方もありますが、それなりの組織規模になってきたにもかかわらず、同じ発想のままで「一体感」にこだわっていると、それが行き過ぎて、誰かをはずす、辞めさせるといった「排除の論理」につながっていきます。これでは「多様性」はどんどん失われていってしまうでしょう。
「一体感」を高めようとすると、それにつれて「多様性」が失われ、「多様性」を求めると、その中で「一体感」は維持しづらくなります。「一体感」と「多様性」は、どちらも大切であるものの、これを両立するのはなかなか難しいことです。
ただ、難しいとはいっても、できる限り両立を図らなければなりません。
両立といっても、そのどちらに重心を置くか、どんな進め方をするかは、その会社の組織規模や現在のステージがどこにあるかによって違ってきます。
例えばスタートアップに近い組織や数十名以下の中堅・中小規模の企業であれば、まずは「一体感」が大事です。構成メンバーの多くが、同じ気持ちで同じ方向を目指すということが、この時期にはより必要だと思います。
逆に企業規模が拡大してくると、今度は徐々に「多様性」の重要度が増してきます。多様な人材がいることで、対応できる事業内容や顧客の幅に広がりを持てて、これが会社の成長につながります。これを実現するために、会社にはさまざまな人を受け入れるだけの器や度量の広さが求められるようになります。
ただ、会社が大きくなったからといって、「一体感」をおろそかにして良いわけではありません。
例えば30~50名の人数は、大企業であれば課や部単位の人数だと思いますが、この単位では「一体感」を高める取り組みを行い、一方で課や部の相互間では異なる性格を持つ集団にしていけば、組織全体の「多様性」を高めることができます。こんな形で両立を考えていくことになるのでしょう。
「一体感」と「多様性」はどちらが大事かと聞かれれば、結局はどちらも大事だという答えになります。
しかし、意識しなければならないのは、自分たちの属する組織がどのような段階にあるのかによって、そのバランスは変化するということです。どこに重心を置くのか、どんなプロセスを進めていくのかは、その組織の中で工夫していく必要があります。
次回は3月26日(火)の更新予定です。