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第67回 いい人だけど、他人にも自分にも厳しくない社長の話
成功している経営者やリーダーは、どこかに必ず厳しさを持っていますが、ある社長はその定義に当てはまりません。しかし実際にはいろいろ問題があり、経営者やリーダーは特に自分を律する姿勢が大切だという話です。
いい人だけど、他人にも自分にも厳しくない社長の話
社長というのは、どんなに人当たりがよく優しくても、どんなに腰が低くて謙虚でも、必ずどこかに厳しい一面を持っています。そうでなければ事業を成功させるのが難しく、成功のためには必要なことだからでしょう。
私がお付き合いさせていただく経営者の方々も、会社規模や事業規模にかかわらず、必ず何かしらの厳しい一面を持っています。仕事の向き合い方への厳しさ、仕事の質に対する厳しさ、礼儀作法の厳しさ、お金に関する厳しさ、その他いろいろです。
また、こういう経営者の皆さんは、自分自身に対する厳しさも持っています。相手に要求することは、自分も同じように実行しようとしますし、他人には求めないようなことであっても、自分自身はそれを実践していたり、行動を律していたりします。
もちろん人間ですから、中には自分に対する甘さもあるでしょうが、成長している会社では、社長のそういう部分を理解し、さりげなくフォローしてくれる部下が必ずいます。なぜフォローしてくれる人がいるかといえば、尊敬、恩義、お手本、人生経験、性格、その他いろいろなことを含んだ広い意味で、社長が「いい人である」ということだろうと思います。
そうやってフォローしてくれる人が身近にいなかったり、他人に厳しく要求していても、自分には甘く済ませていたりするような社長は、必ずどこかで行き詰まっているように感じます。
ただ、私の知人のある社長に、この定義があまり当てはまらない人がいます。周りから見ている限り、厳しい一面というものがどこにも見当たらないのです。他人に対しても自分に対しても、どちらの場合でも同じようにそうなのです。社歴は10年以上あり、会社自体は順調そうに見えます。
曲がりなりにもそれだけの期間で社長を務めてきたわけですから、何かしらの厳しさはあるはずだと観察していましたが、なかなか見つけられません。
周囲の人たちに様子を聞いても、「ああ、あの人はそんな感じ」などと言うばかりで、「厳しさ」という話は全く出てきません。
他人に対して絶対にきついことを言わず、甘えと思われるようなことも全て認めてしまうので、周りからの評判としては、「とりあえずいい人だ」ということになっています。
しかし、この社長と仕事で関わる人たちの評判は少し違っています。部下たちからは「自分からは何もしようとしない人」と言われています。営業活動などで「相手と会ってほしい」と話を持っていっても、何となく後ろ向きで、連れ出そうにも腰が重くて、部下としては一苦労なのだそうです。社長という立場の人は、おおむね行動力があり、ともすればやり過ぎ、走り過ぎといわれることも多い中、それとは正反対のキャラクターです。
そうやっていろいろ聞いていく中で何となく分かったのは、「やらずに済むならやりたくない」という行動回避の願望があるらしいことです。「他人に要求すると自分もやらなければいけなくなる」ということから、自分と他人の両者ともに、甘い対応に終始する行動になっているようでした。
会社業績をはじめとした資料を見せてもらうと、決して悪くはないものの、伸びている、成長しているということでもありません。「売上・利益はほぼ横ばい」「負債はないが投資もしていない」「固定顧客はいるが新規開拓はほとんどない」「社員は減っていないが増えてもいない」というような状況でした。
「事業的に失敗はしていないが、成功しているとも言い切れない」という中途半端な感じがします。会社の先行きを考えると少し心配です。
こんなことから思ったのは、やはり経営者には「厳しさ」も必要であり、中でも「自分に対する厳しさ」は、事業を成功させる上で必要だということです。これは空気をピリピリさせることでも、過度の率先垂範でもなく、自分を律して部下の信頼を得ることです。このことは、部門を率いるマネージャーやチームリーダーも同じです。
経営者、マネージャー、リーダーは、いざという時には部下をはじめとした周囲の人に、さまざまな指示、命令、要求をしなければなりません。その時に「この人から言われたくない」「この人に言う資格はない」との感情を持たれては、相手の行動が鈍って肝心な時ほど困ります。受け入れてもらうには、自身の日頃の行動が重要です。
自己管理だけで自分を律するのは難しいですから、他人からの目でフォローしてもらうことも必要でしょう。そういう関係づくりも大切です。
自分にも他人にも「厳しさ」を持ち続け、しかも「いい人」でいるということは、かなり矛盾しているようにも思えます。ただ、少なくとも私の周りでは、この矛盾に向き合って、自分なりに克服している経営者、マネージャー、リーダーが成功していると感じます。
やはり組織をまとめて成功に導くのは大変な仕事であり、だからこそやりがいがあるのではないでしょうか。
次回は4月23日(火)の更新予定です。
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