第34回 「他社事例の活用」を期待したマネージャーが活躍できなかった話

私たちのようなコンサルタントの立場では、その企業が持つ課題に対して、他社での成功・失敗事例の情報提供を求められることが良くあります。

「他社事例」というのは、別の会社で成功したからといって、それを自社に持ち込んでも、うまくいくとは限りませんし、逆に他社での失敗がそのまま当てはまるとも限りません。
ですから私たちは、その会社のさまざまな事情を総合的に見極めながら、活用できそうな他社事例を複合的に組み合わせて選択肢を示します。そうでなければうまくいかないことが分かっているからです。

しかしクライアントの中には、「もっと直接的に持ち込める他社事例を!」とおっしゃる会社があります。コンサルタントの中には、根拠が多少薄くても、「この事例が有効である」などと言い切ってしまう人がいます。机上論に偏り過ぎると、そういう傾向になりがちなので注意が必要です。

とある会社で、自社内の仕組みづくりや環境整備に、他社の有効な事例を持ち込みたいということで、大手企業の管理職経験者を採用することになりました。
そういう期待をした人材の採用をときどき見かけますが、その後の現場の様子を見ていると、うまくいっている場合とそうでない場合とが、極端に分かれます。

この会社では、残念ながら後者に当てはまり、当初期待した成果が出ないままに、せっかく採用した管理職経験者は短い期間で退職することとなってしまいました。入社したご本人も、たぶん大きな違和感を抱いていたのではないかと思います。

いくつもの会社を見てきた私がこの成否に影響する最も大きな要素と思うのは、採用された人が、その会社の現状を受け入れて肯定的に見られるか、元の所属会社と比較して否定的に見るか、というところにあります。

うまくいくのは前者の「現状肯定派」です。現状が好ましい状態でないとしても、そこには過去から積み上がった何らかの経緯や事情があります。これを受け入れたうえで、ご本人の経験や知識を加えていくことができると、状況はうまく回りはじめます。

しかし、このような対応ができる人はごく少数で、後者の「現状否定派」が圧倒的に多いです。
「こういう仕組みがないのはおかしい」「こういうマニュアルや資料がなぜ無いのか」など、前職と比較してのダメ出し発言が多く、「○○社では…」と言いながら元の会社の話をします。
何かにつけて他を引き合いに出してスタンダードを語る人のことを、「ではのかみ」などと揶揄する言葉があるようです。ご本人は無意識であっても、この行動パターンの人が多いと感じます。

この手の人材が入ってくると、会社の状況は二とおりに分かれます。

  • その人の行動や言動が周りから総スカンとなり、結局は本人が辞めてしまう
  • 現場のモチベーション低下を引き起こしながら居続ける

ひとつめの場合は、本人が辞めてしまった後も組織改革に関して保守的な傾向が強まり、ふたつめの場合は、現場での軋轢が生じて会社不満が増長します。どちらも良い状況ではありません。

前述の会社でも、当初想定していた大胆な組織改革の機運は、徐々にしぼんでいってしまいました。

自社の課題解決に向けて、他社事例を参考にするのはとても有用なことです。ただ、そのためには綿密な現状把握が必須であり、それを理解したうえで対策を立てて実行できる人材でなければ、他社事例を活用することは難しくなります。

他社事例というのは、言ってみれば他人が着ている洋服のようなものです。それを快適に着こなすことができるかどうかは、自分の体形やライフスタイル・デザインの好み・服自体の機能性などを、客観的に見極める必要があります。そんな時のコンサルタントは、スタイリストのような立場になるのかもしれません。

少なくとも、安易な他社事例への依存が、あまり良い結果につながっていないということだけは、心にとめておく必要があると思います。

次回は7月26日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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