第133回 制度になると既得権を生んでしまうことがあるという話

「働きやすさ」を意識したさまざまな職場環境の改善や制度の整備が行われるようになりましたが、どんなことでも制度になると、それに伴って既得権が生まれてしまうという難しさがあります。

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制度になると既得権を生んでしまうことがあるという話

近年は働き方改革の流れもあって、自社における「働きやすさ」を意識した、さまざまな職場環境の改善や制度の整備が行われるようになりました。働きやすい環境が整えられていくのは、社員にとって好ましいことですが、一方ではそれらの取り組みを「甘やかし」などと批判的にみる人もいるようです。

また、「働きやすさ」ばかり追いかけても、そこに仕事の「やりがい」が伴わなければ生産性は上がらないという調査結果があったり、環境改善が進む職場を「ぬるい」ととらえて転職してしまう若手社員がいたりするなど、そのバランスの取り方には難しさがあります。さらに、さまざまな制度の整備が進められる中で、その既得権化が目につく場面があります。

育児休業後に退職した社員の話

これは少し前にある会社であった出来事です。
中途で入社して3カ月ほどたった女性社員が妊娠したとのことで、会社は産休から育児休業の対応をすることになりました。採用面接の時は「いずれ子供は欲しいが、仕事が落ち着くまでのこれから数年は出産を考えていない」との話をしていたようなのです。しかし、こればかりは思いどおりにいかないことですので、会社からとやかく言うことはできません。

本人からは産休終了後も続けて育児休業を取りたいとの希望がありました。出産時期によっては入社1年未満になるため、会社が育児休業を認めない可能性もありえましたが、本人はできるだけ早く復職して頑張りたいとのことで、申し出を認めることにしました。

その後、2年弱が経過して育児休業が満了するところで、本人から退職の意思表示がありました。思った以上に育児が大変とのことです。さすがに会社は「約束と話が違う」と思ったそうですが、本人が何か規則違反をしている訳ではありません。所定の制度を利用しただけですし、過去の話は全て口約束のレベルです。その後、短時間勤務を提案するなどしたものの、結局は引き留められずに本人は退職していきました。在籍期間のほとんどを働くことなく終わってしまった訳です。

会社側の担当者は少し後味が悪かったようで、「もっと厳格に対応すべきだったのかも」「育児休業はどんどん利用して良いが、あまりにも会社の事情に配慮がないのはどうなのだろうか」と言っていました。

導入された制度が徐々に既得権になってしまうこと

少し昔にさかのぼりますが、当時の女性の育児支援制度で最も先進的と言われていた某大手企業が、育児短時間勤務者のシフト条件を他の社員と同等に扱うよう方針転換したことが話題になりました。売上が毎年下がる状況があり、その一因に短時間勤務者の増加で繁忙期に社員が店にいない事態が起こっており、そのことへの問題意識から実施された対策だったようです。

育児と仕事とを両立させる環境は、以前に比べればずいぶん整ってきたと思いますが、特に社員が少ない中小企業では、休業する人の穴埋めをどうするかが切実な問題となることが多いです。代わりの人の手当てはそう簡単ではありません。上司を含めた周囲の人たちが、派遣社員のオーダーや仕事の引き継ぎなどを段取りして、何とか対応しています。いくら制度があっても、それを活用するには他の社員の協力が必須という実態があります。

制度というのは、一度導入するとそれが徐々に既得権になってしまう側面があります。
ある大手IT企業の社長は、インタビュー記事の中で「豪華な社員食堂はいらない」という話をしていました。シリコンバレーのIT企業では、眺めの良い豪華な食堂で、食事を無料提供するところがありますが、そういう会社に限って「食事がまずい」などと文句をいう社員がいるそうです。形を決めるとそれがいつの間にか既得権になり、ありがたさを感じなくなってしまうので、自分はそういうものは作りたくないと言っていました。

どんなことでも制度になると、それに伴って既得権が生まれてしまう難しさがあります。私も企業人事という立場では、一方的な権利主張に何度も遭遇してきました。そういうことがあるたびに、「制度は権利だけど、もう少し使いようがあるのでは」と考えてしまうことがありました。

制度の整備には仕組みと運用とのバランスが重要

これは私が見てきた中ですが、育児休業を含めた社内制度が比較的うまくいっている会社では、関係者同士が「私もお世話になったから」とか「私の時はよろしく」など、みんなお互いさまという暗黙の了解ができていました。自分の権利だけを主張するのではなく、それを使ううえでのお互いの配慮が重要でした。

こんなことからすると、制度による決めごとばかりでなく、その場その場で周りの人たちの業務事情に応じて対応するような考え方も必要かもしれません。一方で、きちんと制度にしなければ動かないことも多々あります。
制度にすると既得権を生んでしまう場合があることを認識しながら、仕組みと運用とのバランスを考えていかなければなりません。

次回は10月22日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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