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第13回 会社行事での「良かれと思っての逆効果」のお話
社員旅行や飲み会、運動会や社内レクレーションなど、業務外の社内イベントとして、もしくは福利厚生の一環として、何らかの会社行事を行なっているところは多いと思います。
会社外の友人や家族といったプライベートを重視する世の中の流れから、会社行事は徐々に減る傾向にあったものの、最近は社内コミュニケーションの向上や、それによる仕事上の好影響があると評価され、あらためて見直す動きも出てきています。このあたりは「人事施策の一環」といえるので、私がご相談を受ける対象でもあります。
そんな中でご紹介するのは、社員数50名ほどのあるオーナー企業でのお話です。
年末のある日にお伺いすると、社長が「せっかくやったのに何だ!」「こちらの気も知らないで!」と、ずいぶんお怒りの様子です。
聞けば、「みんなで楽しめばと思って、全額会社負担の忘年会をやったが、自分がお勘定をして表に出たら、社員はすでに解散したあとで、その場には数名の社員がいるだけだった。せめて帰る挨拶とかお礼ぐらいないのか!」ということです。よほど頭にきたのか、「こんな会はもう二度とやらない!」などとおっしゃいます。
「礼儀がなっていない!」などと言いたくなる気持ちもわからなくはないですが、相手には相手の気持ちがあってのことで、こればかりは日々の関係作りやコミュニケーションの積み重ねです。自分の思い通りの反応を相手に求めるのは、なかなか難しいところです。
似たような例は、いくつかの会社で見かけたことがありますが、こうなってしまう場合の共通点があります。それは「会社の一方的な考え方で企画を進めていて、社員の感情にはあまり配慮していない」ということです。
ある会社の部長が、「若い子たちはお金がないし、たまにはいい店でご馳走してやろうと思って誘ったが、みんながみんな断ってきた」と嘆いていたことがありますが、「いい店でご馳走してもらえる」をメリットと思う部長に対して、もしかすると部下の人達は「急に誘われても・・・」「部長と飲むのはなぁ・・・」「別にそんな店じゃなくても・・・」など、デメリットの方を大きく感じているかもしれません。
この会社の忘年会の例でも、社長は「全額会社持ち」という配慮をしているつもりなのに、社員は「強制的に参加しろっていうこと・・・?」などと思っているのかもしれません。喜んでついてきていると思っていた部下が、実は気を遣って無理して付き合っているのかもしれません。やっぱり相手には相手の感じ方があります。
こういう場合の対応方法の一つとして、私はできるだけ「相手に委ねて自己決定させる」という取り組みを勧めています。
この会社で実際の人事施策として行なったのは、「社内委員会を作って会社行事の企画実施の実務を委ねる」ということでした。会社行事の企画内容に会社は口を出さず、幹事をすべて委員会の社員に任せて、会社からは経費補助だけをする形にするなど、「自己決定」の要素を仕組みの中に盛り込みました。
その結果、社員自身が良いと思う企画を考えはじめ、自ら積極的に関与するようになり、会社行事が社員の間から評価されるようになって、参加率も向上していきました。
しかし、これと同じような仕組みで実施していても、社員が今一つ積極的でない会社もありました。どうも「こうやるのが当たり前」「これは外せない」など暗黙の縛りが多々あって、幹事はこれまでの慣例に合わせて、ただ決められたことをやるだけになってしまっているようでした。「自己決定」ができる仕組みのはずが、実態は「やらされ感満載」ということです。
会社行事の実施方法や内容については、各企業の社長をはじめとした経営陣、人事ご担当の方々、部下を抱えたマネージャーの方々は、皆さんずいぶん気を遣っていらっしゃいます。
立ち入りすぎては嫌がられますし、かといって放任しすぎてはコミュニケーションギャップが広がって、仕事上の問題も出てきかねません。
この距離感はとても難しいところですが、せっかく会社側が気を遣い、良かれと思ってやっていることが逆効果になってしまっていては、あまりにもったいない感じがします。
私の経験では、やはり「相手に委ねる」「裁量を与える」「自己決定させる」ということが、何事においても重要なことだと思います。
「この店、高いんだぞ」などと言って自分の行きつけの店に連れて行くばかりでなく、できるだけ「自己決定」をさせて、相手のテリトリーに入っていくことも必要ではないかと思います。
次回は月10月21日(火)更新予定です。
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