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第62回 「優秀な人材」のとらえ方は千差万別という話
「優秀な人材」を求めているのは、どの会社でも同じですが、その人材像を具体的に説明できる会社は意外に少なく、「優秀な人材」の定義は、会社ごとやそれをいう人の立場によって、とらえ方は千差万別です。
「優秀な人材」のとらえ方は千差万別という話
企業の現場では、常に「優秀な人材」を欲しています。これはどの会社でも共通の想いでしょう。
経営者をはじめ、採用を担当する社員は、「優秀な人材」を自社に入社させることに全力で取り組み、現場のマネージャーや先輩社員、同僚は、「優秀な人材」をいかに育てるかということに心を砕いています。
ただ、こんな皆さんに「優秀な人材とは具体的にどんな人か?」と尋ねると、意外にはっきり答えられないことが多いものです。
よく挙がるのは「リーダーシップがある」「コミュニケーション能力が高い」「協調性がある」「積極性がある」「打たれ強い」などですが、それぞれ「何をどのくらい」なのかは、抽象的でよく分かりません。
中には「有名大学出身」「○○資格を持っている」「テストの点数」「学校の成績」などという人もいますが、これらは全て、ある分野に限った過去の成果です。「勉強ができる人」であることは確かですが、それが今の仕事にどう活きるのかは不透明なところがありますし、「○○資格」も同じく実務能力が問われます。このことだけで「優秀な人材」とは言い切れないでしょう。
これはある会社でのことですが、社長は「うちの社員はみんな優秀だ」と胸を張って自画自賛します。社員の頑張りに対する感謝の気持ちから、こういう褒め方をする経営者はよくいますが、この社長に具体的に何が優秀かを聞くと、「気が利く」「信頼して任せられる」と言います。
ただ、私がこの会社の人たちと接して思ったのは、特にマネージャークラスの人たちが、良くも悪くも全てが社長中心で、自分たちでは判断せずにいつも社長の意見を求め、それを忠実に守ろうとしていることでした。
そのせいで、取引先に無理を言ったり、時に強引であったり、配下の一般社員に対しても、同じような対応が見受けられます。「社長以外の誰か」には優しくないのです。
社長本人は傲慢(ごうまん)でも威圧的でもありませんが、経営者然とした厳しい雰囲気がある人です。マネージャーたちは、そんな社長から叱責を受けないようにと、過度に気をつかっているように見えます。
社長にとっては「気が利く」「信頼して任せられる」と見えているかもしれませんが、常に社長の指示や意向ばかりを優先するわけですから、判断力や調整能力が乏しく見えます。これは社長にとって扱いやすいだけで、本来の「優秀」の定義とは少し異なります。
最近よく言われる「優秀な人材」の定義として、「自律的に判断して、自発的に動ける人」というものがあります。これを実践できる人がいれば、確かに優秀には違いありませんが、もしもこの「自律的、自発的」が組織の中で無制限に行われると、それはそれで困ったことが起こります。
「自律的、自発的」は、裏を返せば「いちいち指示を仰がない」ということでもあり、そうなれば経過報告をはじめとしたコミュニケーション量は少なくなり、上司や周りの人は、指示した仕事がどうなっているかが分かりづらくなります。
組織の中での「自律的、自発的」には前提があり、それは「会社が想定する範囲内」ということです。この範囲がどのくらいかは会社によって違いますし、対象が誰かによっても違います。信頼できる人であれば、細かい報告は不要でしょうが、そうでない人が「自律的、自発的」に動いては、会社としては困ります。組織として扱いづらくては、「優秀な人材」とはいえません。
例えば一流大学出身のMBA取得者は、世間一般から見ればとても優秀ですが、家族経営の零細企業などからすれば、何をしてもらえばいいのか分からない人です。必ずしも活躍の場がないことも多く、その会社にとっては、必ずしも「優秀な人材」ではないということになります。
研究職のような個人作業が中心の仕事であれば、コミュニケーション能力は第一優先ではありませんし、リーダーシップが強い人ばかり集まっても、組織としてはバランスを欠きます。
このように、「優秀な人材」というのは、その会社の状況や置かれた立場によってとらえ方が違い、かなり感覚的なところが多いのです。
私はこの「優秀な人材」を定義するとき、「自社の事業内容、仕事内容に親和性が高く、これを発展させられる人」と言っています。会社、個人によって、とらえ方はみんな違うのです
「優秀な人材」を明確に答えられないとはいっても、ほとんどの会社は、自社に合った「優秀な人材」の感覚を持っています。ただ、その認識合わせができていないため、うまく言葉にできません。言葉にできると、みんなの感覚が合ってきて共通認識が進みます。
もしも早期離職や入社時の過大評価、仕事上のミスマッチが見受けられるなら、「優秀な人材」のとらえ方がずれているかもしれません。いま一度、自社にとっての「優秀な人材」はどんな人なのか、見直して言葉にしてみることをお勧めします。
次回は11月27日(水)の更新予定です。
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