第15回 優秀な人材に惑わされた会社のお話

企業の採用活動の現場にいると、「優秀な人を採用したい!」という言葉をよく耳にします。どんな会社でも共通の想いでしょう。
特に中小企業の場合は、有能なエース人材が一人いれば、今まで進まなかった改革がうまく回るというようなイメージで考えていたりしますので、なおさら「優秀な人材を!」と言います。

そのような気持ちもわからなくはありませんが、これは「優秀な人材」に惑わされ、結果的にはそれを見誤ってしまった、従業員100名ほどのIT系企業のお話です。

この会社では、開発部門をてこ入れするため、この部門を統括できるマネージャー職を募集していました。技術者の流出や顧客との品質トラブルなどがあり、前任のマネージャーに問題ありと判断されたためです。
そこへ、ある人材紹介会社を通じて応募してきたのが、某大手企業出身で一流大学卒のAさんでした。年令は40代前半で、前職では部長代理職。大きな開発プロジェクトをいくつも経験しており、マネージャーの経験も多かったようです。経歴を見れば文字通りのエリートと言ってよい「優秀な人材」です。

そもそもこの会社には、そんな有名大学の出身者は、社員どころか過去の応募者でもあまり出会ったことがありません。自社に初めて応募してきたエリート人材ですから、社長をはじめとした関係者一同も「優秀な人材が来た!」と喜びました。

そのAさんと実際に面接をしてみると、温和そうな性格、理路整然とした話し方など、人柄も申し分なさそうです。関係者の気持ちはさらに舞い上がり、何とかして入社にこぎつけようとして、一生懸命に期待感を伝え、新たなポストを用意し、給料も特別な待遇を提示しました。
その甲斐あって、Aさんはめでたく入社することとなり、社長をはじめ、「これで会社も良い方向に発展する!」と、非常に喜んでいました。

しかしその期待は、Aさんの入社直後から急速にしぼんでいきます。
まず大手企業出身のAさんは、いろいろな仕組みが整ったところから来たため、この会社の実態に驚きます。中小企業では当たり前のことですが、システム化されていないことも多いですし、細かな事務処理も自分でしなければなりません。
「こんな書類がいまだに手書きなのか」「こんな情報さえも未整理でチェックできないのか」と、前職と比べての指摘が頻繁に出てきます。

また、Aさんは自分からあまり動こうとせず、どちらかといえば社長や役員たちからいろいろなことを相談されるのを待っている様子が伺えます。望まれて入社したと思っているAさんからすれば、当然だったのかもしれません。
しかし、周囲の視線は「あの人はいつまでたっても何もしない。」と、どんどん冷たくなっていきます。

結局その4カ月後、残念ながらAさんは退職していくこととなってしまいました。理由を一言で言ってしまえば「ミスマッチ」で、特にこの企業とAさんが育ってきた大手企業との環境の違いなど、双方がそのギャップを認識できていなかったことが大きかったようです。

この会社の例で起こってしまった「ミスマッチ」の大きな原因は、世間一般でいう「優秀な人材」の定義を、そのまま自社に持ち込んでしまい、実際の仕事内容や企業風土と本人の特性が合っていなかったということです。

「優秀な人材ってどんな人ですか?」と尋ねると、意外にはっきり答えられない企業が多いものです。
「リーダーシップがある」「コミュニケーション能力が高い」「協調性」「積極性」…、また「有名大学出身」「○○資格がある」「テストの点数」「学校の成績」などという方もいます。どれも間違ってはいませんが、前段は抽象的、後段は過去の成果やブランドなので、これだけで優秀と言い切るには不確実だと思います。

感覚的な捉え方が多い「優秀な人材」ですが、私がこれを定義する時には「自社の事業内容、仕事内容に親和性が高く、これを発展させられる人」と言っています。
例えばMBAホルダーは、世間一般から見ればものすごく優秀な人ですが、零細企業の町工場などからすれば、その知識を活かす場面はそれほど多くないように思います。町工場にとってのMBAホルダーは、必ずしも「優秀な人」ではないということです。

採用のミスマッチというのは、実はこんな単純なところに原因があるものです。
過去の経歴や、その人のブランドばかりに注目してしまった場合、往々にしてミスマッチが起こりがちです。何より本人も、自分の強みを活かせない訳ですから、それではやりがいを見出すことができないでしょう。

もしもミスマッチが見受けられるのであれば、今一度、自社にとっての「優秀な人」はどんな人なのか?をしっかりと見直す必要があると思います。自社にとっての「優秀な人」の認識合わせをしてみると良いのではないでしょうか。

次回は月12月24日(火)更新予定です。

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