第19回 運送業の改善基準告示対応~(8)残業時間管理~

前回は、「分割休息の取得」について解説をしました。今回は、「運送業の2024年問題」などで重要視される内容の「残業時間」の管理について触れます。

運送業の改善基準告示対応~(8)残業時間管理~

前回のコラムでは、連続で8時間の休息期間を確保できない場合の運行に対応するための「分割休息の取得」についてお話ししました。現実的な運用ではありますが、レギュラー運用ではなく、あくまでイレギュラー運用であることを理解しておいてください。
今回は「残業時間」の管理についてのお話です。これは改善基準告示に含まれるものではないのですが、「運送業の2024年問題」などで重要視される内容ですので、改善基準告示のシリーズで取り上げておきたいと思います。

2022年3月時点では、運送業のドライバー職に時間外労働の上限規制はない

2020年に巷(ちまた)で話題になった働き方改革は、新型コロナウイルスのまん延により働き方そのものに変化があったこともあって、最近あまり聞かなくなりました(世の中に浸透したからということもあるのでしょうね)。
その働き方改革とは、働き方改革関連法という法律の制定によって新しい働き方のルールが決められ、代表的な項目に「時間外労働の上限規制」がありました。あらためて内容を確認しますと、一部の事業・業務を除いて「時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とする」というものでした。また、臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間を超えないようにというルールが決められています(まだほかにも細かいルールがありますが、ここでは割愛します)。

一部の事業・業務を除いて、と書きましたが、この中に運送業が含まれています。そのため現時点では(2022年3月時点)、運送業のドライバーに時間外労働の上限規制はないことになります。
運送業は2024年3月31日まで適用が猶予されていて、2024年4月1日からいよいよ適用されるようになることから、これを「2024年問題」と呼んでいます。これは以前のコラムでお話ししたとおりです。
残業時間管理が難しいといわれている運送業でも、いよいよ精緻に時間管理しなければならない時が来たということですね。

運送業の時間外労働の上限ルール(2024年4月から)

運送業の時間外労働の上限規制は、年間960時間になります。既に上限規制が開始されている職種よりも240時間も多いのですね。業種自体が長時間労働と認識されているということでしょう……。ただし1カ月あたりの上限はありません。
時間のルールでいうとこういうことなのですが、実際に時間管理の運用を行おうと思うといろいろと問題が起こりそうです。

出勤、退勤の時間はどのタイミングか?

一般的な職種であると、出勤時間が決められていますし、終了時間も決まっていると思います。タイムカードを押すタイミングなど、分かりやすい区切りがあります。しかしながら、ドライバー職の場合は、毎日出発する時間が違う、また長距離運行に出たときなどは、開始、終了のタイミングが分かりにくいなど、いろいろと時間の区切りが不明確になりがちです。 本来、長距離運行の場合は、運行指示書に記載されているとおりに運行すべきですが、現実と乖離(かいり)する場合も多くありますから。

また、慣習として

出勤・退勤=出庫・帰庫

となっている場合が多く、車両に乗って出発した時が出勤、車庫に帰ってきた時が退勤、と捉えられていることが多くあります。
これ、実は間違いなのです。正確には、

出勤→出庫→帰庫→退勤

となります。
このあたりの業務の流れをしっかりと見直していく必要があるのです。
ほかにも、「休憩=休息」と捉えられているケースも多くあります。

以前のコラムでも触れましたが、休憩はあくまで、拘束時間内であって、完全に自由な時間である休息期間とは違います。休息期間は、自宅もしくは同等の場所で完全に自由な状態になっていなければいけません。これを間違えてしまうと、拘束時間が長時間となり、全て残業時間となってしまうだけでなく、「拘束時間エラー」、「休息期間エラー」といった改善基準告示エラーも同時に発生することになります。
そのため、社内ルールの整備、言葉の統一、ドライバーへの説明など、非常に多くのことをやらなければいけないのです。

まずは出勤時間と退勤時間を明確にすることから

これが最も先にすべきことです。始まり(出勤)と終わり(退勤)とが明確にならないと、残業時間の管理はできません。これは2024年から開始するのではなく、今からやらないといけないことです。実は運送業の未払い残業問題もほとんどこれが原因で訴訟が起きています。
未払い残業問題に関しては、過去2年が訴訟対象期間であったものが、今後は3年となる予定ですから、2024年になった時点では2021年から始めていなければ時間がとれていない状況になるのです。
全く労務管理を行っていない会社は、今から始めるのがギリギリのラインです。難しく思われるかもしれませんが、実際にやれている会社があり、現実的に行える方法があることですから、自社の体制に合わせてシステムや、管理人材などいろいろと取り入れていただき、良い体制を作っていただければと思っています。

次回は4月15日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社AppLogi 代表取締役

廣田 幹浩

国内大手コンサルティング会社SCM&ロジスティクスソリューショングループ グループマネージャー職を経て現職。300社を超える荷主向け物流効率化、数100社超の運輸・配送関連経営コンサルティングの実績をベースとして、2018年に株式会社AppLogiを設立。最新の運輸・配送関連クラウドアプリケーションを提供する。
株式会社AppLogi

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