ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第35回 運送業の労務管理のデジタル化~(1)運送業の労務管理の必須ルール
前回のコラムでは、デジタル化のためのツールについてお話をしました。今回から運送業の労務管理をデジタル化していくためのさまざまな施策を検討していこうと思います。初回は運送業の労務管理の必須ルールについて考えます。
運送業の労務管理のデジタル化~(1)運送業の労務管理の必須ルール
前回のコラムでは、意外と導入されていないデジタル化のためのツールについてお話をしました。デジタル化、DX化が進むにあたってリアルタイム性はどんどん高まっていきます。その情報をいかにすばやく確認し、判断を早めていけるかがDXの本質の一つであると思います。すばやく確認するためには先にご紹介した「大型モニター」や、モニターに投影するためのツールである「Chromecast」は必須アイテムですね。ぜひ試してみてください。
今回のコラムから運送業の労務管理をいかにデジタル化していくか? という観点から、さまざまな施策を検討していく内容を掲載していこうと思います。今回は運送業の労務管理の必須ルールです。
いろいろとやらなければいけないことは多いが、これだけはやっておかなければいけないこと
運送業は、数ある業種・業態の労務管理の中でも、コンプライアンスが順守されていないと評されることが多い業種です。リアルな物体を移動させるということが基本業務であるため、世の中のビジネススピードが速まるほどに忙しくなる業種です。そのため慢性的な長時間労働になる特性があります。それだけに精緻な労務管理が必要で、行政からの指導やトラック協会などからの指導も細かに行われていますが、他業界と比較して労働問題が解消されているとはなかなか言い切れません。
2024年問題をはじめとして、行政からのコンプライアンス順守に関する指導はこれからより強くなるでしょうし、ドライバーからは未払い残業問題など、民事的な問題の発生数も増加の傾向にあるようです。やらなければならないルールがまだちゃんとできていないのに、そのルールがどんどん厳しくなってくるといった状況です。
そのような状況ですから、もはや何から始めればよいか分からないので諦め体制だというのが実運送会社から聞こえる状況です。確かに今、やらなければならないことができていないのにハードルだけが上がっていくというのは、学校の勉強でいうと分からないことがたくさんある状況で学年だけが上がっていくようなイメージです。だからといって「いまさら何からやればよいのか、よく分からないし、周囲の友達もできないって言っているので、まあいいか」となるわけにはいきません。
「ルールを守ろうとして守れていない」のと、「守ろうともしていなくて守れていない」のとは、将来的に雲泥の差があり、行政からの見え方も、ドライバーからの見え方も違います。だからまずは、ルールを守ろうとする姿勢が必要です。
ここでいう守ろうとしない姿勢とは、労務管理の基本、「出勤時間」と「退勤時間」をあいまいにすることです。つまり守ろうとする姿勢とは、これを明確にすることなのです。ここが入り口です。
「出勤時間」と「退勤時間」とを明確にする
「出勤時間」と「退勤時間」とを明確にする。これは本コラムでも掲載させていただいていることですが、何度もお伝えするぐらい重要なことです。
運送業の労務管理とは、大きく捉えて「拘束時間」「労働時間」「休憩時間」「休息期間」を管理することです。「出勤時間」と「退勤時間」とが分かっていないと、2024年問題をはじめとする「残業時間管理」、改善基準告示で求められている、「拘束13(16)時間」「休息期間8時間」などは管理しようとすること自体ができません。しかし実態はというと、感想レベルではありますが、中小運送会社の半数以上はこの時間を管理できていません。ほとんどの企業は「出庫時間」「帰庫時間」です。これはあくまで運行(運転)を始めた時間、車庫に戻ってきた時間であって、仕事を開始・終了した時間ではないと判断されることが多くなっています。つまり労務問題に直結します。
残業問題訴訟でもこの時間が管理できていないため、ほとんどのケースで会社側が敗訴するようになっています。
労務管理の全てのスタートは、「出庫時間」「帰庫時間」の記録です。長距離運行の際にもしっかりと確認することが必要です。まずはここから始めてみましょう。
必ずできます。
次回は12月9日(金)更新予定です。