第49回 運送業の残業代の支払い方

前回のコラムは、「運送業の2024問題」の政府から発表された「トラックGメンの設置」について情報を整理しました。今回は、運送業の2024年問題で焦点となることが多い残業の話題から、特に残業代の支払い方について、正しい方法をあらためて確認します。

運送業の残業代の支払い方

前回のコラムは、政府が発表した「運送業の2024問題」に対応するための政策パッケージに記載されている「トラックGメンの設置」についてお話しさせていただきました。

発荷主企業のみならず、着荷主企業も含め、適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請け事業者の監視を強化するために、行政主導のGメンが動き始めるという内容です。法規制は順守されることが前提ですから、定着するまでには行政の力が必要になると思います。個人的には運送業のためになる施策と捉えており、大きく期待しています。

さて今回は、運送業の2024年問題で焦点となることが多い残業に関する内容です。残業時間の上限規制が960時間になりますが、そもそも残業代の支払い方について正しい方法をあらためて確認しておく必要があります。「正しいと思っていたことが実は間違っていた」本年から2025年に掛けてそのようなことが多く発生するのではないかと思っています。

違法な残業代の支払い方

運送会社の賃金の支払いでは、下記のような方法が採られていることがあります。

  • 業務内容に応じて月ごとの賃金総額が決まっている(例えば50万円)
  • 給与内訳は、
    1. 基本給
    2. 歩合給
    3. 時間外手当 の3種類

時間外手当の計算式は、
賃金総額(50万円)−(1)基本給−(2)歩合給=(3)時間外手当

この計算式をもって時間外手当はしっかりと払っていますよ、と主張されている場合があります。このパターンは想像以上に採用されているケースが多いようです。結論としては違法です。なぜなら、時間外手当と言いつつ、(1)基本給と(2)歩合給とを引いただけで、残業時間という概念が全くなく、そもそも内訳の意味をもっていないためです。

また、これを改良したパターンとして、下記のパターンに変更した例があります。

  • 業務内容に応じて月ごとの賃金総額が決まっている(例えば50万円)
  • 給与内訳は、
    1. 基本給(前例より増額)
    2. 歩合給(前例より大きく減額)
    3. 勤続手当(新設)
    4. 時間外手当
    5. 調整手当(新設) の5種類に変更

労働基準法に適用されるよう、(1)基本給(2)歩合給(3)勤続手当の三つを基礎とし、(4)時間外手当を計算、総額からこの(1)〜(4)を引き、その余りを(5)の調整給として支払って、賃金総額は変わらないようにするという仕組みです。

(2)の歩合給を大幅に下げることで、時間外手当の単価を下げ、差額に当たる金額を調整金として支払う仕組みとすることで、(4)の残業手当が増えれば、(5)の調整給が減り、残業手当が減れば調整給が増えるという、賃金総額は同じになる仕組みを考えたのでしょう。

最高裁判所の判決

一見、適法に見えるのですが、この方法は、2023年3月1日に最高裁で違法として判決が出ました。最高裁の指摘は以下です。

新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。

今回の割増賃金全体を含めた賃金体系は、労働基準法の割増賃金を発生させない目的であり、時間外労働の対価として支払っていると評価できないという判断です。

「本件割増賃金のうち、どの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない」として、固定残業代が有効とされるための明確区分性要件も否定されると判断されています。

要はいくら働いても、給料の総額が同じというのはおかしいでしょうと、こういった引き算方式の給与体系を違法と判断したとも捉えられます。

弁護士事務所の指摘

本件に詳しい、弁護士法人戸田労務経営の労働問題総合相談サイトでは、「重要なのは残業代の支払いが判別可能なのかどうかという点である」と指摘しています。これは全くもって指摘のとおりで、当社が支援する企業も当初は出勤時間と退勤時間とが不明確で、残業時間が不明確であるため、残業代の支払いも判別不可能である場合が多くなっていました。

労働問題総合相談サイト

本件はもらえる運賃の中でやりくりを検討した結果、行き着いてしまった賃金体系とも捉えられます。2024年問題とは、残業時間の上限規制のためにドライバーが確保できなくなるという問題にフォーカスがあたることが多いですが、実は長時間労働問題と、残業手当支払問題との両方であると考えられます。

次回は7月7日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社AppLogi 代表取締役

廣田 幹浩

国内大手コンサルティング会社SCM&ロジスティクスソリューショングループ グループマネージャー職を経て現職。300社を超える荷主向け物流効率化、数100社超の運輸・配送関連経営コンサルティングの実績をベースとして、2018年に株式会社AppLogiを設立。最新の運輸・配送関連クラウドアプリケーションを提供する。
株式会社AppLogi

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