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第38回 2023年の運送業の労務管理のポイント
2024年4月から開始される運送業などの諸制度の変更が適応されます。今年は、その準備にあてられる最後の年といえます。2023年最初の今回は、どういった準備、対策を行うべきか概要をまとめました。
2023年の運送業の労務管理のポイント
2023(令和5)年が始まりました。
運送業は、本年は翌年(2024年)からスタートする運送業関連の諸制度の変更に対応するための準備期間のラストスパートにあたる年になります。ご存じのとおり、諸制度の変更とは2024年4月から開始される運送業などの業種へ「(1)働き方改革関連法が適用」されることをはじめに、同時に運行管理に大きく関連する「(2)改善基準告示」も変更されることを指しています。両方に共通しているのは、時間管理がより厳しくなり、処分も厳しくなることです。
この諸制度の変更に対応するために社内体制をつくりかえる企業、対応するのは無理だと諦めてしまう企業、監督官庁の行動の様子を見てから対応を考える企業、さまざまな企業が存在します。ただ理解しておかなければいけないのは、業界は改善されていく方向にあるということです。
変化に体をあわせることができないと大変なことになってしまいそうです。
このタイミングをチャンスと捉え、中小運送業の皆様は社内体制を変革していくことで、50年企業、100年企業となるための「体制づくりをする年」とすることができるのではないでしょうか。
ドライバー不足解消につながる「法の遵守」
前述の諸制度の変更(1)「働き方改革関連法が適用」、言い換えれば運送業の2024年問題については、年間残業時間960時間規制の適用が焦点となります。
諸制度の変更(2)については、拘束時間や休息期間、休憩時間の基準が上がることが焦点です。
両方とも時間についての数値基準が具体的な数値で厳しくなることを指しています。運送業といえば昔は「危険」「長時間」「きつい」というイメージがありました(今はそうではないことが多いですが)。今はトラックに装備されている機器類のレベルも上がり、安全に関する環境のレベルは大きく向上しました。また、作業内容についてもバラ積みバラおろしなどのきつい仕事も比較的減ってきています。しかしながら長時間の部分だけは解消できないまま、現在まで来ているのです。
これが若い年齢層から就職を敬遠され、ドライバー不足に大きく影響しているともいわれています。結局のところ就職状況全体を見たときには、残業も少なく、給料は他社と比較して納得のいく金額をもらうことができ、将来性のある運送会社に人は集まっているようです。これはどの産業にもいえる原理原則ではありますが、運送業にはそのギャップがとても大きいように見えます。
一概にはいえませんが、成長性があり、他業種より給料が比較的高く、家族と過ごす時間があるという企業が選ばれる傾向にあります。そりゃそうだという話ですが、現実がそうではない場合、軌道修正が必要です。そのタイミングが今ではないかと思います。
高収益体質へシフトするための構造変更
時間だけを短縮するのにも限界があります。時間が短くなっても企業の売上・利益が減ってしまったり、ドライバーへの給与支払額が極端に減ってしまって退職してしまったりでは、経営上の問題が大きくなってしまいます。収益の構造変更が必要です。
構造変更とは、売上と経費の構造変更のことをいっています。基本的構造として、運送業の場合は長期的には運賃は低下傾向、原価や経費は増加傾向という大変な業種です。イメージするための数値を挙げてみると、既存売上に対して前年対95%、原価・経費は105%というところでしょうか。そのためほとんど利益が上がらないという企業が多くあります。
これを最低でも、売上105%、原価・経費を100%という体制にもっていかなければいけません。本当の意味での5%成長です。
諸制度の変更が厳しく行われるなか、同じ経費で運用するのはなかなか大変です。絶対的な必要投入時間を変えずに、同じ業務を行おうとするのであれば、人員の増加は必要になります。ただ人は増えても同じ原価・経費で運用するというのが第一段階です。同時に売上額を確保するには、やはり運賃値上げは避けて通れないでしょう。世の中のインフレも後押しして、このタイミングを逃してしまうと自社だけがデフレと同じ環境になってしまいます。
このようなことを考えながら、2023年は準備期間としてかなりの試行錯誤を行わなければならない年になると思っています。
今後も、毎日の運送会社さんとのミーティングの中から、より具体的な行動内容を発信していきたいと思います。
次回は1月27日(金)更新予定です。