第96回 運送業の行政処分への対応(2) 運送業の行政処分、再発防止に不可欠な教育と共有体制

前回のコラムでは、運送業における行政処分の種類や具体的な違反事例、そして処分が経営に与える深刻な影響についてお話ししました。今回は、重大な事例を契機に「再発防止に必要な社内教育と情報共有体制」について掘り下げていきたいと思います。

運送業の行政処分への対応(2) 運送業の行政処分、再発防止に不可欠な教育と共有体制

前回のコラムでは、運送業における行政処分の種類や具体的な違反事例、そして処分が経営に与える深刻な影響についてお話ししました。特に点呼や労働時間の記録が紙ベースや属人的な管理にとどまっていると、法令違反のリスクを抱えやすく、それがそのまま営業停止や車両使用停止といった処分につながるという点を管理者は必ず理解しておかなければいけません。

そうした中で、つい先日、運送業界にとって非常に象徴的な出来事がありました。2025年6月25日、国土交通省関東運輸局は、日本郵便の一般貨物自動車運送事業について、事業許可の取り消しという極めて重い行政処分を発表しました。背景には、全国3,188局のうち26局において点呼未実施や点呼記録の虚偽記載が相次いで確認され、違反点数が197点に達したことがあります。

この結果、約2,500台のトラックが5年間運行停止となり、運行管理者211人の資格取り消しという処分も併せて行われるという、前例のない事態となりました。このニュースは、運送事業者であれば人ごとではありません。どれだけ大手企業であっても、点呼や記録の運用が形式的・属人的になっていれば、同様の処分リスクは常に存在するということを強く示しています。

そこで今回は、この重大な事例を契機として、「再発防止に必要な社内教育と情報共有体制」について掘り下げていきたいと思います。DXを進めるうえで、“制度”と“運用”との両面から体制を整えることがなぜ重要なのか、具体的な方法と併せて考えてみましょう。

社内教育の見直しが不可欠

行政処分に至る背景には、点呼や安全運行に対する知識・意識の欠如が少なからず存在します。例えば「点呼の必要性を知らなかった」「飲酒チェックが努力義務と思っていた」など、基本的な理解不足によって違反が発生するケースは意外と多いものです。

まず必要なのは、運行管理者やドライバーを対象とした年次・月次研修の実施です。点呼の手順や必要な記録項目、アルコールチェックの対応など、実務に直結する内容を繰り返し学べる仕組みが求められます。また、過去の違反事例を基にした事故事例共有や、eラーニング+確認テストの導入も、理解の定着に効果的です。
あらためて知っておきたいのは、知らないことを守ることはできないということです。

情報共有の「見える化」が再発防止の基盤に

次に重要なのが、「誰が、何を、いつ、どこで実施したか」を関係者全員が把握できる体制です。例えば、点呼記録や勤務時間が個別の紙台帳やExcelに分散していると後からの確認や集計が難しくなり、リスクの発見が遅れてしまいます。

こうした課題を解決するには、やはりシステム化です。点呼記録・勤怠・拘束時間などのデータをリアルタイムで集約・共有できる仕組みを整えることが重要です。未実施点呼があれば自動でアラートが出る、拘束時間の上限に近づけば管理者に通知が飛ぶといった仕組みがあれば、現場でのミスも未然に防ぐことができます。

もちろん、情報共有の仕組みはデジタルに限ったものではありません。例えば、点呼漏れや拘束時間超過の注意点を朝礼や夕礼で口頭共有する、月初に各拠点の状況を紙資料にまとめて掲示するなど、アナログな方法でも意識づけと情報の伝達は十分に可能です。大切なのは、現場と管理部門の間で“気づける体制”を継続して築くことです。

まとめ

行政処分は、単なる罰ではなく、現場や組織全体の課題をあぶり出す「警鐘」です。処分をきっかけに社内教育と共有体制を見直し、現場力を底上げすることができれば、むしろ会社の強化につながるチャンスともいえます。日々の積み重ねこそが、安全・安心な運行体制の土台となるのです。

次回は7月25日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社AppLogi 代表取締役

廣田 幹浩

国内大手コンサルティング会社SCM&ロジスティクスソリューショングループ グループマネージャー職を経て現職。300社を超える荷主向け物流効率化、数100社超の運輸・配送関連経営コンサルティングの実績をベースとして、2018年に株式会社AppLogiを設立。最新の運輸・配送関連クラウドアプリケーションを提供する。
株式会社AppLogi

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