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第95回 運送業の行政処分への対応(1) 運送業における「行政処分」とは何かをあらためて考える
前回のコラムでは、給与DXの実践に向け、制度の現状を正確に把握することの重要性についてお話ししました。今回からは新たなシリーズとして「行政処分への対応」をテーマに取り上げていきます。その内容や影響、そして対応方法について、あらためて整理しておきたいと思います。
運送業の行政処分への対応(1) 運送業における「行政処分」とは何かをあらためて考える
前回のコラムでは、運送業における給与DXの実践に向け、まず制度の現状を正確に把握することの重要性についてお話ししました。単にツールを導入するだけではなく、データの整理や制度設計との両輪で取り組むことが不可欠だという話でしたね。
さて、今回からは新たなシリーズとして「行政処分への対応」をテーマに取り上げていきます。運送業界においては、労働時間や点呼記録、車両整備、輸送の安全確保など、さまざまな法令順守が求められています。それらが不十分だった場合に科される「行政処分」ですが、その内容や影響、そして対応方法について、あらためて整理しておきたいと思います。
運送業への行政処分とは何か?
「行政処分」とは、運輸支局などの行政機関が、事業者に対して行う公的な制裁措置のことです。運送業における代表的な行政処分には、次のようなものがあります。
- 事業停止処分:一定期間、営業自体ができなくなる処分
- 車両使用停止処分:特定または全車両の運行を一定期間停止される処分
- 警告・指導:文書または口頭による軽度の行政対応
- 許可取り消し:悪質または継続的な違反がある場合、事業そのものが認められなくなる処分
違反の内容によって処分の重さは異なりますが、近年ではとくに「過労運転」「点呼の未実施」「整備不良」「速度違反」など、ドライバーの安全・健康に関わる項目が重点的にチェックされています。上記の内容は「運転日報」「運行前点検」「点呼記録」などに情報が凝縮されているため、この書類が整備されていないと指摘されるのはこの理由です。
行政処分が企業にもたらす影響
行政処分の怖いところは、「一度処分を受けると、それが事業の継続や信用に直結する」という点にあります。例えば営業停止処分を受ければ、その間の売上がゼロになるだけでなく、荷主からの契約解除や、グループ会社への波及といった二次的な影響も想定されます。
また、違反歴が公表された場合、信用調査会社のレポートやネット上に記録が残り、採用活動や新規取引にも支障をきたすおそれがあります。昨今ではインターネット上に半永久的に残ってしまいます。行政処分は単なる「罰則」ではなく、「経営課題」そのものであるといえるでしょう。
なぜ違反が起きてしまうのか?
では、なぜ行政処分に至るような違反が起きてしまうのか。現場の声を聞いてみると、「違反の認識がなかった」「人手不足で対応できなかった」「紙の記録ではチェックが追いつかなかった」など、いずれも仕組みの限界が見えてきます。
このような違反の背景には、多くの場合「属人的な管理」「データの散逸」「情報の共有不足」といった要因があります。そして、これはDXの力で改善できる部分でもあります。
対応の第一歩は可視化から
行政処分を受けないための第一歩は、現場で何が起きているかを「見える化」することです。点呼の記録、拘束時間の集計、整備記録の保存など、どれも日々の業務の中に埋もれがちな情報ですが、それをシステム上で一元管理すれば、チェック漏れや記録不備のリスクを大幅に減らすことができます。
今後、システム化を検討する際には、点呼記録や運転時間の管理をクラウド上で一元化できる仕組みを検討すべきでしょう。属人的な管理から脱却し、運送業の現場におけるリスクをシステムで支援する体制を整えることが、ますます重要になっていくでしょう。
次回は7月11日(金)更新予定です。