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第102回 2026年の運送業~業務記録は「残す」から「通用する」へ~
前回のコラムでは、2026年以降の監査対応が「実施しているか」ではなく、「証明できるか」の時代に入るというお話をしました。今回は、そこに対応する第一歩として、業務記録を「通用する証拠」に変えるための棚卸しと確認ポイントを書類別に整理してお伝えします。
2026年の運送業~業務記録は「残す」から「通用する」へ~
前回のコラムでは、2026年以降の監査対応が「実施しているか」ではなく、「証明できるか」の時代に入るというお話をしました。つまり書類別に見直す証拠性のポイントが必要になるということになろうかと思います。
今回は、そこに対応する第一歩として、業務記録を「通用する証拠」に変えるための棚卸しと確認ポイントを書類別に整理してお伝えします。
なぜ「記録の棚卸し」が必要なのか?
多くの運送会社では、記録類が以下のようにバラバラに管理されているのが実情かと思います。
- 点呼記録は紙台帳
- 勤怠はタイムカード+Excel
- 配車指示はホワイトボード
- 整備記録は車両別ファイル
- 運行指示書や日報はドライバーが個別(個人)で作成
作成したものをいずれも「残している」つもりでも、どこに、誰の記録が、どの形で、どれだけ保管されているかが把握されていないケースが大半です。この状態では、2026年以降に「出せない=ない」と判断されるリスクが極めて高くなります。
書類別にチェックしたい「証拠性の基準」
記録の棚卸しをする際には、単に「書類があるか」ではなく、その書類が監査で通用するかどうかを以下の観点でチェックしてください。
1. 点呼記録簿
チェック項目 | 確認ポイント |
---|---|
保存形式 | 紙 or デジタル、または両方 |
記録項目 | 実施者名/アルコールチェック結果/時刻/署名の有無 |
改ざん対策 | 日時の自動記録・修正履歴が残るか |
保管期間 | 1年間以上、即時提示可能か |
注意点:印がない・実施者が記載されていない・時刻が抜けている記録は“未実施”と扱われます。
2. 勤怠記録(出退勤)
チェック項目 | 確認ポイント |
---|---|
入力方法 | タイムカード/ICカード/アプリ/手書き |
データ性 | 出勤・退勤のタイムスタンプが記録されるか |
改ざんリスク | 打刻者の本人性、重複入力の排除 |
連携性 | 運行記録や点呼記録と矛盾しないか |
注意点:「手書き+Excel転記」形式では改ざんの疑いを否定できず、証拠性が極端に下がります。
3. 運行指示書・配送依頼書
チェック項目 | 確認ポイント |
---|---|
発行ルール | 誰が・いつ・どの形式で作成しているか |
電子記録性 | 配車内容・荷主依頼・配送先情報が保存されているか |
指示証明性 | 口頭指示だけでなく、記録に残っているか |
注意点:実運送と指示書内容がズレている場合、「指示があった」と主張できないため、法的リスクに発展します。
4. 整備記録・点検記録
チェック項目 | 確認ポイント |
---|---|
点検実施証明 | 点検日/点検者/内容/不具合の記録 |
写真記録 | 実施状況や交換部品の記録を画像で補強 |
デジタル化 | スマートフォンやタブレットで即記録できるか |
保管期間 | 1年間以上、検索性可能な状態で保管できているか |
注意点:「点検はしたが記録がない」では処分対象になります。「やっている」と「証明できる」との違いに注意。
5. 運転日報
チェック項目 | 確認ポイント |
---|---|
書式統一 | 会社全体でフォーマットが統一されているか |
記録項目 | 出勤・出庫・運転・荷役・帰庫・退勤時刻/走行距離など |
電子化 | 紙→Excel→アプリ入力まで移行可能か |
整合性 | 点呼・勤怠・整備との整合性が取れているか |
注意点:総労働時間の証明材料として、「分単位で記録されているか」が重要です。
この棚卸しを「社内共有できる形」にしておく
棚卸しは管理者1人が把握するだけでは不十分です。全社で「今の記録が通用するかどうか」を共通認識にする必要があります。
進めていくうえで、
- 書類ごとに「現状の保存形式/理想の保存形式/証拠性の評価」を一覧表にする
- 評価が「×」のものを優先して改善スケジュールに落とし込む
- 担当部門を明確化(点呼=運行管理者、勤怠=総務、配車=現場など)
しかし、単体の書類をデジタル化しても、業務の前後関係がつながっていなければ証拠性は不十分ですので、毎日の業務をしっかりと指示することは前提条件ですね。
次回は10月24日(金)更新予定です。