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第193回 労働災害は交通事故のヒヤリハット
作業中に「ヒヤリ」や「ハット」した体験が続くことは、軽微な事故につながり、さらにはルールを誤ることで発生する追突や交差点での重大事故を引き起こす要因にもなります。
労働災害は交通事故のヒヤリハット
構内でフォークリフト操作時等に発生する労働災害の防止を目指す際に、道の上で発生する交通事故の防止と比較して対象の法律が少ないと感じます。
また、労働災害は一人での作業中に多く発生するなど、自社の構内であっても管理者の目が届かない場所で多く発生していることも特徴の一つです。
行動への法律が少なく、人目につきにくい場所で発生する労働災害は、発生時の原因が作業者の行動によることが多い反面、その対策としては管理者の労働災害防止への関心から生じる言動の量や質に委ねられることが多いため、管理者の奮闘結果が労働災害の防止結果に直結するとも考えます。
同様に、バック事故の防止ルールである確認のやり方や回数も法律の対象外であることから、車庫でトラックを格納する際のバック走行時にドライバーが確認不足の状態であっても管理者から「バック事故を起こさなければお咎(とが)めなしの状態」であれば、いずれドライバーは確認をさらに怠るようになり、いつかはバック事故が発生するでしょう。
社内で管理者がドライバーの安全行動の確認を怠ることで、車内や社外でドライバーが安全の確認を怠ることが「あたりまえ」になってしまいます。
「事故さえしなければよい」と考えるようになることが結果的に次の事故を生み出し、事故が減らない運送会社で散見される不安全風土の始まりであり、運送会社全体のヒヤリハット状態の入り口と位置付けられます。
繰り返しになりますが、労働災害とバック事故の防止には対象の法律がないことから、社内で独自の安全ルールを取り決めたうえで安全教育の量と質を高めることが唯一の条件です。
そして、周囲の仲間が個々の習慣により安全な行動を実践していることで「自らも安全な行動を優先しよう」と互いに良い影響を受けることが安全風土の第一歩であり、全員で事故ゼロに近づけることができます。
一方で、道の上の交通事故の防止には手順を守ることと併せて、常に変化する道の上の環境において正しい判断が求められます。
言い換えると、歩行者や自転車運転者の飛び出しや、季節や天候の影響を受けやすい交通事故の防止と違って、構内での一人作業時に発生する労働災害は外的要因を受けにくいため、「交通事故よりも労働災害の方が発生ゼロを狙いやすい」といえます。
適合するルールがない作業中にヒヤリやハットした体験が続くことは、いずれ確認を含むルールを省くことで発生するバック事故などの軽微な事故につながり、さらにはルールを誤ることで発生する追突や交差点での重大事故を引き起こす要因にもなります。
作業時からルールを守る習慣を身に付けることで、道の上でもルールを守ることができるようになるでしょう。
その点では、労働災害の発生は交通事故が発生する前兆であり、運送会社で労働災害が続いて発生している状態があるならば、それは交通事故につながるヒヤリハットな状態の真っ最中なのかもしれません。
最後に、運送会社で安全研修を担当した際のヒヤリハットな会話を紹介します。
「帽子を忘れた」と言いながら慌てて研修会場に戻ってきたドライバーに「まさにヒヤリハットですね」とお伝えして一緒に笑ったことは、安全の楽しい思い出の一つです。
ありがとうございました。
次回は3月12日(金)更新予定です。
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