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第128回 営業社員のモチベーションは個人の問題でなく営業特性の問題
スキル、組織の連携、マネジメント、モチベーション……、営業部ではさまざまな悩みを抱えています。そして、さまざまな対策に取り組んでいます。しかし、変わらない。その原因の多くは「営業とはどういう仕事なのか?」という本質や特性の視点が欠けていることです。今回は営業の特性を踏まえて営業強化を進める方法についてのお話です。
営業社員のモチベーションは個人の問題でなく営業特性の問題
新商品の営業、新規開拓の促進、取引の拡大……
みなさんの会社も売上や事業の拡大のためにさまざまな戦略や施策を進めていることでしょう。
しかし、営業社員のスキル、チームや組織の連携、仕事量など、多くの悩みを抱えなかなか進まない。
例えば「営業社員のモチベーション」。
ほとんどの会社や営業部で悩んでいることです。
- ご案内営業、御用聞き営業から変わらない、積極的に提案しない
- 売り慣れた今までの商品ばかりで新商品を提案しない
- せっかく新規顧客を獲得してもフォローしないから取引を拡大できない
- 売上目標に対する意識が低い、貪欲さや成長意欲が乏しい
……
あげるとキリがない。
そして、ほとんどの会社でさまざまな取り組みを進めています。
目標やミッション、評価制度の見直し、教育や指導の促進、モバイルやテレワークなど働く環境の改善、上司と部下のコミュニケーション、チームの人間関係……
しかし、変わらない、改善しない。
みなさんの会社はいかがでしょうか?
システム開発会社のミーティングにて
システム開発会社のセントテクノロジーでは、4月に社長Aさんと営業部長Bさん、人事部長Cさんがミーティングをしていました。
社長Aさん
「うちの会社は今まで技術力を生かしてシステム開発で発展してきた」
「でも、競合各社が安価なクラウドサービスを出しているし、このままでは売上を伸ばせない」
「せっかく当社も新サービスをリリースしたんだから、もっと提案して売らないと」
営業部長Bさん
「申し訳ありません」
「毎月の営業会議で指導をしているんですが、なかなか提案しなくて」
社長Aさん
「なんで指導しているのに提案しないんだ?」
営業部長Bさん
「マネージャーが毎週のチームミーティングで指導しているんですけど、うちの営業社員は今までの御用聞き営業に慣れてしまって提案しないんですよ」
社長Aさん
「だったら、マネージャーが同行して提案すればいいじゃないか」
営業部長Bさん
「マネージャーも自分のお客さんに営業しないといけませんから、やりきれないですよ」
「だから、営業社員一人一人が積極的に提案するようにならないといけないんですけれど、指導してもやらないし、そもそも受注を獲得しようという熱意が足りないんです」
「一人一人のモチベーション自体を改善しないと」
社長Aさん
「どうしたらモチベーションを上げられるんだ?」
人事部長Cさん
「今の目標管理が合わないんじゃないですか?」
「システム開発も含めた年間の売上目標しかないですが、新サービスは受注金額が小さいから達成しにくいですよ」
「新サービスを重視させるためには、サービス別の売上目標を設定しないといけないと思うんです」
社長Aさん
「Bさん、サービス別の売上目標を設定するっていうのはどうか?」
営業部長Bさん
「新サービスを売りにくい業界もありますので、チームや営業担当者ごとに目標を設定しないといけないですが、必要だと思います」
人事部長Cさん
「あと、目標に合わせて評価制度の見直しも必要になると思います」
「新サービスの売上金額の点数が高くするような評価を設定した方がいいと思うんです」
営業部長Bさん
「そうすると評価が不公平にならないですか?」
「担当している業界によって新サービスを売りやすい営業と売りにくい営業とがいて不公平になりますよ」
人事部長Cさん
「確かに、そうですね」
「ただ、必要だと思いますので新サービスの売上を重視させて、かつ不公平にならないよう設計してみます」
社長Aさん
「分かった、サービス別の売上目標はBさんが検討、Cさんは評価制度を設計してみてくれ」
「あと、マネージャーの指導も重要だから、週に1回はチーム単位で新サービスの営業会議もやってくれ」
営業部長Bさん、人事部長Cさん
「分かりました」
4月中に新サービスに対するモチベーション改善策をかためて、5月に営業社員全員に説明し進めることになりました。
- サービス別の売上目標
- サービス別の売上を含む評価制度
- チーム単位の新サービス営業会議
新サービスの提案は若干増えたが、売上は0円
そして9月
営業部長BさんとマネージャーDさんが状況を確認していました。
状況は、新サービスの提案は若干増えたけれど微増程度、売上は0円。
営業部長Bさん
「なんで少ししか提案が増えていないんだ?」
マネージャーDさん
「毎週、新サービス営業会議で提案するように指導しているんですが、なかなか増えないんです」
営業部長Bさん
「指導しているのに提案しないってどういうことだ?」
「営業社員にとっては自分の評価にもかかわるんだぞ」
マネージャーDさん
「みんな、御用聞き営業しかやってきていないから、積極的に提案することに尻込みしちゃっているみたいで」
営業部長Bさん
「そんなのやるかやらないかだろう」
マネージャーDさん
「でも、今期の売上目標を考えたら、新サービスより受注金額の大きいシステム開発の営業をやらないと達成できないですよ」
「それにみんな忙しいんです。営業担当の藤田さんなんてトラブル対応でそれどころじゃないですし」
営業部長Bさん
「それは分かるけど、新サービスの売上を上げないと」
マネージャーDさん
「今期の売上目標を達成できなくてもいいんですか?」
「それに、これ以上厳しく指導するとパワハラって言われますし、辞めちゃいますよ」
営業部長Bさん
「そうだよな……」
「大変なのは分かるけど、少しでも新サービスの提案が増えるようがんばってくれ」
そして3月
新サービスの売上は0円。提案は若干増えたけれど……
なぜ、営業社員は積極的に提案しなかったのでしょうか?
サービス別の売上目標、サービス別の売上を含む評価制度を設定し、チーム単位の新サービス営業会議も進めたのに……
みなさんも何が良くなかったのか考えてみてください。
営業とはどういう仕事なのか?
営業の特性とは?
ここで「そもそも営業ってどういう仕事なのか?」について考えてみましょう。
営業は場数や経験で成長してきた人が多く、長い間の場数や経験で身に付けた考え方ややり方は凝り固まった「癖」と同じようなもの。
癖と同じようなものである営業の考え方ややり方は、指示や指導だけでは変えにくい。
場数や経験で力を付けた上司も多く、上司も過去の自分の経験に依存しやすい。
営業現場(現在)と自分の経験に依存する上司(過去)との間でギャップが生じやすい。
また、会社や上司が決めた売上目標(指示)に対し、仕事をするというトップダウン体質、結果主義が強い。
受け身体質になりやすく、積極性や自主性、自ら考える力が弱くなる。
これらは営業社員個人の問題ではなく、営業の特性です。
セントテクノロジーでは、目標や評価制度を設定し、新サービス営業会議で指導して、新サービスの提案を促進しようとしていますが……
- 指導するだけでは新しいやり方が必要な新サービスの提案は進まない。
- 新サービスの提案を進めている営業現場と営業部長Bさん(上司)との間でギャップが生じる。
- 新サービスの提案が進まない時に営業現場自らが課題と対策を考え改善しようとしない。
これらは営業の特性を考えれば分かったはずです。
しかし、セントテクノロジーはこれらの特性を踏まえて対策を考えていませんでした。
新サービス営業会議の他にギャップを解消し課題と対策を考えるため、営業部長Bさんと営業現場が新サービスの提案について、議論する場が必要だったのかもしれません。
営業という仕事は常にこれらの特性に影響されます。
営業強化や営業改革を進めようとしてもこれらの特性が障壁になり、取り組まない、進まない、徹底できない……
目標やミッション、評価制度の見直し、教育や指導の促進、モバイルやテレワークなど働く環境の改善、上司と部下とのコミュニケーション、チームの人間関係……
営業強化や営業改革の施策を考える時は、合わせて営業の特性への対策も考えましょう。
場数や経験で成長してきたため変えにくいこと、現場と上司との間でギャップが生じやすいこと、自ら考える力が弱くなること……、これらは営業社員個人の問題ではなく、営業の特性に起因することです。
この営業の特性を踏まえた営業強化でなければ進みません。
営業の特性を踏まえた営業強化とは……
次回は1月15日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
あなたは営業部長です。
他人の提案書は参考になると思い営業部で共有するシステムを作りました。
しかし、みんな使わない……どうしたらいいんだろう?
お知らせ
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