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第119回 営業社員のモチベーションを下げない対策では上がらない
新商品の営業、新規マーケットの開拓、積極的な提案……いずれも営業担当者のモチベーションが必要です。そのため、多くの会社で売上目標や評価を見直したり、働く環境や残業を削減したりとさまざまな対策をとっています。しかし、モチベーションが上がらない。今回は営業社員のモチベーションを上げる方法についてご紹介します。
営業社員のモチベーションを下げない対策では上がらない
営業は社員のモチベーションに大きく左右される仕事。
みなさんの会社でもさまざまな対策を考えて取り組まれていることでしょう。
- 働く環境の整備や残業の削減
- 上司やチームのコミュニケーションを改善
- 目標やミッション、評価制度の見直し 、など
しかし、現実は……
- 仕事がつらい、しんどい
- お客さんに無理難題を言われて大変
- 誰もサポートしてくれない
- 商品を紹介して売るばかりでやりがいがない
- うちの会社じゃ成長できない
不満ばかりでモチベーションが上がらない、結局辞めてしまう。
営業社員が抱える不満を基に対策を考えてみた
ある会社の営業部長Aさんが悩んでいました。
営業社員のモチベーションを上げるための対策が必要だ!
そこで、営業部長Aさんは営業社員一人一人にヒアリングしてみました。
すると営業社員は、
「営業は残業が多い、忙しすぎる」
「新規開拓をやれって言うけど、戦略やミッションが曖昧」
「新商品を売れって言われても技術部がサポートしてくれない」
「新商品を売れって言うけど上司が指導してくれない」
次にマネージャーにヒアリングしてみると、
「残業が多いって言うけど、営業社員が足りないからしょうがないじゃないですか」
「戦略やミッションが曖昧って言うけど、新規開拓をやったことがないから考えられない、やりながら考えるしかないですよ」
「技術部も忙しいからサポートしきれないと思いますよ」
「指導してくれないって言うけど、自分でも営業していて会社にいないからできないですよ」
「それなりには指導していますよ。だけどちゃんと聞いてくれないし、厳しく言うとパワハラになるし辞めちゃうじゃないですか」
営業部長Aさんが考えた対策は……
1.もう少し仕事の量を減らさないといけない
営業社員の人数を増やせないから、一人一人の売上目標や担当顧客数は変えられないので……
- 会議を減らすため、毎週の営業会議はやめよう。
- 事務作業の負担軽減のため、外出中に商談の議事録を作れるようモバイルを配付しよう。
- 週に2日はテレワークにしてあげよう。
2.技術部のサポートを改善しないといけない
- 技術部の中に営業サポートチームを作ってもらおう。
3.マネージャーと営業社員の関係を改善しないといけない
- 営業部の懇親会を3カ月に1回開催しよう、そのため年4回分の経費を確保。
- マネージャーと営業社員が頻繁にコミュニケーションをとれるようチャットを導入。
4.戦略や営業社員個人のミッションを明確にしないといけない
- 戦略会議を開催し、部長とマネージャー全員で営業部とチームの戦略を明確にしよう。
- そして営業社員への説明会を開き、個人のミッションを指示しよう。
対策のまとめ
- 営業会議を削減
- モバイルで事務作業の負担を軽減
- 週に2日はテレワーク
- 技術部に営業サポートチームを設置
- 3カ月に1回、営業部で懇親会
- チャットで指導や相談を促進
- 戦略会議で営業部とチームの戦略を明確化
- 説明会で営業社員個人のミッションを明確に指示
これだけやれば営業社員のモチベーションも上がるだろう……。
不満を減らしてもモチベーションは上がらない
そして1年後、
営業社員の退職は少し減ったけれどなくならない。
相変わらず新商品の提案を積極的に取り組まない。
なぜ、営業社員の退職がなくならないのでしょうか?
なぜ、新商品の提案を積極的に取り組まないのでしょうか?
営業部長Aさんの対策を見て考えてみてください。
そもそもモチベーションを上げる要因とはどのようなものでしょうか?
残業が少なくなればモチベーションは上がるのでしょうか?
テレワークを導入すればモチベーションは上がるのでしょうか?
上司との関係が改善すればモチベーションは上がるのでしょうか?
技術部のサポートが受けやすくなればモチベーションは上がるのでしょうか?
戦略を明確にして営業社員にミッションを指示すればモチベーションは上がるのでしょうか?
仕事量や労働時間は多すぎるとモチベーションを下げてしまいます。
仕事量や労働時間の削減はモチベーションの低下を抑えられますが、モチベーションを上げるものではありません。
また、長い時間の満員電車での通勤を減らしテレワークにすることは、ストレスを減らしモチベーションを下げないことはできますが、モチベーションを上げることはできません。
つまり、営業部長Aさんの考えた対策は、モチベーションを下げない対策で、モチベーションを上げる対策ではありません。
モチベーションが上がっていないため、退職者は少し減ったけれどなくならないし、新商品の提案を積極的に取り組まないのです。
営業活動におけるモチベーションとは
どうしたらモチベーションが上がるのでしょうか?
みなさんの場合はいかがでしょう?
- 今までできなかったことができるようになり成長を実感したとき
- 変化のない毎日や同じような仕事をしているだけでなく、普段聞かない新鮮な話を聞いたり、あまり接点のない異業種の人と関わったりして刺激を受けたとき
- 将来の夢を持ち、夢に近づくことを実感したとき 、など
毎日、毎日、同じ顔触れの仲間と、同じようなお客さんに、同じような商品やサービスを提案し、同じような会議、同じような指導を受けながら仕事をしている……。
担当のお客さんが変わっても、会議の議題が変わっても、所詮(しょせん)、同じ会社で同じ事業やサービスの営業に携わっている限り新鮮味は乏しくなります。
みなさんの会社ではモチベーションを下げない対策ではなく、上げる対策に取り組んでいますか?
- 仕事をやらせるばかりでなく成長を実感させていますか?
- 仕事のこと、同僚や取引先の接点ばかりでなく、新鮮な話や人に触れ刺激を受けさせていますか?
- 今期の売上や評価ばかりでなく、将来や夢を考えさせていますか?
ワークライフバランスの推進、社員のストレスや健康対策、パワハラなどコンプライアンス対策……いずれも大切なことです。
そして、今期の売上目標を達成させること、そのための営業計画やプロセスの管理も必要なことです。
しかし、その結果、多くの会社で働く環境や残業削減、仕事の指示や管理、今期の評価とモチベーションを下げない対策ばかり。
「キャリアプランで将来を考えさせています」という人もいるかと思いますが、実態はほとんど形骸化……。
営業は社員のモチベーションにより成果が大きく変わる仕事です。
- もっとお客さんと仲良くなりたい、関係を作りたい
- 新サービスを受注し新規事業を拡大したい
- 提案営業や課題解決型営業など新たな営業にチャレンジしたい
- 売上目標を達成したい
というモチベーションが高ければ高いほど、営業の強化や改革も進むし、積極的な提案を促進でき売上も上がる仕事です。
モチベーションを下げない対策ばかりでなく、モチベーションを上げる対策も考えてみてください。
営業社員のモチベーションを上げる方法(モチベーションの15の要因)
次回は4月17日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
マネジメント
あなたはマネージャーです。
営業会議で部下の報告を聞いたら売上目標1億円に対しまだ6,000万円。このままじゃ目標を達成できない。
……どのように指導する?