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第130回 営業教育しているのに、現場でやらない、変わらない……なぜ?
場数や経験、先輩の背中を見て学べという時代から変わり、営業教育を行う会社が増えています。しかし、教育しても現場でやらない、変わらない……そして、やっても意味がないとあきらめる。しかし、営業は個人のスキルで成果を上げる仕事。営業教育をあきらめるということは営業強化をあきらめるということ。今回は、現場で実践させるための営業教育についてご紹介します。
営業教育しているのに、現場でやらない、変わらない……なぜ?
営業は個人のスキルで成果を上げる仕事。
個人の売上を上げるスキルの教育は大切……と思い、営業教育に力を入れている会社が増えています。
営業研修をやったり、現場の指導を促進したり、営業ノウハウを共有したり……
でも、変わらない。
営業研修を開催したが……
工場向け設備機器メーカーのリーディングテクノロジーが営業研修を企画していました。
リーディングテクノロジーの営業は、
引き合い対応でお客さんの要望を聞いて商品を紹介するばかりで、提案していませんでした。
商品の機能など技術的な調整が必要なときは技術部の人に同行してもらって、技術部の人が提案していました。
営業部長Aさんは
「今の工場は自動化や効率化を進めているので、もっとニーズはあるはず」
「うちの営業は提案しないから競合他社にとられてしまう」
Aさんはもっと提案させないといけないと思い、研修をやることにしました。
「うちの営業は提案ができないから提案書作成の研修をやろう」
そして、若手社員を中心に2日間の研修を開催。
講師に教えてもらいながら提案書を作り、作った提案書でプレゼンテーション大会もやりました。
受講者の若手社員は
「すごくいい勉強になりました」
「今まで知らなかったことが多くて役に立ちました」
「他の人のプレゼンテーションも見られたので大変有意義でした」
営業部長Aさんは若手社員の反応に満足しながら
「研修で学んだんだからお客さんに積極的に提案して成果を上げるように」
そして、3カ月がたちました。
一向に提案している気配が感じられない。
マネージャーBさんに聞いてみると……
「引き合い対応で忙しいので、提案する時間がないんですよ」
Aさん
「忙しいって言ったって、引き合い対応だけやっていても今期の目標は達成できないだろう」
Bさん
「いや、セント工業から大口の案件が入ってきましたから今期は大丈夫です」
「新規案件の提案よりもセント工業の営業をしっかりやらないと」
Aさん
「今期の方針で提案して新規案件を獲得しようって言ったじゃないか」
「引き合い以外に既存顧客の他の工場への提案とか、リード顧客や休眠顧客への提案とか」
Bさん
「でも、今期の売上目標を考えたら、引き合い対応に注力させた方が達成できますよ」
「うちの営業が提案しても受注率も低いですし、受注金額だって引き合いと比べると低くなりますし」
そして、期末に……
Aさん
「今期はなんとか売上目標を達成できたけど、来期の見込みはどうなんだ?」
Bさん
「大口の案件で手がいっぱいで、新規案件の獲得が進んでいないんです」
「見込み案件が少ないので、来期は厳しいと思います」
Aさん
「だから営業に提案させるようにって言ったじゃないか」
「提案書作成の研修だってやったのに」
Bさん
「若手社員が研修を受けましたけど、そもそもうちの営業はお客さんのことを何も知りませんから提案できないですよ」
「それに今まで引き合い対応ばかりだったから、積極的に提案しようっていうマインドもないですし」
翌年は売上目標を大幅に下回ってしまいました。
そして、翌年も営業社員は引き合い対応ばかりで提案しないまま……
多くの会社の営業部と関わっていると、このようなシーンがよく見受けられます。
皆さんの会社ではいかがでしょうか?
営業教育に関する問題はどこにあったのか
提案書作成の研修をやったのに何がいけなかったのでしょうか?
リーディングテクノロジーの営業教育に関する問題は幾つかあります。
営業部長AさんとマネージャーBさんの会話から考えてみてください。
営業部長Aさんは、若手社員に提案書作成の研修を開催しました。
経験を積んだ中堅社員や上司はある程度理解しているしできているだろうと思い、中堅社員や上司は受講させず、若手社員だけ。
中堅社員や上司は本当に理解しているのだろうか? できているのだろうか?
もし、理解していなかったら、できていなかったらどうなるのでしょう?
仕事の特性として定型業務がほとんどなく、非常に流動的で幅広く雑多な仕事が必要な営業では、上司や先輩にほとんどのことを報告、相談しながら進めています。
- 営業の計画や進捗(しんちょく)、進め方
- 新しいお客さんとの商談の進め方
- 提案書の内容やプレゼンテーションのPOINT
- 競合に勝つための対策や予算をとらせる方法
- 決裁者との関係を強化する方法
……
つまり、営業現場では研修を受講した社員が周りの影響を受けずに営業活動をしているわけではなく、報告や相談相手の先輩や上司の影響を大きく受けています。
では、先輩や上司は研修内容に沿った指導をしてくれるのでしょうか?
営業社員は場数や経験で育ってきた人が多いです。
一人一人の異なる場数や経験によって一人一人の先輩やマネージャーの考え方も異なっています。
そして、異なる場数や経験によって一人一人の先輩やマネージャーが持っているスキルも異なっています。
また、ほとんどの先輩や上司は場数や経験で育っているため、体系的な営業ノウハウや手法を知りません。
果たして、体系的に学んだ提案書作成の研修を理解し、現場で指導してくれる先輩や上司はどれだけいるでしょうか?
- 自分の考え方も持っているスキルも研修内容と異なる先輩や上司がどのように指導するのでしょうか?
- 体系的な営業ノウハウや手法を知らない先輩や上司がどのように指導するのでしょうか?
せっかく研修を受講しても、受講していない先輩やマネージャーは研修と異なる指導をしてしまうでしょう。
営業教育は組織全体として進めることが重要
今日の課題解決型営業や戦略営業は難易度の高い仕事です。
この難易度の高い仕事は、手法やテクニックなどのスキルを学ぶ場と現場での指導との両方が必要です。
手法やテクニックを学んでも現場の指導と合っていなければ実践できません。
また、現場での指導だけで手法やテクニックを学ぶ場がなければ実践できません。
営業教育は、組織全体での共有による研修と現場指導とのギャップの解消が大切です。
営業組織全体で教育内容を共有し、学ぶ場である研修と現場の先輩や上司の指導とのギャップを解消しないといけないのです。
お客さんとの関係構築、コミュニケーション、提案、交渉……
営業は全て個人のスキルで成果を上げる仕事です。
個人のスキルが上がれば成果も上がる仕事です。
場当たり的に個人の教育を進める前に、組織全体としての教育の進め方を考えましょう。
付記
リーディングテクノロジーの提案が進まなかった原因は「組織全体での共有による研修と現場指導とのギャップ」の他に六つあります。探してみてください。
答えは営業のアドバイスで……
現場で成長させるための営業教育の七つの要件は……
次回は3月18日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
あなたは求人サイトの営業です。
お客さんから提案する場をもらいました。強みである登録者数をアピールし説得したい。
……どうやって説明する?
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