ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第131回 営業は顧客と自社との双方をコントロールし双方の満足を実現する仕事
課題解決型営業は、一方的な課題や要望を聞いて商品を紹介する営業、または提案を考える営業ではありません。顧客の課題や要望と自社の商品や技術力との双方を見比べながら取引実現に導く仕事です。つまり顧客と自社との双方をコントロールする仕事。今回は課題解決型営業を実現するための営業の役割、考え方についてお話しします。
営業は顧客と自社との双方をコントロールし双方の満足を実現する仕事
機能、しくみ、価格、納期、サポート……
「お客さんの要望を聞いてきても、うちの会社は応じてくれない」
「お客さんの課題を聞いてきても、うちの会社は商品が弱いから対応できない」
……「だから売上が上がらない」
さまざまな会社の営業部と関わっていると、このような不満をよく聞きます。
本当に会社が応じてくれないこと、商品が弱いことが問題なのでしょうか?
営業管理システムを探しているメーカーに訪問して
営業管理システムを販売しているリーディングシステムの営業担当Aさんが設備機器メーカーのセントテクノロジーを訪問しました。
リーディングシステムの営業管理システムの特長は、
- 営業のプロセスや進捗(しんちょく)情報、商談情報を共有できる。
- カスタマイズが容易で、お客さんの営業に合わせて柔軟に管理方法を変えることができる。
- リーディングシステムが持っている名刺管理システムと営業管理システムとの連携が強み。
お客さん
「来期に導入するための営業管理システムを探しているんです」
お客さんに営業の状況や要望を聞いてみると……
セントテクノロジーの営業は、
- お客さんと一緒に設計しながら受注する開発営業、製品を売る製品営業の2種類ある。
- 開発営業と製品営業とは営業プロセスが異なる。
- 営業社員や営業チームは、開発営業と製品営業との両方を並行して行っている。
そして、要望は、
- 開発営業と製品営業との双方を一元管理し柔軟にチェックしたい。
- 営業社員個人ごと、チームごとの売上や進捗をリアルタイムで共有したい。
また、
- 現在リード顧客を管理しているマーケティングオートメーションシステムと連携したい。
営業担当Aさんが一通り営業管理システムについて説明すると……
お客さん
「開発営業と製品営業の一元管理には良さそうですね」
「マーケティングオートメーションシステムとの連携はどうですか?」
営業担当Aさん
「会社に戻って確認してみます」
「あと、名刺情報と連携させると便利だと思うのですがいかがですか?」
お客さん
「名刺管理システムは既に導入していますので必要ないです」
「5年前から顧客情報と商談議事録の共有で使っていますので」
営業担当Aさん
「そうですか、分かりました」
「マーケティングオートメーションシステムとの連携について社内で確認してみます」
そして、会社に戻り技術部長Bさんと営業部長Cさんとミーティング……
技術部長Bさん
「マーケティングオートメーションシステムとの連携は経験がないから難しい」
営業担当Aさん
「セントテクノロジーの案件は、マーケティングオートメーションシステムとの連携が必要なんです」
技術部長Bさん
「それにお客さんのシステムの調査から必要になるから価格も高くなるよ」
営業担当Aさん
「そうですか。コンペになっているんです。なんとか値引きしてもらえませんか?」
技術部長Bさん
「他のお客さんの開発で忙しいし、利益が上がらないから無理だよ」
営業部長Cさん
「名刺管理システムとの連携はどうなんだ?」
営業担当Aさん
「既に導入しているので必要ないって言っていました」
そして、お客さんを訪問して提案すると……
お客さん
「そんなに費用がかかるんだったら無理ですよ」
「開発営業と製品営業との一元管理では御社が一番良かったけど、ちょっと難しいですね」
結局、失注しました。
なぜ、失注してしまったのでしょうか
Aさんの問題点を探してみてください。
営業担当Aさんの問題点はどこにあったのか
結局、セントテクノロジーは他の会社から営業管理システムを導入しました。
そして、実は……
1年後に名刺管理システムの入れ替えを検討していました。
新しく導入した営業管理システムと名刺管理システムとを連携させるためです。
Aさんは「マーケティングオートメーションシステムとの連携が必要」「名刺管理システムとの連携は検討していない」というお客さんの要望だけを聞いて、自分の会社にだけ調整してもらおうとしました。
「コンペになっているんです。なんとか値引きしてもらえませんか?」
その結果、技術部長Bさんも営業部長Cさんも「マーケティングオートメーションシステムとの連携の値引き」だけではメリットがないと考えて、応じてくれませんでした。
もし、お客さんに「名刺管理システムは既に導入しているので必要ないです」と言われて、「そうですか、分かりました」と受け入れるのではなく、
「顧客情報を名刺管理システムと営業管理システムとの双方に登録させると営業社員の負担になる」
「名刺管理システムの商談議事録と営業管理システムの商談履歴とは二重登録になるので、営業管理システムを使わなくなる」
と説得していたとしたら……
名刺管理システムの入れ替えも加わり、案件規模が大きくなったのでは……
そうすれば、技術部長Bさんも営業部長Cさんも値引きに応じてくれたかもしれません。
1年後に名刺管理システムの入れ替えを検討していたため、説得できる可能性もあったのです。
なぜ、Aさんは名刺管理システムについて説得しようとしなかったのか?
営業の役割はお客さんと自社双方をコントロールすること
「お客さんの要望を聞いてきても、うちの会社は応じてくれない」
とお客さんに要望を聞いてくるだけで、自分の会社ばかりに調整させる営業。
さまざまな会社の営業部と関わっていると多く見受けられます。
皆さんや皆さんの会社はいかがでしょうか?
お客さんの課題と自分の会社の商品の機能
お客さんの予算と自分の会社の商品の価格
お客さんの購入時期や計画と自分の会社の納期や計画
お客さんの重視していることと自分の会社や商品の強み
……
はじめからお客さんの要望と自分の会社の商品やできることとがぴったり合っているということはほとんどありません。
受注を獲得するということは、お客さんの要望と自分の会社の商品やできることとの双方を調整(コントロール)し、ぴったり合わせることであり、これが営業の役割です。
営業の役割は双方をコントロールすることです。
お客さんの要望だけを聞いて、自分の会社に調整してもらうことではありません。
自分の会社の商品やできることだけを伝えて、お客さんが調整してくれるのを待つことではありません。
お客さんと自分の会社との双方です。
双方をコントロールし、お客さんの満足と自分の会社の満足との双方を実現することです。
Aさんはお客さんの要望だけを聞いて、自分の会社にだけ調整してもらおうとしました。
自分の会社の要望やメリットに対してお客さんを調整しようとせず……
つまり、自分の会社の満足を犠牲にしてお客さんの満足だけを実現しようとしていました。
お客さんの課題や要望の変化が速い今日、そして自分の会社の商品やサービス、戦略の変化が速い今日では、双方がぴったり合っていることはほとんどありません。
今日の営業の役割は、お客さんと自分の会社との真ん中に立ち、双方をコントロールし双方の満足を実現することです。その結果が受注であり、売上が上がるのです。
現場で成長させるための営業教育の七つの要件は……
次回は4月15日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
あなたは飲食店情報サイトの営業です。
来年のためにサービスの説明を聞きたいと問い合わせ。来年には可能性があるから頑張ろう!
どんな商談にする?
お知らせ
セールススキルマップ「Sales Skill map」、戦略営業体系図「Strategic sales chart」を公開
課題解決型営業や戦略営業にとって必要な力と体系図を公開しています。
ぜひ、貴社の営業強化にご利用ください。