第153回 「成熟度向上」実現に向けた思考の変革を考える

本来、人間は「社会的生物」であり、自分自身が社会の中でどう貢献するのか? どういう役割を果たすのか? を通じて「幸福感」や「生きている実感」を覚えるものだと思います。ということで今回は、人が、あるいは組織が「成熟する」ために必要な思考の変革ポイントを考えてみたいと思います。

「成熟度向上」実現に向けた思考の変革を考える

こんにちは!

11月のアメリカ・大統領選挙の前に日本の政治も大きく動きました。自民党総裁が想定外(?)にも石破茂氏となり、政界内はもちろん、経済界にもいろいろな波紋・影響が出てきているようですね。
こういうタイミングでは、必ず「新政権に何を期待しますか?」といった街頭インタビューや世論調査的なものが行われますが、ほとんどの意見は「賃上げ・物価抑制・経済対策」的な目先の短い時間軸、自分にとっての損得を基準としたものばかりが目につきます。

企業経営の世界ではVUCA時代を迎え、先行き不透明だからこそ目先のことではなく、あえて長期的なゴールを設定し、そこからの逆算思考・バックキャスティングな考え方がスタンダードになっています。にもかかわらず、本来もっと長い時間軸で考えるべき「国づくり・国の在り方」が、極めて近視眼的で短期的な「損得」を基準とした民意が多くを占め、それに左右される議論に終始していることに民度の低下と、それに迎合する政治の在り方に危機感を抱かざるを得ません。

本来、人間は「社会的生物」であり、自分自身が社会の中でどう貢献するのか? どういう役割を果たすのか? を通じて「幸福感」や「生きている実感」を覚えるものだと思いますが、「幸福感」「生きている実感」の多様化という名の下に、その本能的な能力の部分がそぎ落とされているような気がしてなりません。

ということで今回は、人が、あるいは組織が「成熟する」ために必要な思考の変革ポイントを考えてみたいと思います。

時間軸と視点・論点の数

「考える」という行為に関して、戦略的に考えられる人と短絡的にしか考えられない人とがいます。この違いは一体、何が要因なのでしょうか。
私は「時間軸」と「視点・論点の数」との2軸で考えると整理がしやすいのではないかと考えています。

時間軸が短く、視点・論点が少ないと、どうしても「こうに違いない・これしか考えられない」的に短絡的な思考性に陥ってしまいがちであり、時間軸を長く持ち、かつ視点・論点が多ければいろいろな可能性を考えられ、結果的に戦略的な思考性につながるのではないでしょうか。

そういう意味では、短い時間軸の刹那的な、本人にとっての「損得・正誤」の判断ではなく、長期的な視点に基づいた社会や会社にとっての「善悪」という判断軸を持つことにもつながり、それが「“人としての考え方”を高めていけるのか?」という意味で「成熟度」の話につながっていくように思います。

だとするならば、「仕事を通じて成熟度を高める」ということは「スキルとしての成長」ではなく、「“人”としての精神的成長」を意味するということにもなるのではないでしょうか。

「“人”としての精神的成長」を実現することができれば、多様な人たちがいる社会の中で共創を通じた新たな価値創出を思考できるようになり、誰かを敵にして、自分自身の思考の正当性や正義感を押し付けるような短絡的・直線的な思考にとどまることは減っていくのではないかと思います。

「違い」を受け入れる相互尊重

男性・女性の性差のような生物学的な話だけでなく、価値観や考え方を含めて「多様性」という単語は時代を表すキーワードの一つになっていると思います。

このような時代・こうした社会になった中で、SNSの良さとして指摘のある「同じ価値観・同質性のつながりのたやすさ」という面がある一方で、「行き過ぎた同質性の弊害」として「違い」に焦点が当たり、「異質への攻撃的態度・摩擦・分断」も目立つ時代になっていることも否めません。

これも「二者択一」的な「短絡的思考」の代表的な例として挙げられ、「戦略的思考」に考えるということは、その多様な中に人として共通のものが見ようとすることではないでしょうか。

つまり「“成熟”という名の“成長”」は、「多様な中で、共通した“志”」を見いだそうとすることなのかもしれません。こうした「違い」を受け入れたうえでの「相互尊重」できるかどうかが成熟度に大きな影響があるのかもしれません。

アージリスの「未成熟-成熟理論」

クリス・アージリスは、組織の中での個人のパーソナリティーにおける成長過程を下記のように説明しています。下表の七つの次元に沿って、未成熟段階から成熟段階へ向かうと考え「未成熟-成熟モデル」とよばれています。

アージリスの未成熟-成熟モデル

次元未成熟段階成熟段階
行動の能動性受動的能動的
他人への依存性依存的独立的
行動の単純性単純な行動多様な行動
興味の持ち方浅い興味・移り気深く、強い興味
行動の展望短期的な展望長期的な展望
自らの地位従属的対等、または優越的
自己意識・自己統制自己認識の欠如自己意識・統制の発達

アージリスは「人間は心身共に成長するものであり、組織が従業員に対する成長の機会を提供すれば良い」と指摘しており、特にパーソナリティーが成熟すればするほど、成長したいという人間の自己実現欲求はより強まると言っています。

ところが、多くの組織では上司の言うとおりに動く人間、つまり未成熟な人間を対象に作られており、従業員は成長する存在であるという前提に立っていない状態が多いため、組織と個人の望む方向性とは一致しづらく、モチベーションは向上しないという結果になりがちだと言われています。

このように考えると、個人や組織の成熟度を上げるためには、対象になる「従業員の可能性を信じる」ということが前提になってくるのかもしれません。

これも「性善説」か「性悪説」のどちらかで考えるかという「二者択一」的な思考ではなく、「人は、性善なれど弱し」という第3の道を踏まえて考えないと成り立たないように思います。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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