第154回 無関心との闘い

「仕事」の基本が「人の役に立つ」ことだとするのであれば、「企業」においても「人の役に立つ」「社会の役に立つ」が基本になるということになります。今回は、今後の企業の在り方として「社会の役に立つ」ために乗り越えなければいけない「無関心との闘い」について考えてみたいと思います。

無関心との闘い

こんにちは!

早いもので11月半ばになり、一気に気温も下がり、冬モードを迎えているようですが、つくづく「日本の秋はどこへ行ったのだろう……」と感じてしまいます。

「タイパ」という言葉で表現されるように、「時間をいかに効率的に使うか?」がZ世代といわれる若い方を中心に多くの人の関心事になっています。忙しい日々の業務に追われているため「タイパ」を大切にし、限られた時間の中で一つでも多くのこと処理したくなる気持ちも分からなくはありませんが、それは「働く」ということのごく一部に過ぎず、全てではないのではないでしょうか。

「仕事ってものは、金をもらうことだ」という方もおられますが、それも大切ではあるものの、全てではないように思います。1人のビジネスパーソンにおける「仕事」の基本が「人の役に立つ」ことだとするのであれば、その人たちが集まって経営をしている「企業」においても「人の役に立つ」、もう少し大きな概念として「社会の役に立つ」が基本になるということになります。

ということで、今回は、今後の企業の在り方として「社会の役に立つ」ために乗り越えなければいけない「無関心との闘い」について考えてみたいと思います。

現代における「三方よし」

近江商人の理念である「三方よし」は、多くの方がご存じだと思います。「売り手よし・買い手よし・世間よし」ということで、「会社側にとっても、お客さんにとっても、さらには社会にとっても喜ばれる」ことを商売・ビジネスの前提にしていくという概念ですが、これも時代の進化・変遷に伴って、微妙に変わってきているように思います。

現代では「五方よし」とか「八方よし」といった表現もあり、企業が関わるステークホルダーが増えていることで、その「在り方」を問う視点もあるようです。今回は「三方よし」の現代的意味解釈の変化を考えてみます。

少なくとも、60歳を超える私のような年代の者にとっては「会社のためなら、自らを犠牲にしてでも……」的な思考が一般的だった時代もあり、「24時間、働けますか!」といったフレーズがビジネスマンのバイタリティーを示した時代もありました。それが次のフェーズとして「会社の業績のために、働く私たちが犠牲になってイイのか?」という視点が生まれ、「ワークライフバランス」という表現や「組織のビジョンと個人の価値観・やりがいとの擦り合わせ」といった対等な関係性が重視される時代に移っていきました。

そして、最近ではSDGsでも示している脱炭素・地球温暖化を含め、企業として、社会的課題にどう向き合っていくのか? が大切な視点となっています。つまり「三方よし」のそれぞれの重み・位置づけが、時代と共に変化してきていることをご理解いただけるのではないかと思います。

私たちにとっての「社会的課題」とは何か?

ただ、多くの中小企業においては、まだまだ「社会的課題」はやや縁遠いもので、自社の事業に関わる「顧客の課題」を、「自社の外側」という意味で「社会的課題」と認識しているケースが少なくないように思います。

確かに世界的には、あるいは地球規模的に考えれば「地球温暖化」のようなスケールが余りにも大きく、自社の取り組みが与えるであろうインパクトも限定的であることも事実ですので、イメージがしにくい側面はあるのかもしれません。
では、多くの中小企業にとって手触り感のある身近に考えられる「社会的課題」とは何なのでしょうか……

先日、とある経営者の方が「私たちの“業界の常識は、非常識”なので、弊社は、その“業界の常識”に向き合っていく取り組みをしている」と話しておられました。
「業界の常識は、非常識」というこの表現は端的に的を射たものであり、それぞれの業界や身の回りにある「違和感への取り組み」が、「社会的課題への取り組み」そのものであり、第一歩になるのではないでしょうか。

無関心との闘い

上記の例からも分かるように、私たちが生活をしている社会には、まだまだ「違和感」は数多くあります。
ヤングケアラー・障がい者に代表される若者を含めた社会的弱者との向き合い方、地域の不法投棄をはじめとした社会常識の欠如等々、挙げ出せば枚挙にいとまがありません。にも関わらず、そこに企業として、こうした課題に向き合い、取り組んでいる数はまだまだ限定的かもしれません。

企業がなぜこの状況から一歩踏み出せないのか? 踏み出さないのか?
そこには「無関心」が横たわっているのではないでしょうか……
もう少し踏み込んだ表現をするのであれば、なぜ、無関心でいられるのでしょうか?

それは、恐らく厳密には「知らない」ということなのではないでしょうか。この「知らない」もしくは「見たことがない・経験したことがない」という事実が、「無関心」でいられる背景なのかもしれません。

今年の40度を超えるような夏の気温を経験して、初めて「地球温暖化」の実態を自分事として「これは堪(たま)らん。これが進めば大変なことになる!」と感じた方もおられるかと思いますが、「現実・事実を見る・知る」ことで、私たちの「無関心」という状態のスイッチが「関心を持つ」に切り替わるではないかと思います。

ということは、「知る」ために「見てみる・経験してみる」ことが極めて重要になり、それが「企業として社会的課題に“本気”で向き合う」ことに向けての最初の一歩なのかもしれません。

経営者が身の回りや社会に関心がなければ、その会社の従業員も身の回りや社会に、つまりお客さんにも関心を持たない傾向が高まります。結果的に、その企業は、お客さんの要望や時代の変化に敏感になれず、業績も限定的になる傾向が高まってしまいます。

これからの企業の在り方として、経営者自身の「社会への関心」「社会的課題への向き合い方」が、業績的にも大きな影響があることがご理解いただけるのではないでしょうか。

『7つの習慣』で定義される第2領域、すなわち「緊急ではないが重要なコト」への取り組みは、後回しにしていると、ある日突然「切羽詰まった緊急なコト」として目の前に現れるといわれています。

「企業経営における社会的課題への向き合い方・取り組み方」も「緊急ではないが重要なコト」で後回しにしてはいられないテーマなのではないでしょうか。
イヤ、既に「切羽詰まった緊急なコト」になってしまっているかもしれませんね……

引き続き、よろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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