第65回 理想としての「持続可能な資本主義」に向けた論理の見直し

前回も「信じる力」というキーワードに少し触れさせていただきましたが、今回は、資本主義において、そのキーワードになりえる思考のパラダイムシフトをもう少し考えてみたいと思います。

理想としての「持続可能な資本主義」に向けた論理の見直し

皆さん、こんにちは。
春は瞬く間に過ぎ去り、早くも初夏を迎える気候になりました。この一番穏やかで過ごしやすい季節の中、世界は北朝鮮問題を取り巻く各国の思惑が絡み、緊張感が高まるご時世で、気持ちが安らぐ感覚にはなかなかなれない印象ですね。

これまでの歴史上の問題も含め、宗教やイデオロギーの異なる国家レベルにおいて、「お互いを信じる」ということを前提とした平和に向けた取り組みや、外交の難しさは十分に承知しています。

理想を掲げて統合したはずの「欧州連合(EU)」も、イギリスの離脱や諸国の右派勢力への支持が高まって、いまや破綻しかけているかのような状況になっていることを見てもその難しさを如実に表しているのかもしれません。

欧州連合の規約ではその存在価値について、下記のように明示しているそうです。

連合は、人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、少数者である人々の権利を含む人権の尊重の諸価値を基礎とする。これらの価値は、多元主義、無差別、寛容、正義、連帯および男女平等が優越する社会にある構成国に共通するものである。(注)

注:平成16年9月衆議院憲法調査会事務局(p.71第I-2条 〔連合の価値〕より, PDF;902KB)(2017年5月18日時点)

個人的には、極めてまっとうなことが規定されていると思いますし、その方向に世の中が進んでいくことは望ましいと思います。しかし、もともとは多くの賛同があって設立したはずとはいえ、現実には、事はそう簡単ではないようです。

企業経営においても、このグローバル化した現代において「お互いを信じる」ことを前提にしたビジネスの在り方は、甘ちょろい考えとしてスタンダードではないように思います。

前回も「信じる力」というキーワードに少し触れさせていただきましたが、今回は、資本主義において、そのキーワードになりえる思考のパラダイムシフトをもう少し考えてみたいと思います。

『持続可能な資本主義』

上記は株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンから新井和宏氏の著書として出されている本のタイトルです。

著者である新井氏は「いい会社をふやしましょう」を社是にしている鎌倉投信株式会社取締役としてNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で紹介される等など、既存の資本主義に疑問を投げ掛け、新たな資本主義の在り方を実業を通じて展開しておられる方です。

その本の帯には「人と社会を犠牲にする資本主義に永続性はない」「誰かの犠牲で成り立つ経済を、終わらせよう。」とあります。

本の詳細内容にはここでは触れませんが、これまで、私たちの思考性を培ってきた「常識や当たり前」をいったんゼロリセットして考えないと、理解できないかもしれません。つまり、今までの「固定観念」を否定する「自己否定」と向き合うことが求められているのかもしれません。

欧州連合の規約に書かれている内容は、多くの人から賛同を得られる「理想」なのだと思います。ただ、それを実現していく過程において、少なくとも今までの進め方では難民・移民の問題や、それに伴う自国の失業問題といったゆがみやほころびが顕在化してしまい、それを受けて今度は真逆の発想で、難民排斥や保護主義的な色彩の意見が台頭し、そもそもの「理想」さえも単なる夢物語として否定されてしまっている気がします。

うまくいかないからといって「掲げた理想」そのものも否定してしまっては、右か左か二者択一をするだけの稚拙な考え方から抜け出せず、いずれまた、どこかのタイミングで大きく逆に振れるだけになってしまうのではないでしょうか。

そうではなく、「掲げた理想」に向かって、うまくいかない障害・障壁が生じたのはなぜか?「理想」をブラさずに、その実現に向けた課題を解決するにはどうすればよいのか?を飽くなきプロセスとして向き合っていくことが「成熟」ということではないでしょうか。

横道にそれましたが、この本には、そういう意味での「現代資本主義の限界」に対する企業経営の取り組み・考え方における「解の一つ」が記されているように思います。

「人としての成長」と「従業員としての成長」

先日、複数の経営者(いずれもオーナー企業の方)に同じような質問をさせていただく機会がありました。

「社長は『人としての成長』と『従業員としての成長』をどのように定義付けしておられますか? 違いはありますか? 同じ意味ですか?」

どの社長さんも表現こそ違ったものの意味合い・ニュアンスとしては下記のような回答でした。

  • 従業員として、実務におけるスキルを高めることが成長であり、人としての成長と同義と捉えている
  • 今までできなかったことができるようになることを通じて、難易度の高い仕事をこなせるようになることが「従業員としての成長」である。と同時に、お客様の役に立てる幅が広がるという意味で「人としての成長」だと考えている
  • お客様に喜んでもらえる自分になることが「人としての成長」だと思うので、同じ意味だと理解している

この回答を伺って「ウ~ン……この認識が、なかなか従業員には伝わらないのかもしれないなぁ」と感じました。

2015年7月「第44回」で「目的と目標」の違いに関してご紹介をさせていただきましたが、それに近い違和感を従業員側は持っているかもしれません。

第44回 なでしこジャパンに見る「組織における目的と目標」(ERPナビ)

「人としての成長」は、その企業・組織、あるいはその人自身の考え方や価値観レベルのものであり「目的」の位置付けになると思います。ですので、オーナー企業経営者にとっては「自分の生き方≒仕事の在り方」に比較的なりやすいような気がします。一方、従業員にとっては、「目的」である「人としての成長」は、必ずしも「仕事に従事している」ことから得るものではない方が少なからずおられるように思います。

そういう意味で、経営者にとっての「従業員としての成長」は、上記前提があるため前述のようなコメントにつながるのかもしれませんが、逆に多くの従業員の立場の人にとっては、「あくまでも手段に過ぎない」ものであり「目的」である「人としての成長」とは結び付けづらい感覚があるのではないでしょうか。

誤解していただきたくないのですが、個人的には「人としての成長」という目的レベルを高めるために「仕事を通じて成長する」目標は、100%シンクロするものだと思っています。ただ、その間にある「意味付け」「ロジック」を、それぞれの経営者の方々が「自分の言葉」として説明できるようになることは、意外とできておらず、実は極めて重要なことなのかもしれません。

そのためには「従来の資本主義」の背景にある考え方やロジックを一度ゼロリセットして「理想としての資本主義の実現」に向け、組み立て直す必要があるのではないでしょうか。

今後とも、よろしくお願いいたします。

次回は6月21日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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