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第11回 その道具は本当に合っていますか【5】
どの様に生産の指示をするの? 製造業の特性を考える その4
前回まで、皆さんと製造業におけるさまざまな特性を一緒に整理してきました。
裾野の広い製造業において、その特性の整理は複数の側面からの切り分けがあり、明確な答え=正解は簡単には導けない難しさを、私自身も実感しています。
そうです。
その状況において「道具を選ぶ」ことは、そんなに単純なことではないと考えています。
この特性の整理は、深く、キリが無いテーマでもあるといえますが、今回もう一つの側面から整理することで、一区切りとしたいと考えております。
「プッシュ生産」と「プル生産」という切り分け
下図(図1)の4つ目のポイントとして、「プッシュ生産」と「プル生産」に分類して考えてみたいと思います。
今回のテーマは、「どの様に生産の指示をするの?(生産方式)」です。
今回の切り分けとしてテーマにした、「プッシュ生産」、「プル生産」は、さまざまな書籍やサイトで詳しい解説がされているので、わざわざここで整理に付き合わなくてもよく知っているよ、との声も聞こえてきそうですが、あえて私なりの表現での整理してみます。
この「プッシュ生産」、「プル生産」を書籍やサイトで調べてみると、通常以下のように整理・表現されているものが多いようです。
「プッシュ生産」
需要を予測し、生産計画を立てて製品を市場に送り出す、需要に基づかない「見込生産」
「プル生産」
確定した需要に基づき、引き取られた消費分を補充する「受注生産」
いろいろな表現や見解があると思いますが、上記のような認識が皆さんの知識も含めて、一般的な整理になっているのではないかと考えます。
いかがでしょうか?
そして、この考え方において企業はできるだけ需要に基づく「プル生産」に近づけることで、その収益性の改善をはかる傾向にあることが多いと思います。
その最も有名な手法が、「かんばん」(引き取りかんばん)という需要消費を基軸にした、生産計画(生産管理)を用いない「補充生産方式」です。
「プッシュ生産」と「プル生産」を逆の視点で考える
ここではあえて、あまのじゃくな論理を展開したいと思います。
先ほどの「プッシュ生産」と「プル生産」の考え方は、企業としての考え方となりますが、生産管理としての考え方では、逆転の発想になるのではないでしょうか?
製造業の生産管理において、「プッシュ」での管理をするということは、最終的に到達する明確な目標があっておこなわれる管理だと思うのです。
その一番の例が、「個別受注生産」のお客様です。
「個別受注生産」の製造業は、顧客からの需要(要求)としての受注があってこそ、生産管理自体が存在します。
よくある表現では、上流工程(設計)から下流工程(購買・製造)に向けて、設計・部材調達・作業準備・製造・出荷とさまざまな作業工程が、「受注」という目標に向けて、上流から下流に「プッシュ」(押し出し)していく生産管理をおこなっていると考えます。
特に製造工程において、連続する複数の工程がある場合、その工程に対する生産指示の形態は一枚の指示書に、目標である受注内容(得意先、受注数量=生産数量、納期)がタイトルとして記載され、必要とされ経由するべき複数の工程が、工程順に並んで記載されています。
そして、実際の製造においては、指示書に従い初工程より「プッシュ」(押し出し)していく管理がおこなわれています。
この管理の形態は、「個別受注生産」に限りません。「繰返性」のある共通ユニット等を持つ組立型製造業においても、引当され補充する予定に対して、同様にこの「プッシュ」の管理が連携されているものと考えます。
一般的に生産管理システムとして最も多く存在する、製番(受注・補充)・MRP(所要量展開)型システムは、この「受注生産」、「プッシュ生産」管理の仕組みにあたります。
なぜなら、管理番号(製番)を持って、工程を串刺しして管理する仕組みを内包することは、管理するうえでは「プッシュ生産」を指示する仕組みになると考えられるからです。
では、違う側面から考えてみたいと思います。
メーカーの納入指示に従い、部品を供給するサプライヤーの業種を考えます。
供給する加工部品が、組立型の加工部品である場合は、やはりその製造業における管理は前述の「プッシュ生産」でおこなわれていると考えます。
それでは、加工型で加工部品をものづくりしている製造業はどうでしょうか?
加工型の製造業においては、その加工の特性により各工程にさまざまな制約が存在し、「繰返性」に基づき、この制約条件をより効率的に継続させるため、あえて納入指示(受注)とは紐付かない、工程ごとの生産指示が存在するのではないでしょうか?
そこには、前回のコラムで登場した「在庫」を制約や効率のバッファーとして活用した、工程ごとの需要と供給の連鎖(SCM)をおこなう、「在庫管理」が存在します。
この「在庫管理」を、各工程間で「プル」(引算)しながら、工程ごとの計画・指示を連鎖させるかたちでおこなう管理は、その工場内の生産管理において、受注(契約)に紐付かず、工程間に串刺しの存在しない管理になっています。
したがって、加工型の製造業においては、その生産指示は上流工程から押し出していく「プッシュ生産」ではなく、各工程の「在庫」バランスを重視した「プル生産」をおこなうための、工程ごとに生産指示がそれぞれに存在するかたちになり、その生産指示に管理番号(製番)串刺しが存在しない管理となると考えます。
この逆の視点でしたかったのは、以下の整理です。
「プッシュ生産」
受注(補充)を目標に、上流工程より物をそろえ押し出していく「受注生産」
「プル生産」
各工程がそれぞれ、後工程からの引算を元に自工程の在庫補充をおこなう「見込(計画)生産」
前回までの製造業の特性にて整理した、「組立型」と「加工型」、「個別性」と「繰返性」、「受注生産」と「見込生産」、それぞれの特性の要素に照らして考えると、製造業の工場内における管理は、上記のような逆の視点になってくるのではないでしょうか?
皆さんは何を見てものづくりしていますか?
さて、ものづくりに携わるさまざまな部署で業務をおこなっている皆さん。
皆さんは、何を見てものづくり(購買、生産)していますか?
共通の目的(例えば、受注や補充)を見て、ものづくりをおこなっている場合は、共通の管理番号を持って、その共通の情報を目標に「プッシュ生産」をおこなうことを管理できる生産管理が必要となると考えます。
しかし、自工程の在庫や効率を見て、ものづくりをおこなっている場合、その管理は串刺しの管理番号を必要とせず、後工程からの需要と自工程の供給(効率)を重視した「プル生産」をおこなうことを管理できる生産管理が必要になると考えます。
この生産管理は、「在庫」情報を主体とした在庫バランス管理になります。
この「見ている物」の違いが、生産管理をおこなううえで道具に求める重要な要素になってくると考えます。
皆さんは何を見て、日々生産管理をおこなっておられるでしょうか?
道具は、それを見て、活用できる情報(システム)になっていますか?
「その道具は本当に合っていますか?」
一度振り返って、さまざまな特性と照らして整理してみてはいかがでしょうか。
次回は3月24日(木)更新予定です。
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