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第16回 フィッティングしよう【4】イレギュラーを探すのではなく、レギュラーを積み上げよう
前回のコラムでは、稼働ユーザー様の例を二つ記載しました。
- フィッティングすることにより、ノンカスタマイズで稼働した「A社」
- Fit&GapによりGapカスタマイズをおこない稼働した「B社」
双方とも稼働評価をいただくユーザー様ですが、ノンカスタマイズのメリットとカスタマイズしたことによるデメリットが支援活動の途中のみではなく、稼働後にも常に影響する課題点・反省点を内包した事例でした。カスタマイズの発生要素は、当然のことながらGap(イレギュラー)に他なりません。このイレギュラーの発生についてお客様を支援する活動の中から考えていきたいと思います。
イレギュラーを探す:Fit&Gap
システム導入の支援に、Fit&Gapコンサルティングが存在します。
文字通りFit(合う)&Gap(合わない)の精査・分析をおこなう導入支援分析です。
導入されるシステムがパッケージシステム(汎用機)である場合、そのパッケージシステムの持つ標準機能・フローに対して、イレギュラーとなる部分を精査・分析し、カスタマイズ等を加えて導入後のシステムフローを構築していく支援になると思っています。
この支援は導入時の初期分析としておこなわれるコンサルティング業務なのですが、この時点で導入パッケージシステムとのFit&Gapとして比較・分析されるのは、現状のシステムや現状業務(Excel等の業務も含め)、現状使用帳票です。
当然ではあるのですが、現状システム・業務は、導入したパッケージシステムとの特性や管理手法が違っていることが多いので、当たり前のようにGap(合わない)が累積精査されます。
この抽出されたGapをパッケージシステムでどのように運用していくかを模索し、最終的にイレギュラー部分はカスタマイズし、そのカスタマイズを含む導入後のシステムフロー設計をおこなっていくことになります。
システム導入の目的が、収益改善・業務改善であることを明確化して進められている場合、現状業務を分析した内容をFit(合う)&Gap(合わない)を含めてスクラップ&ビルドして、パッケージシステムでの運用を模索することで、Gapとなる部分を最小化します。そしてなるべくカスタマイズをしない活動になるはずなのですが、実際には現状業務や現状帳票等の「今おこなっていること」がスクラップされずにカスタマイズをおこない、導入後にフロー化されるのが現実で、非常に多いです。
また、実際の業務におけるイレギュラーも存在します。この実業務におけるイレギュラーは、製造業の業務において永遠になくなることはありません。当然、業務に携わる皆さんの意識の中にも、この起こりうるイレギュラーは経験上認識され、非常に大きな印象として存在していると思います。
結果的に、導入支援分析の時点で「これができなければいけない」、「このイレギュラーへの対応が必須」としてシステムフロー構築中にGapとして抽出され、カスタマイズ対応になることが多くあります。その結果、Fit&Gapコンサルティングをおこない、導入後フォローを構築していく中で、カスタマイズが累積されていくのです。
レギュラーを積み上げよう:フィッティング
次に、レギュラー(一般的な日常業務)について考えたいと思います。
そもそも、製造業の実業務においてイレギュラーの存在はなくならないと思いますが、実際のイレギュラーの存在・発生の割合はどの程度と認識されていますでしょうか?
業務を担当される皆さんにとっては、イレギュラーが非常に大きく印象づけられ、Fit&Gapにおいても、「これができなければいけない」、「このイレギュラー対応が必須」のように、非常に大きなテーマとなり、打ち合わせの際にカスタマイズしようと決めることが多いと記載しました。
しかし考えてみてください。日常業務はほぼ9割以上がレギュラー業務で進んでおり、そのレギュラー業務に則って製品が製造・出荷されているのではないでしょうか? そうでなければ、製造業は成り立っていないように思います。
そう、日常業務は製造業の皆さんが旧来から業務改善され、標準化・平準化されたレギュラー業務なのです。
システム導入・見直しは、日常業務の管理・情報活用の方法を改善し、収益性や生産性・効率の改善に向けて現状業務を調整していくためにおこなうものだと思います。
この調整(フィッティング)は、導入支援分析(フィッティングのコンサルティング)だけで達成できるものではありません。
この導入支援分析では、
- 導入目的・要求定義の確認と業務分析による業務の棚卸と業務の意図・目的の整理
- パッケージシステムによる新業務フローの方向性とフィッティングにおける課題の整理
をおこないます。
そして、フィッティングシミュレーションでさまざまな課題を改善するためのパターンテストを繰り返しおこない、フィットさせていきます。この期間を5~7カ月にわたる長期間で設定し、繰り返しパターンテストをおこなうことで、いかにレギュラー業務をその目的に照らして、業務改善や情報活用ができるようにフィッティングしていくかが肝となります。
レギュラー業務を5~6割、8~9割とフィッティングしていくことで、最終的にイレギュラー業務も含めたGapが精査されます。レギュラーを積み上げていくことで、システムでの応用とルールとが確立されGapが明確化します。この時点で確立されたレギュラー業務のルールと照らして、イレギュラー業務はシステム外でおこなうと判断されることが非常に多くなります。
そう、そもそもの目的は日常業務を改善することにあります。
決して、現状業務とのGapやイレギュラー業務をシステムに乗せることではありません。
日常業務における収益改善・業務改善を、システムの特性や管理手法を活用することでフィッティングし、確立することが大事です。
道具の使い方・応用はお客様の中に存在する
前回も記載したテーマをあらためて考えてみたいと思います。
道具は使い方によりその汎用性を発揮します。
汎用機であるパッケージシステムは、その標準化した特性や管理の手法にこそ利用価値が広がると考えます。
よくお聞きする話に「やってみなければ」、「使ってみなければ」分からないとのご意見があります。
その通りだと思います。
道具は使い方を模索して、応用することでやっとその価値を発揮します。
フィッティングにおける長期間のテスト稼働は、目的達成に向けて道具を有効活用するためのものです。
カスタマイズによるデメリットをなくし、ノンカスタマイズでの運用を目指して、フィッティングしましょう。
次回は8月25日(木)更新予定です。