第9回 売上と賃上げは比例するのか? 利益率から考える

『中小企業白書2025』によると、最低賃金は上昇を続けていますが、賃金の上昇率を物価の上昇率が上回っている状況です。物価の上昇や外注費の高騰により、企業の売上も増えているように見えます。その分の賃上げは可能なのでしょうか? 少しだけ数字について考えてみました。

売上と賃上げは比例するのか? 利益率から考える

売上が上がっているのに給料は上がらない?

最近では中小企業白書をはじめ、各種ニュースでも「賃上げ」という言葉をよく耳にします。『中小企業白書2025』によると、企業努力の結果として最低賃金は上昇を続けていますが、賃金の上昇率を消費者物価指数(物価)の上昇率が上回っている状況です。そのため、企業が賃上げを実施しても、「給料が上がっていない(実際には上がっている)」と感じる人が多いのかもしれません(税金も上がっていますし……)。
物価の上昇や外注費の高騰により、多くのサービスの価格が上がり、企業の売上も増えているように見えます。数字だけを見ると、業績が良くなっているように感じるかもしれません。

では、その分の賃上げは可能なのでしょうか? 少しだけ数字について考えてみました。

利益率が一定なら、賃上げも可能?

理論的には、売上が物価上昇により10%増えた場合、原価や賃金も10%増やしても利益率は維持できます。
例えば、売上が1億円、原価が6,000万円、賃金が3,000万円だった企業が、物価上昇により売上が1億1,000万円になったとします。原価と賃金もそれぞれ10%増えて6,600万円と3,300万円になれば、利益は1,100万円で、利益率は10%のままです。
このように利益率が一定であれば、売上と同率の賃上げは可能です。しかし、現実はそう簡単ではありません。

現実の壁:価格転嫁とコスト増

取引先との力関係や市場競争の中で、価格転嫁が難しいケースは少なくありません。
「値上げしたいけれど、取引先に言い出せない」「競合が安く出しているから、うちは価格を据え置くしかない」など、価格転嫁は重要ですが、価格を上げたことで取引自体がなくなってしまっては元も子もありません。また、原材料費や外注費、物流費などの原価が急激に上昇する中で、賃金まで引き上げる余裕がない企業も多いと思われます。その結果、「売上は増えているのに、賃上げできない」という状況が生まれてしまうのです。

利益率の「見える化」が鍵になる

こうした状況の中で、私が重要だと感じているのが「利益率の“見える化”」です。
利益率は、企業の健康状態を示す「体温計」のようなもの。この数値を経営層だけでなく、現場の社員にも共有することで、納得感と協力が生まれるのではないかと思います。

  • なぜ賃上げできないのか?
  • どうすれば賃上げできるのか?

会社の状況を正しく伝え、理解してもらうことで、「売上は増えているのに、なぜ賃金が上がらない?」という不満を解消できるかもしれません。そして、こうした問いに数字で答えられるようになることが、組織の力になると感じています。

私自身、利益率の推移(実際には、私の部署では費用対効果を見ることが多い)を知ったことで、日々の業務の中で「どこに無駄があるか」「どう行動すべきか」を考えるようになりました。

数字を共有することで、同じ方向を向ける

利益率の目標を共有すれば、社員の行動も変わると思います。

  • 無駄なコストを減らす
  • 業務効率化に取り組む
  • 付加価値の高い仕事を意識する

こうした取り組みが積み重なれば、利益が生まれ、賃上げの余地も生まれます。賃上げは「労働のご褒美」ではなく、みんなでつくる成果だと私は思います。
そのためには、数字を通じて「同じ方向を向く」文化が必要です。もちろん、数字だけで人の気持ちが動くわけではありません。でも、数字があることで話し合いの土台ができます。それが、現場の力を引き出す第一歩になるのではないでしょうか。

賃上げは「見える化」から始まる

売上と賃上げは、単純には比例しません。しかし、利益率を「見える化」し、社員と共有することで、事業の拡大、業績の改善、賃上げの可能性は現実味を帯びてきます。
利益率の可視化は、事業の内容によって難易度が異なります。原価計算が難しい事業では、その業種・業界の知見に加え、業務への理解も必要です。ERPパッケージや会計システムで対応できるケースもあれば、専用の外部システムを構築するケースもあります。特にリアルタイム性を求める場合は、運用面も含めて見直しが必要になるケースが多いと感じます。

現状、利益率や財務状況が月単位・四半期単位で見えない場合は、「利益率をどう“見える化”をするか」から考えていきましょう。

担当者のつぶやき

当社では、さまざまな分析やレポート作成にAIの導入が進んでいます。AIは、分析やレポート作成において非常に心強いパートナーとなりつつあります。利益率に関するレポート作成でも、頼れる存在になるでしょう。
実際にAIを使用してみた感想をつぶやきます。

AIのメリット

  • 作業が早い
  • レポート作成の工数削減効果が大きい

AIを使ってみて、ちょっと……と感じたこと

  • 売上分析の際、営業担当者の個人名を挙げて課題を指摘(心がないからこその“切れ味”があります)

AI、特に生成AIを活用する際は、その“切れ味”に注意が必要です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

市場調査チーム

大塚商会 マーケティング担当の市場調査チームです。各業界の動向を調査のみならず、最新のITサービス情報の調査などを担当しています。

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