第12回 付加価値はどのように生まれるのか~白書が示す「稼ぐ力」の中身を読み解く(2026年版 中小企業白書ベース)~

前回(第11回)では、「賃上げと利益構造のズレ」をテーマに、中小企業の労働分配率や価格転嫁の実態を白書の記述からたどりました。賃上げを続けるには「原資」が必要であり、そのためには「付加価値→利益→賃上げ」という順序を保つことが鍵になる、という整理でした。

では、その「付加価値」はどのようにして生まれるのでしょうか。2026年版中小企業白書は、「稼ぐ力」の中身として労働生産性の向上を軸に据えつつ、その実現に向けた取組を具体的に示しています。ここでは白書の記述をたどりながら、付加価値が生まれる構造を一緒に整理していきます。

付加価値はどのように生まれるのか~白書が示す「稼ぐ力」の中身を読み解く(2026年版 中小企業白書ベース)~

「稼ぐ力」とは何か

白書は「稼ぐ力」を「付加価値を生み出す力」と定義しています。そして付加価値の生まれ方を、次の式で整理しています。

付加価値額 = 労働投入量 × 労働生産性

この式が示すのは、付加価値を増やすには二つの方向があるということです。「人手・時間を増やす(労働投入量の増加)」か、「1人・1時間あたりの成果を高める(労働生産性の向上)」か、です。

ただし白書は、労働供給制約社会の到来を踏まえ、「人手不足が今後さらに深刻化するおそれがある」と指摘しています。労働投入量を増やし続けることが難しくなる中で、中小企業にとって「労働生産性の向上」が一層重要な意味を持つ、という流れです。

また白書は、物価上昇や人手不足が進む環境において「現状維持は最大のリスク」とも述べており、短期的な損益だけでなく、長期的な視点で事業構造・組織構造を再構築していく「戦略」を持った経営への転換を求めています。

中小企業の労働生産性の現状

現在の中小企業の労働生産性はどのような水準にあるのでしょうか。
白書によると、過去10年間において大企業の労働生産性が上昇傾向にある一方、中小企業はおおむね横ばいで推移しており、「伸び悩んでいる」と表現されています。

ただし、中小企業を一律に低生産性とみなすのは実態と合わない面もあります。白書の分析では、中小企業の中でも上位(75~90%タイル)に位置する企業群は大企業の中央値を超えていることが確認されています。「中小企業だから生産性が低い」のではなく、企業ごとのばらつきが大きい、というのが実態といえます。

なお、時間あたり労働生産性の試算では、中小企業全体として2015年度比+25.5%と、一定の改善傾向も示されています。改善が起きている側面があることも、白書は同時に確認しています。

資料:財務省「法人企業統計調査年報」

  • * ここでの大企業とは資本金10億円以上の企業、中小企業とは資本金1千万円以上1億円未満の企業とする。
  • * 金融業、保険業は含まれていない。
  • * 労働生産性は「従業員一人当たり付加価値額」、付加価値額=営業純益(営業利益-支払利息等)+人件費+減価償却費 支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課。

出典:「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」(中小企業庁)

また、業種別の10年間の推移を見ると、労働生産性が上昇した業種では賃金も上昇する傾向が確認されています。これは前回整理した「付加価値→利益→賃上げ」という順序が、業種レベルでも成立していることを示唆しています。

付加価値を増やすための取組

白書は、付加価値額を増やす取組を大きく二つの軸で整理しています。「1. 付加価値額の増加(分子を増やす)」と「2. 労働投入量の最適化(分母を整える)」です。

成長に向けた設備投資

白書の調査では、「成長に向けた設備投資に取り組んだ」事業者は、取り組んでいない事業者と比べて付加価値額の変化率(中央値)が高いことが示されています。製造業のパネルデータを用いた分析でも、設備投資を実施した企業はその後も付加価値額が高い水準で推移していることが確認されています。

ただし、設備を導入するだけでは効果は限定的です。白書は「設備稼働率の向上」が付加価値額の増加につながると指摘しており、そのためには投資前の収支計画の策定や業務プロセスの見直しが有効としています。実際、設備投資に取り組んだ事業者のうち約8割が収支計画を策定し、約7割が業務プロセスの見直しにも取り組んでいました。

一方で、設備投資に取り組んでいない企業がその理由として挙げているのは、「投資に見合う収益を確保できるか分からない」が最多(43.5%)で、「運用・保守できる人材が不足している」(28.7%)、「資金に余裕がない」(24.9%)と続きます。「効果が見通せない」という不確実性への懸念が、最大のハードルになっている実態です。

成長に向けたAI活用

白書の調査では、成長に向けたAI活用に「取り組んだ」事業者は、取り組んでいない事業者と比べて付加価値額の変化率(中央値)が高いことも示されています。設備投資と並ぶ有効な取組として、白書はAI活用を位置づけています。

まとめ(次回予告)

「付加価値額 = 労働投入量 × 労働生産性」という式のもと、労働供給制約社会においては労働生産性の向上が中核的な課題となります。白書は、成長に向けた設備投資やAI活用がその実現に向けた有効な手段であることを示しています。

一方で、多くの中小企業にとってはその一歩が踏み出しにくい現実もあります。「効果が見通せない」「人材がいない」「資金がない」という課題は、設備投資だけの問題ではなく、構造的な論点でもあります。

次回は、白書が「付加価値額の増加」に向けた有効な手段として位置づける「AI活用」にフォーカスします。約22%が取り組んでいるという現状から、活用の実態・阻む壁・将来的な変革の可能性まで、白書の記述をたどります。

担当者のつぶやき

「投資に見合う収益を確保できるか分からない」が、設備投資に踏み切れない最大の理由だと知り、なるほどと思いました。効果が見えにくいものへの判断は後回しにしてしまいがちで、それは私自身にも当てはまる部分があります。白書の示す傾向はあくまで統計的な傾向ですが、「取り組んだ企業の方が付加価値額が高い」という事実は、やはり一定の重みを持つように感じます。

この記事の著者

株式会社大塚商会

市場調査チーム

大塚商会 マーケティング担当の市場調査チームです。各業界の動向を調査のみならず、最新のITサービス情報の調査などを担当しています。

この記事のテーマと関連するページ

公式Facebookにて、ビジネスに役立つさまざまな情報を日々お届けしています!

お仕事効率研究所 - SMILE LAB -

業務効率化のヒントになる情報を幅広く発信しております!

  • 旬な情報をお届けするイベント開催のお知らせ(参加無料)
  • ビジネスお役立ち資料のご紹介
  • 法改正などの注目すべきテーマ
  • 新製品や新機能のリリース情報
  • 大塚商会の取り組み など

お問い合わせ・ご依頼はこちら

詳細についてはこちらからお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

0120-220-449

受付時間
9:00~17:30(土日祝日および当社休業日を除く)
総合受付窓口
インサイドビジネスセンター

ページID:00306242