第21回 業務の標準化を“否が応でも”実行させる方法(その1)

業務改善、生産性向上を進めるにあたって避けては通れないのが「業務の標準化=属人化の解消」です。分かっちゃいるけど、実行が難しい「標準化」を強制的に始めさせる仕組み、しかけをご紹介いたします。

業務の標準化を“否が応でも”実行させる方法(その1)

業務改善、業務の生産性向上を進めるにあたって、必ず登場する言葉が「標準化」です。標準化、すなわち、「属人化の解消」は必要と分かっているものの、なかなか実行が難しいものです。時間も手間もかかり、みんなが嫌がります。しかし、難しい、嫌だと言っても、業務改善には避けては通れないものです。

  • 人によって業務のやり方が違う。仕事の品質がバラバラ。
  • 業務がブラックボックス化していて何をやっているか分からない。
  • 担当者が一人しかいない業務(一人業務)がある。その人が不在だと業務が停止する。
  • 新人への指導に時間がかかる。
  • 引き継ぎがスムーズに行われない。

等々。これらを生み出している「業務の属人化」を解消せずして、生産性向上はありません。

多くの人が、難しい、嫌だと思っている標準化ですが、自主性に任せていては一向に進みません。今回と次回の2回にわたって、「業務の標準化を強制的に始めさせる方法」を紹介します。ただし、「強制的に」と言っても、首根っこをつかんで無理やり行わせるわけにもいきませんし、それでは成果も出ません。
標準化を始めざるを得ない状況をつくる仕組み、しかけをご紹介します。

今回は、ある企業(以下、「S社」とします)が行っているユニークな“10日間連続休暇制度”を紹介します。この企業は、私のクライアント企業の一つで、働き方改革や人材管理でさまざまな取り組みをされています。

「10日連続休暇制度」が、業務の標準化を促す

S社には10日間の連続休暇制度があります。5日間は各自の有給休暇、5日間は会社が付与する特別休暇、合わせて10日間の休暇です。この連続休暇を社員は必ず取得しなければなりません。実際には土日が加わり2週間と、結構な長さのお休みになります。
この制度には二つの目的があります。一つは、社員にまとまった休暇でリフレッシュしてもらうこと。もう一つは、長期休暇のタイミングで仕事の属人化を解消させることです。

定型化された業務を多人数が行っている場合を除けば、担当者が2週間不在となれば、S社に限らずたいていの場合は、業務に支障が出るので、別の人に引き継ぎをせざるを得ないでしょう。S社の連続休暇制度はこの引き継ぎの機会を強制的に発生させるのです。

休暇を取得する人を「Aさん」、引き継ぎを受ける人を「Bさん」として説明します。
休暇前にAさんが中途半端な引き継ぎをすれば、Bさんや職場に迷惑をかけることになります。そこで、Aさんは仕事の方法を整理して、引き継ぎ資料を作成し、分かりやすく説明しなければなりません。このプロセスが標準化の“初めの一歩”となります。この段階で“一人業務”、“業務のブラックボックス状態”の解消が始まります。

S社では、この連続休暇のタイミングで全社員が毎年、Aさんの立場で引き継ぎを行います。そして、多くの社員がBさんの立場で今まで担当したことのない新たな業務を担当し職域を拡大していくのです。(引き継ぐ相手は、過去に引き継いだ人とは別の人から選ぶことが原則となっています)

休暇明けのミーティングで、引き継ぎをやりっ放しにしない

休暇が明けた後、引き継ぎをした社員(Aさん)、引き継ぎを受けた社員(Bさん)、そして別の社員(Cさん)が加わり、当該業務についてミーティングを行います。「Aさんの引き継ぎは分かりやすかったか」、「引き継ぎを受けたBさんの仕事ぶりは問題なかったか」、「Bさんから見てその業務に改善余地はないか」などを話し合います。複数の視点で業務を捉えるといろいろなことが見えてきます。
第三者Cさん(上司や先輩社員など)が同席するのは、客観的な立場で意見、疑問を呈したり、一対一による話し合いでの遠慮を防いだりするためです。先輩社員が後輩社員に仕事を引き継いだりする場合、遠慮がちになってしまうことは想像に難くないでしょう。
このミーティングをしっかり行うことで、引き継ぎを“やりっ放し”にせず業務改善、標準化に繋げることができるのです。

もちろん、このプロセスだけで標準化が完了するわけではありません。しかし、引き継ぎ準備、引き継ぎ、業務遂行、休暇明けのミーティングなどによって、標準化の7割、8割くらいは完了という状態になります。

制度を運用するために行う三つのこと

この制度を導入する際、行うことは三つです。

  1. 一つは、引き継ぎをするための“簡単”なフォーマットを用意することです。書き手と読み手の視点で作成し、そのフォーマットに沿って業務を記していくと、引き継ぎに必要な項目を網羅されるようにします。マニュアルのような煩雑な物を作らなければならないのでは、この制度の運用は難しいものとなります。
  2. 二つ目は、仕事の標準化、引き継ぎに関するトレーニングを行うことです。このトレーニングは、私が講師をした際のテキストを使って、今も社内講師が継続して行っています。
  3. 三つ目は、休暇取得ルールの策定です。10日間の連続休暇ですから、各自が好き勝手に取得すれば職場は混乱してしまいます。申請時期、申請方法、休暇希望時期が重複した際の調整・承認方法などを定めています。業務に支障がなく、同時に、社員が公平感、満足感を持つルールとすることに苦労しました。

社員の仕事への意識が変わった

この制度を導入してから、多くの社員の仕事への意識が変わったようです。口頭による引き継ぎではなく事前に準備をして引き継ぎをするという経験をしたため、「この仕事の目的は何か?」「仕事の進め方をシンプルにできないか?」「自分独自の勝手なやり方になっていないか?」などを考えながら仕事をする“思考のクセ”ができたようです。制度運用開始から3年が経ちますが、最近では休暇前に慌てて引き継ぎの準備をする社員が少なくなりました。

連続休暇制度による引き継ぎが標準化を促す、という事例の一つを紹介しました。そうは言っても、毎年、全社員に連続10日の休暇を取得させることは多くの企業にとって簡単なことではないでしょう。しかし、引き継ぎ、標準化を「始めざるを得ない状態」を生み出すという考え方は有効であり、さまざまな応用が可能だと思います。

次回は「標準化を強制的に始めさせる」別の仕組み、しかけを紹介します。
簡単に予告をしますと「社内短期留学制度」というものです。どうぞお楽しみに!

次回は12月7日(木)更新予定です。

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この記事の著者

ワークデザイン研究所 代表

太期 健三郎(だいご けんざぶろう)

ビジネス書作家/経営コンサルタント。
得意とする専門領域は、HRM(人材マネジメント)、人事・総務部門の業務改善。
三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、現職。グロービスではグループ管理本部でコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括し、ミスミでは全国13カ所の営業所、コールセンターの業務改善や、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革などを行う。
また、2013年~2015年にはクライアント企業であった食品メーカーの人事部長を兼務する。
神奈川県横浜市出身。著書『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所

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