第29回 数字で見る「テレワークの実施状況」と、成功のための三つのポイント

コロナ禍でテレワーク採用企業が増えています。マスコミでは正確に報道されない実施率やその効果を「数字」で紹介するとともに、テレワークを機能させるために必要な三つのポイントを紹介します。

数字で見る「テレワークの実施状況」と、成功のための三つのポイント

皆さん、こんにちは。長らく休載していました当コラムを再開させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
このコラムの休載時(2018年5月)と現在との大きな変化は何だろう? と考えてみました。
世の中ではやはり新型コロナウイルスのまん延でしょう。そして、ビジネスでの大きな変化の一つは、テレワーク実施企業の大幅な増加だと思います。コロナ禍を契機に多くの企業がテレワークの運用を開始しました。
今回は、当コラムで繰り返し取り上げてきた「業務改善」の視点で、テレワークと「仕事の生産性」について述べていきます。

テレワーク運用の実態

新型コロナウイルスまん延をきっかけに、テレワーク(注1)の運用開始企業が大きく増えています。筆者がお付き合いしてきた企業でも、以前は「当社の業種、企業規模ではテレワークは難しいですよ」「うちの部署(経理、営業など)の仕事ではテレワーク実施は現実的には無理ですね」と導入を検討すらしない声が多く聞かれました。
しかし、そのような企業でも現在、テレワークを行っている企業は少なくありません。コロナ禍での必要性に迫られての結果でしょう。「ほら、やればできたじゃないですか!」と心の中で呟きたくなることもあります。

  • (注1)今回のコラムでは、テレワークを「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務(施設利用型勤務)」の三つの形態の総称として説明します。

各種マスコミでテレワークについて報道されています。とても多くの企業で実施され、企業にも従業員にも大きなメリットが出ているような印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。実態はどうなんでしょう。テレワークについてさまざまな調査がありますが、東京商工会議所が実施した調査(注2)からテレワークの実施状況を「数字」で紹介していきます。

(注2)「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」(東京商工会議所実施/2021年9月発表・PDF)

まず、テレワーク実施率の推移(図1)を見てみましょう。

新型コロナウイルスの感染が広がり、緊急事態宣言が発令された直後に実施率が上がったことが分かります。その後、現在に至るまで感染が広がるとテレワークの実施率が高まり、収束してくるとテレワークの実施率が下がる、という繰り返しが続いています。残念ながら、テレワークが新しい働き方の一つとして常態化するには至っていないのが現状です。

次に、テレワークの従業員規模別実施率(図2)を見ると、従業員規模が大きくなるほど実施率は高くなっています。全体では39.9%、50人以下の企業では31.0%、301人以上の企業では75.0%となっています。

以下のグラフ(図3)は業種別の実施率です。製造業(44.0%)、卸売業(42.7%)、サービス業(39.5%)、建設業(37.1%)、小売業(27.5%)、全体では39.9%となっています。

テレワークによる効果

同調査では「テレワークの実施効果」についての質問もあります(図4)。
「(テレワークの効果が)特になし」が43.8%、「働き方改革の進展」が30.6%、「業務プロセスの見直し」が28.3%、「コスト削減」が12.8%、「定型的業務の生産性向上」が10.1%と、すこし寂しい結果となっています。
「働き方改革の進展」、「業務プロセスの見直し」、「コスト削減」で一定の効果は見られるものの、「定型的業務の生産性向上」は10.1%と低い数値になっています。「非定型的業務(=判断業務)」が多い人事・総務部門でテレワーク実施によって生産性を高めるにはさまざまな取り組み、工夫が必要となります。

また、別の調査(注3)では、「テレワークの経験者」にテレワークのメリットをたずねたものがあります(図5)。
この質問への回答は「通勤時間・移動時間の削減」が81.6%と突出して高い結果となっています。テレワークにより会社との往復がなくなるわけですから当然の結果でしょう。
「育児との両立」、「家族と過ごす時間の増加」などワークライフバランス実現のメリットが見られますが、「業務の生産性」という視点では「定型的業務の生産性向上」、「創造的業務の生産性向上」はまだまだ十分な効果は出ていません。

(注3)「多様な働き方に関する実態調査(テレワーク) 結果報告書 」16ページ(東京都産業労働局・PDF)

(参考)テレワーク活用に向けた支援(東京都TOKYOはたらくネット)

テレワークを成功させる三つのポイント

これらの調査を見ると、テレワークの効果が十分に表れているとはいえません。コロナ禍で準備が不十分な中で開始して、試行錯誤をしながら運用を進めているのですから仕方がない結果でしょう。
テレワークの運用を「業務改善」、「生産性向上」の“きっかけ”だと前向きにとらえたいものです。うまく実施すれば、生産性向上、コスト削減、通勤の時間と負担の軽減、ワークライフバランスの実現など企業と従業員双方に大きな効果が期待できます。そして、テレワークがコロナ禍での「出社の代替え手段」、「一過性のもの」で終わることなく、働き方の選択肢として定着すればよいと私は考えます。

それでは、テレワークを成功させるには何が必要でしょうか?

  1. 業務の標準化
  2. コミュニケーションのルール化
  3. 上司のリーダーシップ&マネジメント・スキルの向上

の三つがテレワークを成功させるポイントだと私は考えます。どれも大げさな難しいことではありません。

  1. 経験、阿吽(あうん)の呼吸、勘などによって行われている仕事は少なくありません。「業務の標準化」は、それらの仕事の手順の「型」や「ルール」を明確にすることです。
  2. 「コミュニケーションのルール化」は、仕事の指示、報告・連絡・相談、質問、進捗確認、ミーティングなど仕事に関わるコミュニケーションのルールを定めることです。これによって効率的に、ストレス少なく仕事を進めることができます。ちなみに“仕事のトラブルの8割はコミュニケーションが原因である”といわれています。
  3. 「上司のリーダーシップ&マネジメント・スキル」は、仕事の目的やゴールをメンバーに明示するリーダーシップと、その達成のために業務をマネジメント・フォローするスキルを向上させることです。これは対面での業務以上にテレワークでは重要になります。

それぞれの内容について、次回以降に事例を交えながら詳しく解説していきます。どうぞご期待ください。

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この記事の著者

太期 健三郎

ワークデザイン研究所 代表
石山社会保険労務管理事務所 パートナー・コンサルタント

経営コンサルタント。
管理間接部門の業務改善、HRM(人材マネジメント)の二本の専門領域を持つことを強みとする。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスに勤務後、2008年にワークデザイン研究所を設立。
MURCでは人事コンサルティング、ミスミではコールセンターの業務改善を行った後、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革を推進する。グロービスではコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括、推進。
また、2013年~2015年にはクライアント企業の食品メーカーの内部改革者として人事部長・経営改革室長を兼務する。
「患者様の声をよく聴き、丁寧に診断・治療する“中小企業のかかりつけ医”」を信条としている。
ワークデザイン研究所
石山社会保険労務管理事務所

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