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建設業で週休2日制は進めるべき? そのために必要な対応
一般企業では週休2日制が当たり前となりつつありますが、建設業ではまだまだ週休1日のところも少なくありません。この記事では、建設業で週休2日制が推奨される背景や国の方針について取り上げ、建設業において週休2日制を導入するメリットや建設業で週休2日制が進まない要因について詳しく解説します。さらに建設業の週休2日制実現へ向けて行うべき取り組みについて紹介します。
目次
建設業の「週休2日制」は義務?
現時点(2024年3月)で建設業の週休2日制は義務化されていません。しかし2017年3月、政府主導で取りまとめられた「働き方改革実行計画」にて、建設業における週休2日の確保など、建設業の労働環境改善が推奨されています。まずは、今後の建設業界の動向に大きく関わる週休2日制が推進される背景などについて解説します。
2024年4月に始まる「時間外労働の上限規制」が背景
上記の「働き方改革実行計画」を進めるにあたり各種労働関連の法律改正をするためにつくられたのが、いわゆる「働き方改革関連法」です。2019年4月に施行されたこの法律では、時間外労働に罰則付きの上限規則が設けられ、大企業は2019年4月から、中小企業は1年間猶予されて2020年4月から施行されました。そして、建設業や運送業には5年間の猶予期間が設けられ、2024年4月から適用開始です。適用される時間外労働の上限規制の内容は以下のとおりです。
- 労働時間は原則1週40時間、1日8時間。これを超えて働く時間(残業時間)の上限は、原則月45時間以内、年360時間以内。
- 臨時的な事情がある場合でも年720時間以内、月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)で、原則である月45時間を超えられるのは年間6カ月まで。
このような長時間労働の是正から、建設業界でも週休2日制導入の動きが強まっています。
週休2日制を導入しなくても罰則はない。ただし……
建設業において週休2日制を導入しなくても特に罰則はありません。しかし、2024年4月からは時間外労働の上限規制が適用され、もし違反した場合には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。罰則を受けたとなれば、企業のイメージダウンはもちろん、採用活動などに影響を与えることにより、業績に悪影響を与えかねません。
また、働き方改革の影響を受けて厚生労働省や国土交通省、一般社団法人日本建設業連合会(日建連)を中心に建設業界での労働環境改善の動きが広がっています。この状況に合わせていち早く週休2日制を導入するのは、企業として賢明な判断かもしれません。
建設業で週休2日制を導入する三つのメリット
建設業で週休2日制を導入すると以下のようなメリットが期待できます。それぞれのメリットについて詳しく解説します。
- 人材の確保につながる
- 生産性の向上が見込める
- 企業イメージが向上する
人材の確保につながる
厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査」(注1)によると、2023年1月の月間実労働時間の平均は127.1時間、出勤日数の平均は16.5日です。それに対して建設業の月間実労働時間は145.4時間、出勤日数は17.8日と労働時間が長いことが分かります。さらに日建連の報告書(注2)によると、2023年度の建設業の作業所閉所状況は、4週8閉所以上が49.4%と2018年度の23.6%から増加傾向にあります。ただし、「土木」と「建築」に大別すると、「土木」の4週8閉所以上が62.6%に対し、「建築」の4週8閉所以上は35.6%と、週休2日制を導入している建築事業所が少ないことが分かります。
つまり、労働時間が長い建設業において、早いうちから週休2日制を導入することは他社にない強みとなります。この強みは採用時に人が集まりやすくなる、従業員の定着率の向上が期待できるなど、優秀な人材の確保につながります。
(注1)参照元:「毎月勤労統計調査 令和6年1月分結果速報」(厚生労働省/PDF・p1、p7)
(注2)参照元:週休二日実現行動計画 2023年度上半期 フォローアップ報告書(一般社団法人日本建設業連合会/PDF・p3、p5)
生産性の向上が見込める
週休2日制の導入によって従業員がしっかりと休息を取れれば、健康の維持や増進につながります。また、週休2日制で従業員のワーク・ライフ・バランスを改善することは、従業員満足度の向上に直結します。その結果、働く意欲が上がって生産性の向上が見込め、さらに従業員が健やかな状態で業務に従事できるので、安全性の向上も期待できます。
企業イメージが向上する
週休2日制を導入することは企業のイメージアップにもつながります。建設業と言えば「3K(きつい、汚い、危険)」「休みが少ない」「残業が多い」といったマイナスイメージがつきまとっています。しかし、週休2日制を導入して「従業員を大事にする企業」というイメージを与えることは、顧客や取引先からの評価を上げ、そして自社の従業員に対しても好印象につながり、業界に根付いたマイナスイメージを払拭できるかもしれません。
何が課題? 建設業界の週休2日制導入を阻む要因
働き方改革で労働時間の見直しが叫ばれている昨今、それでも建設業界で週休2日制の導入が進まないのには、以下のような要因が関係しています。
- 工期の調整が難しい
- 技術者の日当が減る
- コスト増につながる
工期の調整が難しい
建設現場には必ず工期が設定されています。しかし、建設業は天候に左右されやすく、天候が悪いと工事が中断することもあります。また、設計変更や施工ミス、人手不足、資材不足などによっても工期は遅れます。しかし、工事の進捗(しんちょく)に遅れが生じても基本的に工期は延長されないため、現場作業員は休み返上で働かなければなりません。週休2日制を実現するには余裕のある工期設定と柔軟な工期延長への理解が必要なため、なかなか導入に踏み込めないケースが多いです。
技術者の日当が減る
建設現場では、当日に働いた分がそのまま日給として支給される「日給制」で働いている職人が多いです。そのため、週休2日制の導入で休みが増えると給与が減る可能性が高く、週休2日制が進まないのが現状です。
コスト増につながる
週休2日制となれば工期が長くなり、その分コストが増えます。具体的には人件費や重機のレンタル代などで決して少額ではないため、週休2日制の実現にはコスト削減などの対策が必要不可欠です。
建設業界の「週休2日制」、実現へ向けて今やるべきこと
建設業界における週休2日制の導入を阻む要因を解消するには、どうすればよいのでしょうか。ここでは無理なく働き方改革を実現するための対策を紹介します。
工期設定や給与形態の見直し
週休2日制が導入されると今までよりも作業時間が減るため、工期設定の見直しが欠かせません。天候不順や人手不足などで工期が遅れても調整しやすいように余裕のある工期設定にすることと、工期延長について発注者やクライアントから理解を得ることが必要です。
さらに週休2日制の実現には給与形態の見直しも忘れてはいけません。労働日数によって給与が変化する「日給制」の状態で週休2日制に移行すると従業員の給与は減少します。従業員が安定した収入を得るためにも「月給制への移行」といった給与形態の見直しを行いましょう。
業務効率化につながるITツールの導入
週休2日制を実現させるためには、業務効率化に役立つITツールを導入してムダを省くことも必要です。例えば、クラウドサービスが利用できるスマホやタブレットを導入することで、従来紙ベースだった図面や写真の管理や情報の共有が簡単になり、印刷代のコスト削減にもつながります。併せて、現場から共有された情報を基に日報の作成や紙ベースで作成が必要な役所への提出書類についても、事務員にシフトできるように整えれば、現場作業員の労働時間の短縮につなげることも可能です。
また、現場管理や工程管理、勤怠管理といった事務作業を効率化できるITツールの活用もおすすめです。現在、国土交通省でもICTの全面的な活用によって建築現場の生産性向上を図る取り組み「i-Construction(アイ・コンストラクション)」が行われています。
まとめ
建設業界では2024年4月から施行される時間外労働の上限規制に伴い、週休2日制の導入が求められます。しかし、建設業で週休2日制を導入するには、工期の調整や労働環境の見直しが必要不可欠です。また、業務効率化につながる現場管理や資材管理、勤怠管理などができるITツールの導入も欠かせません。
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Universal 勤次郎|建設業2024年問題はDXで対応
この記事の監修者
監修者:下川 めぐみ
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ所属社労士。
医療機関、年金事務所などでの勤務の後、現職にて、社会保険労務士業務に従事。
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