第7回 知財保護でのデジタルエビデンス活用

今回は、知財保護でのデジタルエビデンス活用について書いてみたいと思います。

知財って何?

知財とは知的財産権のことであり、知的に創造されたもので、資本とみなされる資産の権利です。
知的財産権は、基本的に権利者の創作物のものまねを排除する権利ですが、たとえ権利者の創作物をまねたわけではなく、独自に創作した場合であっても、同じものを作れば権利侵害になってしまう"絶対的独占権"と、権利者の創作物を知らずに、独自に創作した場合には、権利侵害とならない"相対的独占権"があります。 目的別では、創作意欲の促進を目的とした"知的創造物の権利"と、信用の維持を目的とした"営業上の標識の権利"とに大別されます。

絶対的独占権の中に、産業財産権として「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」という4つの権利があります。
製品に個性をもたらす機能・性能、ブランドなどを一定期間独占的に使用する権利として、経済産業省特許庁に出願し登録することで得ることができます。

知恵の蓄積が新しい文化・文明を創り、豊かな社会を作り上げていくことは明らかです。
そのためにも、技術・アイデアは共有すべきものなのですが、その苦労を報いるインセンティブが必要です。
産業財産権制度は、公開と引き換えに一定期間のみ特定者に独占的権利を与えることで、技術の進歩を継続して創造していく意欲を確保するための重要な制度なのですね。

一方、最近TPPやオリンピックエンブレムで物議を呼んでいる「著作権」は、産業の発展を目指す産業財産権とは異なり、相対的独占権で芸術・文化的要素といった作品の精神的な表現を保護するため、文科省文化庁が所管しています。

オープン&クローズ戦略

経営上の戦略として、3つ知的財産戦略が想定されます。
以下の1・2がオープン戦略で、3がクローズ戦略です。

  1. 権利化戦略:特許化し絶対的独占権を獲得(攻撃的防御)
    特許権は、同一発明や権利内容に抵触する技術については権利を行使することで20年間独占することができ、市場での優位性を得ることができます。
    しかし、これは前述のように産業育成が目的なので、技術内容を公開する代償のもと得られる権利です。
    出願公開制度は、出願日から1年半で自動的に全世界に向けて公開されます。
    特許出願という行為は、特許権取得の保証はなく、結果として拒絶査定もありえます。
    もちろん、その間費用も時間も費やすことになります。
    最近では、インターネットを介して情報を得ることが簡単に可能になっていることから、国際的に特許申請をしないと、合法的にこの公開技術情報が海外に流通することにもなります。
    発明技術内容を全世界に公開し、拒絶査定になるかもしれないというリスクを鑑みての経営判断が必要です。
  2. 公知化戦略:公知の事実にして他社の独占を避ける(競争回避策)
    他に競争力を保持している場合や、先使用権の確保が困難な場合に用いる戦略です。
    標準化やオープンソース化により、技術発明を公開し賛同事業者間での協業等による事業基盤を創造し、そのうえで事業を展開する場合に用いる戦略です。
  3. 秘匿化戦略:独自技術を社外秘とし先使用権主張(受動的防御)
    ノウハウのように、公開しないほうが利益を生む知財への外部からの攻撃に対する防御策です。
    先使用権を確保し、防衛能力を持ちながら知財を秘匿することができます。
    特許権より長い防衛期間を持ち、権利の売買・企業価値の増大などの経営戦略的施策にも活用できます。

先使用権とは、特許法の第79条に(先使用による通常実施権)として規定されています。
「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。」

実用新案法第26条、意匠法第29条においても同趣旨の規定があり、特許権、実用新案権、意匠権において共通の考え方です。

先使用権は、先願主義による特許権利化による、先使用者と特許権者の公平性を保つために規定されている権利です。先使用の事実証明ができれば、特許権の通常使用権を無償で得ることができ、事業継続が可能となります。

クローズ戦略をとる場合の課題と解決

秘匿化戦略が、これからの事業経営では大変重要な戦略になることは明白ですが、上述のように、先使用の事実証明ができないと先使用権は得ることができません。クローズ情報は、ノウハウや営業秘密情報など、通常業務上で発生する情報です。そのため、内容が曖昧になりがち、作成時期が曖昧になりがち、情報が散逸しがち、責任部署が全社に拡散するといったリスクがあり、その「管理」が肝要です。

特許庁が平成18年6月に発表した「先使用権制度の円滑な活用に向けて-戦略的なノウハウ管理のために-」には、先使用立証に有効と思われる資料と証拠確保タイミング、および証拠力を高める具体的な手法が紹介されています。

先使用権制度の円滑な活用に向けて-戦略的なノウハウ管理のために-(特許庁Webサイト;PDF) [6.34MB]

通常業務にて生成される資料で先使用立証のためのタイミングと情報を以下に記載します。

  1. 研究開発段階
      研究ノートによる記録、社内稟議、研究予算獲得、発注書、請求書、納品書、素材収集、研究活動日報等々の記録
  2. 発明の完成段階
      試験結果、計測記録、シミュレーション評価、完成品の性能・機能評価レポート、実用性評価レポート、完成品の設計書、仕様書、商品化の検討等々の記録
  3. 事業準備段階

      事業計画書、設計図・仕様書、金型見積書、製作、試作品の完成・納品
  4. 事業段階
      事業開始決定書、請求書、納品書・受注書、作業日報、カタログ、商品取扱説明書
  5. 形式変更段階
      設計図・仕様書、作業日報、カタログ・取扱説明書

先使用権が認められるためには、他者の特許出願の際に、その発明の実施事業もしくはその準備をしていることが要件となっています。先使用権を立証するための証拠としては、実施事業もしくはその準備の内容を証明できるとともに、それがいつ作成されたのかも証明できることが重要です。その場合、改ざんされていないことを証明でき、また、その証拠資料を誰が作成したのかも証明できることは、その証拠力を高める上で重要なポイントとなります。
そこで、いつ(日付証明)、誰が(作成者証明)、どのような資料等を作成したかを将来にわたって証明できるか否か(非改ざん証明)というポイントを中心にして、先使用権の証拠保全に有効な制度・サービスとして公証サービス、タイムスタンプと電子署名、郵便が紹介されています。

この資料に紹介されているようにさまざまな手法がありますが、図3のように比較表を記載すると、手軽で社内の多数の関係者に最も協力が得やすく大量に対応できる「タイムスタンプ」が有用であることがよく分かります。その他の手法では、先使用権の獲得のための準備は事実上困難であることが現実ですね。

先使用権制度の円滑な活用に向けて-戦略的なノウハウ管理のために-特許庁(平成18年6月)[4]証拠能力を高めるための具体的な手法の紹介

特許庁における営業秘密保護サービス

平成25年に閣議決定された「日本再興戦略」において、「世界最高の知的財産立国」を目指す取り組みの中で基礎インフラ機能として、「営業秘密管理事業(仮称)」を実施するにあたり、訴訟における営業秘密の立証を手助けするシステムの検討が進められました。
その結果として、平成29年3月よりINPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)でタイムスタンプ保管サービスが無償で開始されます。

第4回のコラムで解説しました、認定事業者によるタイムスタンプを公的機関であるINPITが預かり、預かり証を発行するシステムです。国内外における営業秘密にかかる証拠保全に有用なサービスとして、利活用されることが期待されます。

タイムスタンプの保管サービスを始めます(2017年3月開始予定)(特許庁Webサイト;PDF) [8.04MB]

タイムスタンプ保管サービスについて(独立行政法人 工業所有権情報・研修館Webサイト)

次回は、医療情報におけるデジタルエビデンス活用の紹介をしたいと思います。

次回は6月7日(火)更新予定です。

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この記事の著者

セイコーソリューションズ株式会社 戦略事業開発部 部長

柴田 孝一

1982年 電気通信大学通信工学科を卒業し、株式会社第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)に入社。
2000年にタイムビジネス事業(クロノトラスト)を立ち上げ、2013年にはセイコーソリューションズ株式会社の設立と共に移籍。SEIKOグループのサイバータイムビジネス責任者として現在に至る。
専門分野は、タイムビジネス(TrustedTime) 論理回路設計・PKI・情報セキュリティ。
タイムビジネス協議会 (2006年発足時より委員、2011年より企画運営部会長)
『概説e-文書法 / タイムビジネス推進協議会編著』(NTT出版)共著
タイムビジネス信頼・安心認定制度 認定基準作成委員
セイコーソリューションズ株式会社

ICT社会における新しい文化「デジタルエビデンス」 バックナンバー

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