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第26回 確定日付とタイムスタンプ
情報の存在を証明するという同じ目的に利用されている、「確定日付」と「タイムスタンプ」。明治時代に法で定義・求められた「確定日付」を整理し、現代のデジタル社会における認定事業者が発行する「e-確定時刻」であるタイムスタンプとの差異について解説します。
確定日付とタイムスタンプ
今回は、「確定日付」と「タイムスタンプ」について整理します。
確定日付とタイムスタンプは、どちらも、情報の存在証明をするという目的は同じです。
何も保全していない記録は、後日簡単に偽造できてしまうし、
複数間でやりとりする契約についても、共謀・通謀することで、偽の資料をが作成できてしまいます。
このために、 否認されてしまうというリスクへの対抗策が、確定日付であり、タイムスタンプなのです。
作成日時や前後関係について争いになったときに証明するために第三者が介在して作成日時を付与する制度ですね。
確定日付は、民法施行法で規定されています。
民法施行法は、今からちょうど10回前の戌年、120年前の1898年(明治31年)に公布されています。
もちろん、タイムスタンプなんてありません。
タイムスタンプは、日本語であえて 命名すると「e-確定時刻」でしょうか。
明治の時代には実現できなかった、正確で確実な時刻を付与する制度ですね。
明治の時代では、存在証明のためには、信頼のおける第三者(ヒト)に依存するしかなく物理的に、時刻ではなく、営業時間内すなわち日付というレベルでの付与をすることで対応していたのですね。
時代を経て、デジタルで通信ができる社会になって、外部の信頼のおける第三者が提供する「信頼できる時刻」を暗号技術でもって付与し、その時刻にその情報があったことをネットを介して確定する「e-確定時刻」がタイムスタンプですね。
確定日付
では、「確定日付」について民法施行法には、なんて書いてあるか、覗いてみましょう。
第四条 証書ハ確定日附アルニ非サレハ第三者ニ対シ其作成ノ日ニ付キ完全ナル証拠力ヲ有セス
第五条 証書ハ左ノ場合ニ限リ確定日付アルモノトス
一 公正証書ナルトキハ其日付ヲ以テ確定日付トス
二 登記所又ハ公証人役場ニ於テ私署証書ニ日付アル印章ヲ押捺シタルトキハ其印章ノ日付ヲ以テ確定日付トス
三 私署証書ノ署名者中ニ死亡シタル者アルトキハ其死亡ノ日ヨリ確定日付アルモノトス
四 確定日付アル証書中ニ私署証書ヲ引用シタルトキハ其証書ノ日付ヲ以テ引用シタル私署証書ノ確定日付トス
五 官庁又ハ公署ニ於テ私署証書ニ或事項ヲ記入シ之ニ日付ヲ記載シタルトキハ其日付ヲ以テ其証書ノ確定日付トス
六 郵便認証司(郵便法(昭和二十二年法律第百六十五号)第五十九条第一項ニ規定スル郵便認証司ヲ謂フ)ガ同法第五十八条第一号ニ規定スル内容証明ノ取扱ニ係ル認証ヲ為シタルトキハ同号ノ規定ニ従ヒテ記載シタル日付ヲ以テ確定日付トス
2 指定公証人(公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第七条ノ二第一項ニ規定スル指定公証人ヲ謂フ以下之ニ同ジ)ガ其設ケタル公証人役場ニ於テ請求ニ基キ法務省令ノ定ムル方法ニ依リ電磁的記録
(電子的方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ認識スルコト能ハザル方式(以下電磁的方式ト称ス)ニ依リ作ラルル記録ニシテ電子計算機ニ依ル情報処理ノ用ニ供セラルルモノヲ謂フ以下之ニ同ジ)ニ記録セラレタル情報ニ日付ヲ内容トスル情報(以下日付情報ト称ス)ヲ電磁的方式ニ依リ付シタルトキハ当該電磁的記録ニ記録セラレタル情報ハ確定日付アル証書ト看做ス但公務員ガ職務上作成シタル電磁的記録以外ノモノニ付シタルトキニ限ル
3 前項ノ場合ニ於テハ日付情報ノ日付ヲ以テ確定日付トス
おおおお、 漢字+カタカナですね
まず、証書を整理します。
証書とは、権利・義務・事実等を証明する文書をいいます。
そのうち、公正証書と私署証書に分けられます。
公正証書:公務員がその職務上作成した文書を公文書といい、そのうち、公務員がその権限に基づき作成した文書
私署証書:私文書で私人の署名または記名押印のある文書
さて、4条で
「証書は、確定日付がなければ、その作成日について完全な証拠力を持てない。」
とあります。。逆説的な記載ですね。
これは、確定日付があれば、その日にその文書が存在していたことを証明できる、ということを認めています。
そして、5条1項で何をもって確定日付とするかが、書かれています。
- 公正証書の場合は、その日付をもって確定日付とする。
公務員がその権限に基づいて作成した文書に記載されている日付が確定日付となります。 - 登記所または公証人役場において私署証書に日付のある印章を押捺したとき、その印章の日付をもって確定日付とする。
登記事務を行う国の行政機関または公証人役場で、私人の署名または記名押印のある文書(私署証書)に日付の入った印章が捺印された場合、その日付が確定日付となります。 - 私署証書の署名者中に死亡した者があるときは、その死亡の日をもって確定日付とする。
- 確定日付のある証書A中に私署証書Bを引用した場合、その証書Aの日付をもって私署証書Bの確定日付とする。
- 官庁または公署において、私署証書にある事項を記入し、これに日付を記載したときは、その日付をもって確定日付とする。
公的機関で、私人の署名または記名押印のある文書に、何らかの事項を追記し日付を記載した場合は、その日付が確定日付となります。 - 郵便認証司が郵便法に規定する内容証明の取り扱いに係る認証をしたときは、規定に従って記載した日付をもって確定日付とする。
郵便認証司は、郵便法昭和22年公布)第3章でその業務が規定されている国家資格です。
その規定における内容証明取扱を実施した場合は、その日付が確定日付になります。
そして、5条2項と3項に、電磁的記録について書かれています。
紙書類で事務処理がされていた社会で、21世紀当初において電磁的記録への対応として、電子公証制度(指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令:平成13年<2001年>)が制定されたときに電子データにおける確定日付が日付付与というかたちで追記されました。
時代は21世紀の平成 なのに、漢字とカナで追加されています。すごいですね。
タイムスタンプという技術は、すでに存在していたのですが、まだまだ世の中で認知されていなくて未整備な時期だったため、トラストアンカーとして公証人の事務に依存する制度として法的に整備されたのです。
電子署名等を扱ううえで、公証人の方々のスキルが求められたことも背景にあると思われます。
電磁的記録の場合は、公証人の中からさらに、法務大臣が指定する指定公証人が、私署証書に付与した日付情報は、確定日付になるということです。
これらを整理すると、「確定日付」とは、
A 公文書に記載されている日付
B 私署文書の場合
【1】登記所もしくは公証人役場で、押印された日付
【2】内容証明郵便に付与されている日付
【3】公的機関にて何らかの追記がされた場合の日付
【4】電磁的記録の場合は、指定公証人が電子署名し、要求者に送信したときに付与する日付
ということになります。
これらは、全て特定の能力を持つ選任されたヒトが介在し、付与しています。
民法施行法以外で、確定日付とみなされる、とされている日付もあります。
整理のために、記載します。
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条
法人が指名債権を譲渡した場合の登記の日付 - 銀行法第36条
銀行の会社分割または事業譲渡(指名債権譲渡)の公告の日付 - 保険業法第140条
保険契約の移転(指名債権譲渡)の公告の日付
法的に確定日付が求められる手続き対象
ここで、法的に確定日付が求められる手続き対象を整理してみましょう。
対抗要件として規定されている法律
- 債権譲渡
民法 第364条 指名債権を目的とする質権の対抗要件
第377条 抵当権の処分の対抗要件
第467条 指名債権の譲渡の対抗要件
第499条 任意代位
第515条 債権者の交替による更改
信託法 第94条 受益権の譲渡の対抗要件
民事執行法 第161条 執行官による譲渡命令等 - 質権設定
国税徴収法 第15条 法定納期限等以前に設定された質権の優先
地方税法 第14条の9 法定納期限等以前に設定された質権の優先
宅地建物取引業法 第41条の2 手付金の保全
効力発生として規定されている法律
信託法 第4条 信託の効力の発生
相続税法施行令 第1条の11 契約締結時等の範囲
租税特別措置法施行令 第3条の3 金融機関等の受ける利子所得等に対する源泉徴収の不適用
これらの手続きに関しては、民法施行規則に規定されている「確定日付」を必要とします。
タイムスタンプ「e-確定時刻」の効果は?
タイムスタンプは、確定日付とは異なり、ヒトではなく、暗号技術を利用して情報の中身については一切触れることなく、コンピューターにて付与されます。
信用の元は、暗号技術と付与される時刻と暗号化で利用する秘密鍵の運用に依存します。
このため、サービスを提供している事業者の信頼を利用者に保証することが必要になります。
e-文書法が制定されるときに、電子記録の保存について、その存在証明を保証することの重要性から、総務省から指針「タイムビジネスに係る指針 ~ネットワークの安心な利用と電子データの安全な長期保存のために~」が発出されました。
タイムビジネスに係る指針(総務省Webサイト;PDF) [499.2KB])
この指針に基づいて制定された、「タイムビジネス信頼・安心認定制度」がまさに、事業者の信頼を保証する制度です。2005年より(一財)日本データ通信協会にて運営されています。
この制度は、技術基準、運用基準、ファシリティ基準、システム安全性基準に基づいて認定をしており、この認定を受けた事業者により発行されるタイムスタンプは、十分な信頼性があるものとして、法令やガイドラインなどで指定されています。
法令で規定されているのは、
- 電子帳簿保存法施行規則 第3条、第8条
- 地方税法施行規則 第25条
また、ガイドライン等では、
- 厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
- 特許庁:先使用権制度の円滑な活用に向けて
- 国土交通省:国住指第394号
- 消防庁:消防予第269号
- 【一社】 日本環境測定分析協会:計量証明書の電子交付等の運用基準(ガイドライン)例示
- 【公社】 日本文書情報マネジメント協会(編集協力/ 国土交通省):建築設計業務における設計図書の電磁的記録による作成と長期保存のガイドライン
などがあります。
法的な手続きとして確定日付が求められるものは、前述のとおり限られており、一般的な存在証明での利活用では、認定制度により認定を受けている事業者が発行しているタイムスタンプは、記載のように多くの法令・ガイドラインにより公的に用いられており、十分な信用力を持つものと考えられます。
現在の認定事業者が発行しているタイムスタンプのフォーマットは、国際標準に準拠しています。
EUでは、技術的には同じタイムスタンプがeIDASというEUの加盟国規則として規定されており、一定の信頼性を保証すべく、基準が定められて監査・監督される制度が運用されています。
ネットを介して時空間を超越して情報がやりとりされるデジタル社会において、そのデジタル情報の完全性を担保する手段としてのタイムスタンプ「e-確定時刻」は、法的な裏付けも含む信用力が肝要ですね。
次回は4月3日(火)更新予定です。
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