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第25回 建築図書ガイドライン
「建築設計業務における設計図書の電磁的記録による作成と長期保存のガイドライン」が公開され、技術的助言(国住指第3262号)も発出されました。これまでわかりにくかった建築関連図書の電子データによる実施運用要件が整理されました。本コラムでは、ポイントを絞って説明します。
建築図書ガイドライン
第11回 建築物関係図書のデジタル化・保存で
建築士事務所の業務に関する設計図書は、2005年のe-文書法で、電子化が容認されています。
しかしながら、電子署名付与とか15年保存に関する方法等の実際が明確に示されていないことから、せっかくの電子化容認が進んでいないのが実態です。(中略)
とはいえ、電子でどのように実施運用すれば法的要件を満たすのか不安なことがあるかと思います。
今後、建築士事務所の方々の利便性を考えますと、電子による保存に関して、なんらかのガイドラインが世の中に提供されることが望まれますね。
と書きました。
そのガイドラインが「建築設計業務における設計図書の電磁的記録による作成と長期保存のガイドライン」として公開されました。
建築設計業務における設計図書の電磁的記録による作成と長期保存のガイドライン(日本文書情報マネジメント協会Webサイト;PDF) [2.03MB]
ガイドラインを策定したのは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(以下、JIIMA)です。
JIIMAは、文書情報マネジメントの普及・啓発活動をしている団体です。
JIIMAでは、このガイドラインの策定にあたり
実務に合わせるため建築関連5団体の委員と協議を重ね、国土交通省の編集協力を得ています。
ガイドラインのポイント
このガイドラインは、建築・建設3法のうち建築士法における、建築士が業務として作成した設計図書の電子データによる作成と保存について記載しています。そのポイントは三つです。
- 「設計図書の電子保存は認められない」という誤解を解く
- 「長年紙図面で運用してきた建築士事務所の実務はどうすればいいの?」を解説
- 建築士が利用する電子署名の証明書を整理推奨
本コラムでは、
これらの3点について、少し詳しく記載することとします。
「設計図書の電子保存は認められない」という誤解を解く
建築関係図書、電子化でWeb検索すると
「設計図書の電子保存は認められない」という記載が散見します。
この記載は建築士事務所には誤解を招くものでした。
例えば
ICBA(一般財団法人 建築行政情報センター)のホームページで提供されている「確認・検査・適合性判定の運用等に関するQ&A」において、以下のように公開されています。
表1 ICBAのQ&A
この【回答】
【2】では、紙面による図書をスキャニングして電子化したものは、保存が認められていることを説明していますが、【1】においては、元電子の場合は、電子ファイル保存が認められないように読めます。
ここで、【1】の解釈が難しく、原本性を担保するという観点から、“電子署名がない=すなわち、非改ざん処置を施していない”電子ファイルの場合は、電子ファイルでの保存が認められない。ということです。
設計図書は、その設計者の責任を明確にすることから、建築士法第20条第1項に定める「建築士である旨の表示をして記名及び押印」をする必要があります。 これを電子で適用する場合は、『e-文書法国土交通省令』第7条にて、電子ファイルの設計図書に対しては電子署名を行うことで、この押印に代えることができるとされています。
つまり、建築士の電子署名とこれの有効性を長期に検証できる適切な処置が施されていれば、CADから作成したPDFファイルによる保存は認められるのです。
逆説的な記載なので、正攻法で記載すると
【1】CADによって作成された設計図書(電子データ)は、建築士の電子署名が付されていれば、当該電子データによる保存は認められます。
ということです。
第11回のコラムにも記載しましたが
建築士事務所の業務に関する設計図書(建築士法第24条の4)は、2005年のe-文書法で電子化が容認されています。
今回のガイドラインでは、
建築士事務所の業務に関する図書(設計図書と工事監理報告書)の保存が電磁的記録で可能であることを明記しています。
2005年時点で容認されていたのに、なかなか市場で認識されてこなかったことがちょっと残念ですね。
これには、建築士法で2005年公布以降に、改定があり、条ズレ(e-文書法国土交通省令では、建築士法第24条の3と記載されていますが、現時点では第24条の4)があることも一因かもしれません。
「長年紙図面で運用してきた建築士事務所の実務はどうすればいいの?」を解説
建築士事務所の実務に合わせて、図書の電磁的記録による作成と保存の流れおよび建築主に提出する方法がガイドラインで明記されています。
重要なのは、誰が何をいつから何年間保存しなくてはならないかです。
建築関連図書は、誰がいつから保存する義務があるかは、建築3法それぞれで規定されていますので
まず、表2に、建築3法における図書の保存義務について整理しました。
表2 建築3法における図書の保存義務
建築士法における、設計図書の保存義務は、建築士本人や建築依頼主ではなく、建築士事務所にあることと
その期間は15年という長期であることがポイントです。
具体的な図書の作成と保存については、ガイドラインの5章に記載があり
設計図書の電磁的記録による作成と長期保存の流れ、および、保存すべき設計図書を建築主に提出する場合の概念図がガイドラインに記載されています。(JIIMAの特別な許可をいただいて図1として掲載します)
図1 設計図書の電磁的記録による作成と長期保存
設計図書は設計が完了した時点で、建築士の電子署名とタイムスタンプを付し、原本として建築士事務所が保存することになります。
長期署名(本コラムでは、真電子署名ですね。)によって、その記録の信頼性を15年という長期にわたって検証できるようにするのです。
*参照)第9回 電子認証、タイムスタンプ、そして長期署名-前編-
建築主への提出は、原本ではなく写しとして、電子ファイルもしくは、印刷した書面となります。
このとき、必要に応じて印鑑や原本証明を別途付与することになります。
また本ガイドラインでは、
膨大な設計図書に対する、複数建築士における実務や、その後の部分的な変更・修正も鑑みて、署名対象単位などについても6章に記載があります。
さらに、小規模から大規模建築士事務所での対応についても、その運用例が13章に記載がありますので参考になると思います。
建築士が利用する電子署名の証明書を整理推奨
建築士法の趣旨から、建築士としての責務を明確にし、作成した時点で建築士であることを後日確認できることが求められます。
建築士は、その免許を一度獲得すると一生ものですが、3年ごとに講習を受けないと実務に携わることができません。
これは、建築士法の、「この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もって建築物の質の向上に寄与させることを目的とする。」という精神に則っているのですから、当然ですね。
従って、無資格で、実務のできない方による署名ではいけません。
設計図書が作成された時点で、適格に実務ができる建築士であることを後日確認できる必要がありますね。
しかしながら、紙書類による実際の実務上のことを鑑みると
押印に利用されている印鑑は、認印であり、特にどこかに届け出ているものではありません。
これは、認印であっても建築士であることを何らかの手段で別途確認できるため、実用上問題なく運用されているからだと思います。
例えば、建築士として登録され、講習会の受講記録の更新がなされていることは、ICBAが建築行政共用データベース等で確認できる仕組みがあります。
このような仕組みを活用すれば、本人性と作成日時さえ明確であれば、電子データでも同じですね。
紙では、あまり問題になっていなかったことも、電子データに代えることでのリスクは、
「なりすまし」と「本人による改ざん」があります。
なりすましによるリスクは、建築士本人ではない人に設計図書が作成されてしまうことはもとより、そのために、後日、建築士本人が「この設計図書は私が設計したものではない」と否認ができてしまうことです。
さらには、電子データの場合、跡形無く修正ができることから、建築士が設計図書を後日、改ざんして、例えば問題のあった箇所を修正してしまうことです。
従って本人であることと、作成日時を後日きちんと証明できることが電子データによる運用の要件となります。
このため、本人であることを証明すべく、ある基準を満たす電子署名と、認定事業者が発行するタイムスタンプを利用することがこのガイドラインでは推奨されています。
電子署名については、どのように規定されているでしょうか?
e-文書法国土交通省令第7条に、“作成において指名等を明らかにする措置”として
法第4条第3項の主務省令で定める措置は、電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律第2条第1項に規定する電子署名をいう。)とする。
とあります。
*ちなみに、この第7条は、大方のe-文書法省令で同様の記載となっています。
電子署名法第2条第1項にはなんと書いてあるのでしょうか
第2条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
1 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。⇒本人性
2 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。⇒検証性
また、同2条第3項に、この電子署名法の基準に適合する電子証明書が発行できる業務を「特定認証業務」として以下の定義がされています。
3 この法律において「特定認証業務」とは、電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務をいう。
すなわち、電子署名法主務省令で定められている基準を満たしている認証業務「特定認証業務」を行っている認証局が発行する電子証明書は使用することが推奨されます。
しかし、さすがにどんな電子署名でも良いハズではありませんので、電子署名に使用する公開鍵の電子証明書を発行する認証局が第10章の表5に整理されています。
筆者の解釈で表3に整理しました。
表3 電子証明書発行局の整理
(注)GPKIとは、政府認証基盤(Government PKI)で国民と行政機関間の申請・届出・通知を安全にオンラインで行うことを目的に整備された認証基盤です。
ブリッジ認証局(BCA)という認証局を介して民間側の認証局と接続(相互認証)ができる仕組みとなっています。
実際には、(1)(2)(3)がこのBCAを介して相互認証されている認証局となります。
信頼性が確認できる・できないは、
電子署名法主務省令で定められている基準を満たしている認証業務であることが確認できることとなります。
例えば、認証業務が第三者機関で監査を受けている認証局は信頼できますね。
建築確認の電子申請で利用できる電子証明書が追加されました
建築確認における電子申請は、平成14年(2002年)発行の行政手続きオンライン化法で可能であったが、その手法が不明だったため、平成26年(2014年)に、国住指第394号「建築確認手続き等における電子申請の取扱いについて(技術的助言)」が発出されました。 その成果もあり、電子申請数は徐々に増加しており、平成28年度(2016年)上期において、約9,800件にまでなっていますが、まだまだ確認全体の約30万件に比して微少な状況です。
この国住指第394号の技術的助言において、電子署名の要件が記載されており、上記表3の(1)(2)および告示第240号第3条1号に規定する電子証明書となっており、GPKIとの相互認証を行っている認証局であることが指定されていました。
この設計図書の電子保存ガイドラインにて、利用推奨された(4)(5)の電子証明書が含まれていません。
このガイドラインが公開された2017年12月18日の後を追うように、2017年12月25日に技術的助言のupdateが国住指第3262号として発出されました。
より一層の行政手続きの簡素化を推進する一環として、電子申請を促進することを目的とし、建築確認手続きで利用できる電子署名の電子証明書が追加する、と記載されています。
追加された証明書は、
「国土交通省の所管する法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する告示第3条第2号に規定する行政機関等が指定する電子証明書」です。
告示第240号 国土交通省の所管する法令に係る行政手続き等における情報通信の技術に関する告示第3条
規則第3条第3項第3号に規定する電子証明書は、次の各号に掲げるものとする。
1 政府認証基盤におけるブリッジ認証局と相互認証を行っている認証局で政府認証基盤を構成する認証局以外のものが作成したものであって、行政機関等が交付するソフトウェア又は行政機関等の使用に係る電子計算機から入手したソフトウェアを用いて送信することができ、かつ、行政機関等の使用に係る電子計算機において識別することができるもの
2 前号に掲げるもののほか、行政機関等が指定するもの
ここで、「行政機関等」とは、国住指第3262号において記載があり、
地方公共団体またはその機関のほか、指定検査機関も含まれる。とされており、行政機関等では、本人性の確実な担保のため、信頼性が確認できる認証局が作成する電子証明書を指定するよう十分留意されたい。とあります。
この設計図書の電子保存ガイドラインにて、利用推奨された(4)(5)の電子証明書が含まれますね。
これで、建築士にとって、より利用しやすい電子証明書が、作成から建築確認申請、そして保存まで、一気通貫で設計図書情報に活用することが可能となりました。
建築業界において信頼・安心かつ利便性を確保しつつ、業務の効率化を図ることができる環境が整備されたことになります。
次回は2月6日(火)更新予定です。
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