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第11回 建築物関係図書のデジタル化・保存
建築関係の法律は、1949-50年に建築3法(注)として整理されています。
あたりまえのことですが、建築物は長期にわたって利用される施設です。
国民生活の安全・安心・幸福を護るために、戦後間もない時期に整理されたことは、とても興味深いです。
今日(コンニチ)までの、建築物関連図書の電子化に関する法改正の大きな変革点は、行政手続きオンライン化法(2002年)、e-文書法(2005年)、構造計算書偽造事件(2005年)、そして国住指第394号(2014年)です。
歴史を整理した図を用意しました。(図1)
- I 建築物に関して、行政、設計、施工というそれぞれの立場に合わせて法律が制定されました。
- II 行政手続きオンライン化法で建築確認申請の電子化がOKになりました。
- III e-文書法で、建築士事務所の業務に関する図書の保存が電子化OKになりました。
- IV 構造計算書偽造事件の影響で、設計図書の保存期間が延長されました。
また、建設業法においてそれまでは施工側の設計図書に関しては保存義務がありませんでしたが、この機会に保存義務が規定されました。これらは、当初から電子データでの保存はOKです。 - V 指定建築確認検査機関において、保存義務のある図書の電子化について15年保存のための電子署名・タイムスタンプに関しての技術的助言が示されました。
では、建築3法それぞれに照らし合わせ、建築物関連図書の保存義務とデジタル化について、もう少しくわしく解説したいと思います。
注:建築3法…「建築基準法」「建築士法」「建設業法」の三つの法律のこと。
建築基準法(1950年5月24日法律第201号)
この法律は、行政側視点で規定されている3法の中で基本となる法律です。
法1条に目的が記載されています。
「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。」
つまり、行政側として、最低限の基準を規定し、その基準がきちんと守られているかを審査する体系が規定されています。その審査が、建築確認検査です。
第三者機関による安全安心トラストの基準を明確にしている法律です。
建築確認検査で建築主が行政側の建築主事もしくは指定確認検査機関に提出する書類は、「確認申請書の様式」として建築基準法施行規則第1条の3に規定があります。
指定確認検査機関における図書の保存に関しては、「建築基準法に基づく指定資格検定機関等に関する省令」(1999年4月26日建設省令第13号)の第29条に定められています。
これらは、行政手続きオンライン化法(2002年)で電子申請が容認されました。
さらに、工事の施工者(民間事業者側)で紙での備付義務のあった、法89条2項の工事現場における設計図書の備付は、e-文書法(2005年)にて、電子化が容認されました。
これで、建築基準法としては、一連の図書について電子化が容認されたことになります。
その後、構造計算書偽造事件の影響で、指定確認検査機関での図書保存期間が5年から15年に延長されました。「指定資格検定機関等に関する省令第29条の改正、国住指第1331号(2007年)」
建築確認手続き等における電子申請の取扱いについて(国土交通省Webサイト;PDF)[378KB]
15年という長期にわたって電子保存を実施するにあたり、改めて電子署名とタイムスタンプについて、その技術的助言が国住指第394号として2014年に公表されています。
この電子署名とタイムスタンプに関しては、コラム第9回・10回の解説を確認ください。
また、この技術的助言を加味し、一般財団法人 建築行政情報センター(ICBA)より、建築確認検査電子申請等ガイドラインが公開されています。
建築確認検査電子申請等ガイドライン(一般財団法人 建築行政情報センターWebサイト;PDF) [1.17MB]
建築士法(1950年5月24日法律第202号)
この法律は、設計側の視点に立った法律で、その目的に、「この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もって建築物の質の向上に寄与させることを目的とする。」としています。
そのため、建築士という資格の基準を設け、設計品質を確保するために規定しています。
自然人に依存する課題を資格運用という基準で安全安心トラスト社会を実現しています。
資格を有している人が業務を行っていることが重要なので、業務に必要な表示行為として法20条に「一級建築士、二級建築士又は木造建築士は、設計を行った場合においては、その設計図書に一級建築士、二級建築士又は木造建築士である旨の表示をして記名及び押印をしなければならない。設計図書の一部を変更した場合も同様とする。」との規定があります。
設計図書については、法24条の4に、建築士事務所の開設者は業務に関する設計図書の保存義務が定められています。
その詳細は、施行規則第21条に対象図書が明記されており、保存期間の規定がされています。
これらの電子化については、建築士の電子署名を利用することで、法24条の4は、e-文書法において容認されました。
国土交通省の所管する法令に係る民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
※2005年の公布時以降、建築士法で改定があり、この施行規則では、法24条の3となっています。現在では、法24条の4です。
その後、構造計算書偽造事件の影響で、改正建築士法が、2007年に施行されました。
「耐震偽装事件の再発を防止し、法令遵守を徹底することにより、建築物の安全性に対する国民の信頼を回復する。」として、従前は5年であった保存期間は15年に延長されました。
このように、建築士事務所の業務に関する設計図書は、2005年のe-文書法で、電子化が容認されています。しかしながら、電子署名付与とか15年保存に関する方法等の実際が明確に示されていないことから、せっかくの電子化容認が進んでいないのが実態です。
電子署名もタイムスタンプも2005年時点で整備はされておりサービスも提供されていたのですが、両方を付すための標準化がなされていなかったことも、普及が進んでいないひとつの原因です。
ただし、両方を付す方式として、長期署名(著者のコラム第10回では「真電子署名」と記載しています)方式は、2008年にJISXとして標準化されております。
建築士事務所としても、もともと電子データで作成している設計図書を、15年もの期間保存しなくてはならない実態から、とても紙原本で管理することは大変でしょう。
とはいえ、電子でどのように実施運用すれば法的要件を満たすのか不安なことがあるかと思います。
今後、建築士事務所の方々の利便性を考えますと、電子による保存に関して、なんらかのガイドラインが世の中に提供されることが望まれますね。
建設業法(1949年5月24日法律第100号)
この法律は、施工側の視点に立った法律です。
その目的は、「この法律は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。」です。
建設工事の請負契約の適正化を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者(建築主など)を保護するとともに、建設業の健全な発達に資することを目的にした法律で、建設業の許可要件など各種の規制が設けられています。
にも拘わらず、法律が施行された時点では、完成図書に関して保存義務が設定されていませんでした。
そこで、例の民間建築工事において起こってしまった構造計算書偽装事件によって、完成後の図書についても、保存義務が法第40条の3で保存期間10年として規定されました。
この義務規定はe-文書法制定の後なので、電子化容認については国総建第177号(2008年)に、以下ように記載され電子保存が認められています。
1~3の図書は、必要に応じ当該営業所において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されることを条件として、電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等による記録をもって代えることができる。
- 完成図(建設工事の目的物の完成時の状況を表した図:作成した場合のみ)
- 発注者との打合せ記録(請負契約の当事者が相互に交付したものに限る)
- 施工体系図(作成特定建設業のみ)
建築業は、国民の安全安心社会の根幹を担っている業界です。
構造計算書偽造事件があって、法的にも強化されていたにも関わらず、杭打ちデータ偽造事件が新たに発生しております。不正は人によるものです。タイムスタンプを活用した電子記録化によって、ねつ造・改ざんのできない仕組みを創り上げることで、そもそも不正を働こうという意識を削ぐことが、これから求められるのではないでしょうか。
次回以降は、ちょっと日本から離れて、ヨーロッパにおける電子取引について書こうと思います。
次回は9月6日(火)更新予定です。
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