第24回 電子委任状と属性認証

契約や申請は、一般的に権限が代表者から委譲された担当者が実施しています。権限の委譲を示すものが紙の世界では、丸印だったり、職務分掌規定だったりしています。ICT社会では、属性認証という考え方で、これまで永年にわたって作り上げられてきた社会の約束事を継承しながら、着実に新しい環境が整備されてきています。

電子委任状と属性認証

「電子委任状の普及の促進に関する法律」が2017年6月16日に公布されました。
この立法理由に

  1. 電子契約の推進を通じて経済活動の促進を図るため
  2. 電子委任状の普及を促進する
  3. 電子委任状の基本的な指針について定めるとともに
  4. 電子委任状取扱業務の認定の制度を設ける

とあります。

この法律ができて、いったい何が便利になって経済活動が促進されるのでしょうか?
そもそも、電子委任状って何でしょうか?

電子委任状って何?

法律によると
「電子委任状」とは、電子契約の一方の当事者となる事業者(法人にあっては、その代表者)が当該事業者の使用人その他の関係者に代理権を与えた旨を表示する電磁的記録をいう。

とあります。
契約者の意思として合意する権限を代理人に委譲することが記載されている電子記録ですね。

例えば
会社間での契約であれば、本来、代表取締役の意思表示が必要なところ、内部規定などで事業部門長に権限委譲がされています。

また、会社が従業員個人を特定する証明書(在籍証明書や雇用証明書)などは、通常業務として、人事・総務の担当者が発行していますよね。これは、一定の事柄について職務上作業ができるように社内の規定において設定されているから可能なのです。

これらの記録を電子的に行うものが「電子委任状」です。

何が便利になるのか?

当事者の代理人が契約の意思表示を電子的に行うことで何が便利になるのか?
金子めぐみ前衆議院議員のブログに分かりやすい事例が記載されていましたので下記に引用します。

例えば、保育所入所申請の際には雇用証明書が必要になります。
雇用証明書は、申請者の勤務先の担当者が社長など代表者印を押印して作成します。
その上で、申請者が申請書に添えて、自治体窓口に提出、郵送の必要があります。

電子委任状普及促進法により、企業の担当者が代表者から必要な権限を委任されていることを証明する「電子委任状」が流通するようになると、担当者は信頼性の高い雇用証明書を電子的に発行することが可能になります。
さらに今後、子育てワンストップサービスが発展すれば、申請者は信頼性の高い電子の雇用証明書をオンラインで自治体に提出できるようになります。

引用)金子めぐみ前衆議院議員オフィシャルブログ

https://ameblo.jp/kaneko-megumi/entry-12279927132.html

これは、便利ですね。
書類でのやりとりの場合、唯一性が担保されているであろう丸印の真っ赤な押印がされていて、その書類は会社として承認されているものであると誰でも目視で確認できます。
しかし、オンラインでは、付与されている電子署名は、いったい会社として権限のあるものか? が不明でした。
これを確認できる手段が登場するということですね。

いろんなルートを経て押印された書類を用意して、時間を割いて出向かなくてはならなかった(対面・書面でなくてはできなかった)申請を、デジタルでの信ぴょう性を担保することでインターネットを通して処置ができるようになるのですね。

法律制定の背景

この法律が制定される背景として、法人としての意思表示を自然人が電子的に行ううえで、法的裏付けの課題がありました。

電子署名法では、認証業務の範囲として、本人性の認証を対象としていて、肩書や資格などの属性の認証を含みません。
一般的な契約行為で重要な権限を表す代表権を有することや、営業部長などのような特定の役職にあること、一定の事柄について代理権を有することといった肩書や資格は認定の対象外となっています。

また、商業登記法に基づく電子認証制度(第十二条の二)では、登記所が、登記情報や代表者印の印影等に基づき、法人の存在、代表権限の存在、代表者の本人性を証明ができますが、法人の代表者等が対象であり、他の者(代表権のない取締役、管理職等)に対し、電子証明書を発行することはできません。

しかしながら、実務上、代表者等が自ら契約を締結したり、申請を行ったりすることはまれであり、権限移譲された役職者もしくは、代理権を持つ担当者が行うことが一般的です。
このため、当該担当者が契約等を行うに際し、会社の一員であること(役職等)の属性を証する電子証明書の発行が認められれば、電子的に権限を確認できることが可能となり、契約や申請の業務をICTを利用して効率的に行うことができるようになります。

官民データ活用推進基本法

そこで、この「電子委任状の普及の促進に関する法律」が制定される以前に官民データ活用推進基本法(2016年〈平成28年〉12月14日公布)にて、前提となる、対象電子データの定義と、属性認証の定義がされました。これは、筆者個人的には、デジタル社会での基盤を整備するうえで、大変画期的な法律だと思います。

第二条において、官民データの定義がされています。
「官民データ」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録をいう。第十三条第二項において同じ。)に記録された情報(国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになるおそれがあるものを除く。)であって、国若しくは地方公共団体又は独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第二十六条第一項において同じ。)若しくはその他の事業者により、その事務又は事業の遂行に当たり、管理され、利用され、又は提供されるものをいう。

う~ん、なんだかよく分かりませんね。
これは、“()”を外して、段落をつけて読むと内容が整理されて、分かりやすくなります。

「官民データ」とは、電磁的記録に記録された情報であって、国若しくは地方公共団体又は独立行政法人若しくはその他の事業者により、その事務又は事業の遂行に当たり、管理され、利用され、又は提供されるものをいう。

要は、「官民データ」とは、官民にかかわらず、その業務を遂行するための電子記録全般のことを指しています。

日本では、なぜか官と民で法律が異なる場合がありますが、この法律のすごいところは、官民で分けていないことです。
第一条にこの法律の目的が書いてありますが、まさに、デジタル社会における情報流通は、官とか民とか言っている場合ではない! ことを表していますね。

そして第十三条に、日本国としてマイナンバーカードの普及と活用を推進するよ、と書いてあり、第十三条の2項が「電子委任状の普及の促進に関する法律」の予告でした。

第十三条2
国は、電子証明書(電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子署名をいう。)を行った者を確認するために用いられる事項が当該者に係るものであることを証明するために作成された電磁的記録(電子計算機による情報処理の用に供されるものに限る。)をいう。)の発行の番号、記号その他の符号に関連付けられた官民データについては、その利用の目的の達成に必要な範囲内で過去又は現在の事実と合致するものとなること及び漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理が図られることの促進のために必要な措置を講ずるものとする。(利用の機会等の格差の是正)

これも、“()”を外して読んでみましょう。

国は、電子証明書の発行の番号、記号その他の符号に関連付けられた官民データについて、その利用の目的の達成に必要な範囲内で過去または現在の事実と合致するものとなることおよび漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理が図られることの促進のために必要な措置を講ずるものとする。

電子証明書の発行の番号、記号その他の符号に関連付けられた官民データとは、属性情報のことを指していますね。
そして、それらの属性を認証することを

  • 利用の目的の達成に必要な範囲内で過去または現在の事実と合致するものとなること

と規定し

  • 漏えい、滅失または毀損の防止その他の安全管理が図られること

の促進のために必要な措置を講ずるものとする。

すなわち、「電子委任状の普及の促進に関する法律」で記載されている電子委任状取扱業務の認定の制度を設けるということですね。

もちろん、これまでも属性を認証する業務が、法律で禁止されているわけではありませんが、この官民データ活用推進基本法で、国として、安全・安心に利用できるように基準を決めて、制度化を推進することを宣言しているのです。

電子委任状という属性認証を通しての期待

「電子委任状の普及の促進に関する法律」は施行期日を、公布の日から起算して9カ月以内としています。今年度中にさまざまな整備がなされて、この電子委任状取扱業務の認定制度が開始されます。

法人の利害関係の中での契約を、法人の一員としての自然人により実施することになりますので、この委任状の信頼性が重要になります。

  • その電子委任状が正しく有効なものか
  • 委任が確かに委任者の意思で実施されているか
  • 権限は電子署名が付与された時点で有効であったか

受任者も委任者も、自然人ではありますが、職務や権限は、つまり属性は期間のあるものです。
電子契約においては、官民にかかわらず、事業体としての権限、すなわち属性が重要です。
契約という行為はその時点での権限者によるものではありますが、契約によって約束した内容は、権限者が変わっても将来にわたって有効です。
個人は、一生その人ですが、属性は時間とともに変化します。契約書に付与される押印は、○○部門長の印であり個人の印ではありません。

そこで、この「電子委任状の普及の促進に関する法律」では、「特定電子委任状」の定義がされています。
第二条4
この法律において「特定電子委任状」とは、次の各号のいずれにも該当する電子委任状をいう。
一 電子委任状に記録された情報について次に掲げる措置が行われているものであること。
イ 電子委任状に委任者として記録された事業者による電子署名及び認証業務に関する法律第二条第一項に規定する
電子署名
ロ イに掲げるもののほか、当該情報が当該電子委任状に委任者として記録された事業者の作成に係るものであるかどうか
及び当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができる措置として主務省令で定める措置
二 電子委任状に記録された情報が「電子委任状に記録される情報の記録方法の標準その他電子委任状の信頼性の確保及び利便性の向上のための施策に関する基本的な事項」の標準に適合する方法で記録されているものであること。

  • 電子委任状に委任者として記録された事業者の作成に係るものであるかどうかおよび改変が行われていないかどうかを確認することができる措置として主務省令で定める措置
  • 電子委任状に記録される情報の記録方法の標準その他電子委任状の信頼性の確保および利便性の向上のための施策に関する基本的な事項の標準

が、どのような形で整備されるのか、
印鑑文化を継続してきた日本らしく、「あるべきよう」を、バランスよく整備されることを期待したいと思います。

次回は12月5日(火)更新予定です。

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この記事の著者

セイコーソリューションズ株式会社 戦略事業開発部 部長

柴田 孝一

1982年 電気通信大学通信工学科を卒業し、株式会社第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)に入社。
2000年にタイムビジネス事業(クロノトラスト)を立ち上げ、2013年にはセイコーソリューションズ株式会社の設立と共に移籍。SEIKOグループのサイバータイムビジネス責任者として現在に至る。
専門分野は、タイムビジネス(TrustedTime) 論理回路設計・PKI・情報セキュリティ。
タイムビジネス協議会 (2006年発足時より委員、2011年より企画運営部会長)
『概説e-文書法 / タイムビジネス推進協議会編著』(NTT出版)共著
タイムビジネス信頼・安心認定制度 認定基準作成委員
セイコーソリューションズ株式会社

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