連載開始10周年を迎え、100記事を超える過去のコラムから筆者厳選の10記事と、書き下ろしのコラムをまとめて特別冊子をご用意しました。
本冊子の内容がヒントとなり、ビジネスにおける悩みや課題解決の一助になれば幸甚です。
第148回 「お金じゃない」とはいうけれど、「やっぱりお金も大事」という話
「給料が上がっても……」「お金じゃない」「自己成長が大事」など、金銭的報酬が重視されない話をよく耳にしますが、うまい使い方を工夫すれば、お金も動機づけの道具の一つとして十分機能するはずです。
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「お金じゃない」とはいうけれど、「やっぱりお金も大事」という話
特に最近は金銭による動機づけが難しくなっているといわれています。
一般的にモチベーションを高める動機づけの方法は、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の大きく二つに分けられます。「外発的動機づけ」は、「報酬を与える」「罰則を科す」など、外部からの働きかけによる動機づけのことをいい、割と多くの人に対して短期間で効果が表れるとされる一方、持続性に欠けるとされます。
これに対して「内発的動機づけ」は、「仕事への興味や関心」「そこから生まれるやりがい」など、人の内面的な要因による動機づけのことをいい、本人の興味や価値観に基づくため持続性があるとされる反面、実施方法が明確でなく短期的には効果が出にくいとされます。
最近は役職や報酬にこだわらない人が増えているといいますが、これはまさに「外発的動機づけ」が効きにくいという典型的な話ですし、ある実験によれば「金銭的報酬は、人の内発的動機づけを低下させる」などという結果もあるようです。
お金が全てではないが、やっぱりお金は重要な要素?
「外発的動機づけより内発的動機づけの方が効果的」という考え方が、いかにも正論として広く受け入れられているような状況です。しかし、以前お話をうかがったある社長は、この様子とは少し異なる話をされていました。機械装置の研究開発と製造を行う社員数40名ほどの技術系企業で、過去10年間連続で売上が二桁成長をしているという好業績の会社です。
さまざまな経営施策や人事施策を実行されている中で、印象に残ったのは「お金じゃないというけど、やっぱりお金が大事」という社長の言葉でした。もう少し付け足すと、「お金は全てではないけれど、お金をもらって困る人はいないし、やっぱりお金は重要な要素だ」というお話です。
「やっぱりお金だ」などと言われると、ついネガティブな印象を持ってしまいがちですが、実際にやっている内容を聞くと、それが機能している理由が分かりました。お金を口実にしながら、実は「お金が全てではない」という形になっているのです。
例を挙げると、まず褒賞の頻度や数がかなり多いことです。ボーナスや昇給といった一般的な金銭的報酬以外に、いろいろな理由をつけた金一封のようなものを常に用意しています。その人のできることで何か行動して会社に貢献していれば、誰でも何かしらもらえるチャンスがあるそうです。
また、好業績の企業ですので社外からの表彰も多いそうですが、そこでもらった賞金などは、全て会社の祝賀パーティーなどで社員に還元されるそうです。
そんな中で何よりも大きな要因だと思ったのは、社長自身が毎日の朝礼、年2回の評価面談、その他日常業務の中で、全社員と頻繁にコミュニケーションを取っていることです。現状の話をよく聞き、ある時はハッパをかけ、ある時はやり方を一緒に考え、時には社員の間から出てきた提案に対して、即断即決で金一封をニンジン代わりに約束することもあるそうです。
社員が実行したことや成果が出たことを具体的に挙げながら、とにかく社員をよく褒めています。みんなの前で褒めたり、それをイベント化したり、やり方はいろいろ工夫しているようです。社員に対してもちろん厳しい要求をすることもありますが、常に社員が納得することを重視しているそうです。そうやって社員との間に強い信頼関係を作っています。
「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」とのバランスが重要
金銭的報酬による「外発的動機づけ」は持続性がないといわれますが、この会社では持続的に多くの金銭的報酬の機会が設けられ、頑張り次第で誰にでもチャンスがあります。いろいろな取り組みをマンネリ化させないためにサプライズが多いことで、「外発的動機づけ」の弱点を補っています
さらに「褒められる」「仲間からの称賛」「自分が認められる」など、自分の内面から湧き出る「内発的動機づけ」につながる要素がセットになっています。
「給料が上がっても……」「賞金をもらっても……」などの否定的なニュアンスはよく聞きます。ただ、うまい使い方をすれば、お金も動機づけの道具の一つとして十分機能するはずです。
やはり「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」とのバランスが重要だと感じた一件でした。
次回は1月27日(火)の更新予定です。
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連載開始10周年を迎え、100記事を超える過去のコラムから筆者厳選の10記事と、書き下ろしのコラムをまとめて特別冊子をご用意しました。
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