第149回 「普通」という言葉で基準を語る危うさの話

物事の程度を「普通は……」と表現することは数多くありますが、「普通」は、基準のようで基準ではありません。価値観が多様化した昨今では、その中身を説明、確認、共有することが必要になっていると思います。

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「普通」という言葉で基準を語る危うさの話

「普通はできる」「それくらいは普通だろう」
レベル、能力、さじ加減、程度といったものを、「普通」という言葉で表現することがあると思います。ただ、この「普通」という言葉のとらえ方は、いろいろと難しさを感じます。

「普通」が引き起こすコミュニケーションの行き違い

つい先日のことです。友人と食事に行くことになり、「おなかすいてる?」と聞くと「普通」とのこと。あまり空腹ではないのだと思い、あっさり系でボリュームはほどほどの和食のお店に行きました。一通りの料理が出てきて食べ終わったころに友人が一言、「ちょっと物足りないなあ」と言います。私が思った「普通」のおなかのすき具合とは、ちょっと違っていたようです。

また、これはある会社で上司と部下との会話で見かけた時のことです。どうもコミュニケーションの行き違いがあったらしく、上司は「それは普通報告しなければダメだろう」と言っています。それに対して部下は謝罪しつつも「それなら前もって報告するように指示してくれればよかった」と返していました。やはり「普通」の食い違い、行き違いということのようです。
これがひと昔前であれば、部下が一方的に謝って終わっていたのかもしれません。しかし最近はそうならないことも増えましたし、この件でいえば、私は部下の反論にも一理あると感じます。

誰でもよく言う「普通」という言葉ですが、特にビジネスの場面では注意が必要です。「普通」には何かの尺度としての具体性がなく、言っている人の主観でしかないからです。「普通」という言葉の意味を調べると、「特に変わっていないこと」「ごくありふれたものである」「広く通用する状態のこと」などとあります。また「普通」の対義語を調べると、「奇抜」「希少」「異常」「特別」などの言葉が挙げられており、それらをひとまとめに「普通じゃないもの」としている記述もありました。

しかし、この「普通」と「普通じゃないもの」との境界線は、必ずしも明確ではありません。グラデーションのようにつながっていて、個人個人が自分の感じ方によって、それぞれの主観で線引きをしています。法律違反すれすれでも「それが普通」という人はいますし、もっと厳格なモラルの「普通」もあります。その良し悪しはともかく、「普通」は人それぞれで違っていて、物事を判断する基準として共通ではありません。

ここで起こる問題は、自分の基準を相手に受け入れさせる、場合によっては強制するために、いかにも正論に聞こえる「普通」という言葉を使うことです。
特にリーダーの立場にいる人が、自分の主観に基づく「普通」を言い出すと、それに伴ってさまざまな危うさが生まれます。例えば、自分の「普通」に合致しないメンバーを認めずに排除しはじめたりして、こうなるとメンバーはリーダーの言う「普通」に嫌々でも合わせるか、排除されることを受け入れるかの二択しかなくなります。これをパワハラと言われても仕方ありません。

「普通」で処理せず、基準を明確化することが重要

また、企業の現場でよく聞く「普通」の一つに、礼儀やマナーに関する話があります。
「普通はお礼を言いに来るだろう」「普通はあいさつするだろう」「普通は遠慮するだろう」など、個人的には聞いていて納得することも過剰と思うことも両方ありますが、これもあくまで私の「普通」の感じ方であって、他の人にとってどうかは分かりません。

日本人は「普通」という言葉が好きなように感じます。ただ、会社のようにさまざまな価値観を持った人が集う場所、特にビジネスに関わる場面では、「普通は……」で終わらせずに、その時の判断基準をしっかり言語化して共有する必要があります。例えば、「お礼やあいさつがないとマイナスの感情を強く持つ人がいる」「誰がそういう感情を持つかは分からないので、ビジネスの場では一番厳しい基準に合わせて行動するのが得策」などと説明すれば、それをチームの「普通」にすることができるのです。

以前、ある著名人の雑誌投稿に差別的な内容があったと批判的に取り上げられたことがあります。その根拠として語られていた言葉には、「普通……」「一般的には……」というものが多数含まれていました。
個人の主観に基づく「普通」を、いかにも大多数の共通認識のように示すのは、あまり適切とは言えませんし、価値観が多様化した昨今では、広く通用する前提での「普通」は、他人に伝わりづらくなっています。

「普通」というのは、基準のようで基準ではありません。安易に「普通は……」で処理せずに、その中身を説明、確認、共有することが必要になっていると思います。

次回は2月24日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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