連載開始10周年を迎え、100記事を超える過去のコラムから筆者厳選の10記事と、書き下ろしのコラムをまとめて特別冊子をご用意しました。
本冊子の内容がヒントとなり、ビジネスにおける悩みや課題解決の一助になれば幸甚です。
第155回 「自由にやって」と言われると逆に行動しづらくなるという話
相手が行動しやすくなるようにとの配慮から、「遠慮せずに」「自由にやって」などと言われることがありますが、その言葉によって逆に行動しづらくなってしまうことがあります。
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「自由にやって」と言われると逆に行動しづらくなるという話
ごくまれなことですが、私が企業支援をする中で、会社側から「特に制約はありませんので、思ったとおりに自由にやってください」と言われることがあります。
こんな時、私はできる限り範囲を広げて情報収集をし、自分の判断で課題やテーマを設定したうえで支援に着手します。ただし、「自由にやって」と言っていた経営者や担当者にもその内容を投げかけて考えを聞きます。その後も継続的に情報や課題、意見を提示し、その都度相手の意見や考えを聞きながら進めます。
そうしたやり取りを続けていると、最初と同じように「自由にどうぞ」と言われることはほとんどなくなります。代わりに何らかの希望、要望、問題意識の違いや賛否が出てきます。私はそれを調整しながら、依頼先の企業ができるだけ納得できる取り組みを探します。
結局、「自由にやって」と言われるのは、依頼者が課題を整理しきれていない場合が多く、本当に何をしても良いという意味ではありません。少なくとも私の今までの経験ではそうだったため、「自由に」と言われたときの方が逆にいろいろと気をつかいます。
新しい職場で求められる「自由」の難しさ
同じような話は会社の中でもあります。例えば、経験豊富で中心的な役割を期待して採用した社員に「遠慮せずどんどん意見を言ってほしい」「制約を作らずに行動してほしい」「いろいろなことに自由に取り組んでほしい」などと言うことがあります。たぶん組織変革を期待したうえでの本心からの言葉で、その人が動きやすいように、やりやすいように、早くなじんで成果をあげられるようにしてあげたいという配慮から言っていることでしょう。
ただ、「遠慮せず」「自由に」と言われた本人は、いったい何を優先すべきなのか、どこから手をつけるべきなのかがよく分かりません。組織の中にはいろいろな考えの人がいますので、状況を見ずに勝手に動けるわけではないですし、「自由に」といっても、どの程度を思っているかは人によって違います。職場の雰囲気もどんな人たちが働いているのかもまだ十分には把握できていません。その状況で「自由にやって」と言われても、正直戸惑うはずです。結果として行動はより慎重になり、実際に動き始めるまでにかえって時間がかかってしまうこともあります。
先日お会いしたある会社の中途採用者も、「遠慮せず自由にと言われても、様子を見ながら少しずつなじむしかないですね」と言っていました。
実は枠組みや一定の制約条件がある方が行動しやすい
実際の人間心理として考えれば、テーマや方針、要望、その他何らかの枠組みや一定の制約条件がある方が、実は行動自体はしやすくなります。「自由にやれ」というように裁量の範囲が広すぎると、かえって動きづらくなります。
例えば、建築家が「住みやすい家を自由に造って」と言われたり、スタイリストが「私に似合う服を自由に選んで」と言われたりしたら、相手の希望や要望を聞き出すためにさまざまなコミュニケーションを重ねるでしょう。専門家として自分が判断するための「枠組み」「条件」を明確にするためです。しかし、その分結論にたどり着くには時間がかかりますし、結果が見当違いになる可能性もあります。
ここでは、依頼者がどんなにわがままで常識外れな内容でも、何か範囲を決める糸口となるようなことを言ってくれた方が対応は早くなります。制約があった方が選択肢を示しやすく、その後の行動も取りやすくなります。
創作活動をする芸術家であれば、自分なりの分野や方向性を決め、手法、期間、材料、費用、技術など、何らかの制約の中で活動をします。枠組みを自分で決めているという点で前者の例と違いはありますが、何らかの決めた範囲の中で作品を生み出します。
役者であれば脚本や台本という制約の中で、その人なりの個性を発揮しますし、「多くのイノベーションは制約から生み出されている」とも言われます。
結局、裁量と制約とのバランスが大事
このように「自由に」「好きなように」と言われるよりは要望や制約条件があった方が、それに対して「こういう方法がある」「こちらの方が大事」「それは無理」「ここまでならできる」といった具体的な議論がしやすくなります。また、依頼された側も行動しやすくなります。このように「自由にやって」という言葉は、実は相手の行動を鈍らせていることがあります。
その一方、多すぎる制約が行動を阻害することも確かです。「こんなことできるわけがない!」と言いたくなるような制約でがんじがらめの無理難題ということもあるでしょう。裁量がほとんどないのに責任だけが重いような環境は、当事者にとっては大きなストレスとなります。
結局は裁量と制約とのバランスが大事ということです。このバランスを保つことは簡単ではありません。しかし、相手に何か仕事を依頼する場合は、少なくとも裁量が大きいほど良いわけではないことは、よく考えておく必要があります。
「自由にやって」という言葉が、相手の行動をかえって難しくしていることもあるのです。
次回は8月25日(火)の更新予定です。
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