第111回 うまくいかない運送業のDX(3) 一気にそろえようとしない

前回のコラムでは、営業所ごとに記録のやり方が違うことが、監査対応や経営判断の遅れにつながることを整理しました。続いて今回は、複数拠点の記録をどのような内容・順番でそろえていくべきかをお話しします。重要なのは「全てを同時に直そうとしないこと」です。

うまくいかない運送業のDX(3) 一気にそろえようとしない

前回のコラムでは、営業所ごとに記録のやり方が違うことが、監査対応や経営判断の遅れにつながることを整理しました。続いて今回は、複数拠点の記録をどのような内容・順番でそろえていくべきかをお話しします。先にお伝えしておくと、重要なのは「全てを同時に直そうとしないこと」です。

まずそろえるべきは「法令直結の記録」

最初に手を付けるべきは、行政指導や処分に直結する記録です。これが拠点ごとにバラバラな管理になっていると、法的な問題に直結します。優先順位は最上位になります。
優先順位は以下のとおりです。

  1. 点呼記録 → 不備があれば即座に指導対象。保存義務も明確
  2. 勤怠・拘束時間管理 → 月284時間、年3,300時間の上限超過は重大リスク
  3. アルコール検知記録 → 実施義務が明確で、記録未保存は即是正対象

これらは「できればそろえる」ではなく、全営業所で同じ精度でそろっていなければならない領域です。

次にそろえるのは「経営判断に使う記録」

法令直結の次に手を付けるのは、会社の利益や人事に影響する情報です。

  • 運転日報の内容
  • 配車実績・車両稼働率
  • ドライバー評価

これらは処分リスクこそありませんが、そろっていないと経営判断を誤る可能性があります。

運転日報の記載方法がそろっていないと「原価」が見えない

営業所ごとに日報の書き方や集計方法が違うと、次のようなズレが生じます。

  • ある営業所は待機時間や積込時間を運転時間に含めている
  • 別の営業所は待機を別区分で処理している
  • 高速代(請求できるものとできないもの)や燃料代(書いたり書かなかったり)の記載方法が統一されていない

この状態では、同じ売上であっても実際の原価構造が違って見えることになります。原価が正確にそろっていなければ、どの荷主が利益を生み、どの路線が赤字なのかを判断できません。

車両稼働率がそろっていないと「判断」を誤る

車両稼働率も、定義が営業所ごとに違うケースが多い項目です。

  • 稼働率を走行日数で計算している
  • 時間ベースで計算している
  • 単に動いたかどうかで判断している

この違いは、新車購入や車両売却の判断を誤らせる要因となります。例えば、稼働率が90%と報告している営業所でも、実際には短距離ばかりで長時間待機が多い場合があります。このようなケースでは、数字は高く見えても実態は低稼働です。定義をそろえなければ、設備投資の判断が感覚頼みになります。

ドライバー評価データがそろっていないと「人事の公平性」が崩れる

評価制度を導入しても、営業所ごとに基準が違えば意味がありません。

  • A営業所は厳格に減点
  • B営業所は甘めに評価
  • C営業所は主観中心

この状態では、全社的な昇給や表彰は不公平になります。結果として、不満・離職・評価制度への不信が発生します。評価データは「集める」だけでは不十分です。同じ基準、同じ配点、同じ算出方法であることが前提です。

最後に整えるのは「業務効率化のためのデータ」

「備品管理・細かい報告書類・社内連絡方法」。これらは重要ですが、優先順位としては最後で問題ありません。いきなり細部から手を付けると、現場の負担だけが増え、動きが止まってしまいます。失敗する会社の特徴は明確です。

  • 全帳票を同時にクラウド化
  • 全営業所に同時導入
  • 同時に評価制度も変更

このやり方では、現場は混乱し、入力ミスが増え、「やっぱり前のやり方がよかった」となります。正しい進め方は「一本ずつそろえる」。推奨する進め方は次のとおりです。

  1. 点呼記録だけを全営業所でそろえる
  2. 安定したら勤怠管理をそろえる
  3. その後に配車・日報へ拡大する

常に「一つそろえてから次へ」です。そろったかどうかの判断基準はシンプルです。

  • 営業所間で入力方法が同じか
  • 修正ルールが同じか
  • 本社が説明できる状態か

この3点が満たされていれば次へ進みます。

拠点が増えるほど、そろえる力が競争力になる

営業所が増えるほど、情報のズレは経営リスクになります。そろっていない記録は、見えない赤字、見えない違反、見えない不満を生みます。拠点展開を進める会社ほど、「そろえる順番」と「そろえる仕組み」を持つことが不可欠です。
システムを入れることがDXではありません。営業所間で同じ動きを作ることこそ、本当の変化です。

次回は3月13日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社AppLogi 代表取締役

廣田 幹浩

国内大手コンサルティング会社SCM&ロジスティクスソリューショングループ グループマネージャー職を経て現職。300社を超える荷主向け物流効率化、数100社超の運輸・配送関連経営コンサルティングの実績をベースとして、2018年に株式会社AppLogiを設立。最新の運輸・配送関連クラウドアプリケーションを提供する。
株式会社AppLogi

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