第122回 中小運送業の社長が毎月見るべき数字は「売上」ではない

前回は、「運送会社が利益を増やすためにドライバーの時間を管理する理由」というテーマでお話ししました。多くの会社で最初に確認されるのは売上です。しかし、売上だけでは会社の状態を正しく判断できません。そこで今回は、運送会社の社長が毎月確認しておきたい数字について考えてみたいと思います。

中小運送業の社長が毎月見るべき数字は「売上」ではない

前回は、「運送会社が利益を増やすためにドライバーの時間を管理する理由」というテーマでお話ししました。利益が出る会社は、待機時間だけではなく、積み込み、荷降ろし、指示待ち、理由の分からない停止など、車両が止まっている時間全体を確認しています。限られた時間をどのように使っているかを見ることが、利益改善とドライバーの負担軽減との両方につながるというお話でした。

ここまでのシリーズでは、運行ごとの粗利、荷主別採算、配車、車両の稼働、ドライバーの時間など、利益を作るために必要な視点を一つずつ見てきました。では、社長は毎月どの数字を確認すれば、会社の変化を早くつかむことができるのでしょうか。
多くの会社で最初に確認されるのは売上です。しかし、売上だけでは会社の状態を正しく判断できません。売上が増えていても利益が減っていることがありますし、利益が出ていても手元の現金が減っていることもあります。そこで今回は、運送会社の社長が毎月確認しておきたい数字について考えてみたいと思います。

売上は結果であって、会社の状態そのものではない

月次の数字を見るとき、最初に売上へ目が向くのは自然なことです。前年同月より増えたのか、目標を達成したのか、大口荷主の取引が伸びたのか。売上は会社の動きを把握するうえで欠かせない数字です。
ただし、売上だけを見て「今月は良かった」と判断するのは危険です。売上を増やすために長時間の運行が増え、燃料費や高速代、残業代が大きく膨らんでいるかもしれません。忙しくなったことで外注費が増え、実際には以前より利益が残っていないこともあります。
社長が知りたいのは、どれだけ仕事をしたのかだけではありません。その仕事によって、会社に何が残ったのかです。売上は入り口の数字であり、そこから先を見なければ経営判断にはつながりません。

一つ目に見るのは「粗利」

売上の次に確認したいのが粗利です。ここでいう粗利とは、売上からその仕事を行うために直接かかった費用を差し引いた後に残る金額です。燃料費、高速代、外注費などを差し引くことで、仕事そのものがどれだけ利益を生み出したのかが見えてきます。
売上が増えていても粗利が減っている場合は、単価の低い仕事や効率の悪い仕事が増えている可能性があります。反対に売上が大きく伸びていなくても粗利が増えているなら、仕事の内容や配車の組み方が改善していると考えられます。

重要なのは、会社全体の粗利だけで終わらせないことです。できる範囲で荷主別、車両別、運行別に確認すると、どの仕事が会社を支え、どの仕事が利益を圧迫しているのかが分かるようになります。

二つ目に見るのは「現金」

決算書上は利益が出ているのに、なぜか資金繰りが苦しい。そのような状態は珍しくありません。売上が計上されても、入金されるまでには時間がかかります。一方で、給与、燃料費、車両代、税金などの支払いは待ってくれません。
そのため、社長は利益と同時に手元の現金を確認する必要があります。今ある現金で何カ月分の固定費を支払えるのか。今後の入金予定と支払い予定に大きなずれはないか。車両購入や賞与、納税など、大きな支出が予定されていないか。
現金の動きを毎月確認していれば、資金不足の兆候に早く気付けます。利益は会社の成績ですが、現金は会社を動かし続けるための体力です。どちらか一方だけでは、会社の安全性を判断できません。

三つ目に見るのは「ドライバーの時間」

前回お話ししたとおり、これからの運送会社にとって時間は非常に重要な経営資源です。社長が毎月確認したいのは、総拘束時間だけではありません。その時間がどのように使われているかです。
運転に使われた時間、積み込みや荷降ろしに使われた時間、荷待ちや指示待ちで止まっていた時間、休憩として確保できた時間を分けて見る必要があります。長時間拘束されているにもかかわらず、売上につながらない停止時間が多く、必要な休憩も取れていないのであれば、利益と安全の両方に問題があります。
時間の使われ方を荷主別、納品先別、運行別に比べると、改善すべき場所が見えてきます。時間の数字は労務管理のためだけに見るものではありません。運賃交渉、配車改善、取引の見直しにつなげるための経営数字でもあります。

四つ目に見るのは「車両の稼働」

車両については、保有台数や稼働日数だけを見るのでは不十分です。実際に何台が安定して利益を生み出しているのかを確認する必要があります。
稼働しているように見えても、空車回送が多い車両、修理や故障が続いている車両、拘束時間の割に売上が低い車両があるかもしれません。反対に無理なく高い収益を上げている車両もあります。
車両ごとの売上、走行距離、実車率、燃料費、修繕費などを確認すると、増車すべきか、入れ替えすべきか、配車を見直すべきかを判断しやすくなります。台数が多いことではなく、保有する車両を利益につなげられていることが重要です。

五つ目に見るのは「前年や計画との差」

毎月の数字は、単独で見ても変化に気付きにくいものです。そこで前年同月や当初の計画と比べることが重要になります。
売上は計画どおりでも粗利が下がっている。拘束時間は増えたのに売上は変わっていない。車両の稼働は高いのに現金が減っている。このようなずれを見つけることで、問題が大きくなる前に手を打てます。
大切なのは、数字が良いか悪いかだけを確認することではありません。なぜ計画と違ったのか、なぜ前月から変わったのかを考えることです。数字の差には、現場で起きている変化が表れています。

数字は増やしすぎない

数字を使った経営を始めると、あれもこれも確認したくなります。しかし、毎月数十種類の数字を並べても、結局どこを見ればよいのか分からなくなります。
まずは売上、粗利、現金、ドライバーの時間、車両の稼働という基本の数字に絞り、それぞれを前年や計画と比べるだけでも十分です。そこで異常が見つかったときに、荷主別や車両別など、より細かい数字を確認します。
毎月見る数字は、資料を作るためにあるのではありません。社長が次の行動を決めるためにあります。数字を増やすことよりも、見た数字から一つでも具体的な判断をすることの方が重要です。

まとめ

社長が毎月見るべきなのは、売上だけではありません。売上からどれだけ粗利が残ったのか。利益が現金として会社に残っているのか。ドライバーの時間や車両が利益につながる使われ方をしているのか。そして、その数字が前年や計画と比べてどのように変化しているのか。
この五つを継続して確認すれば、会社の小さな変化に早く気付けるようになります。数字は会社を評価するためだけのものではありません。現場で起きていることを知り、次に何を変えるべきかを決めるための道具です。
売上が増えたことを喜ぶだけで終わらず、なぜ利益が残ったのか、なぜ現金が減ったのかまで確認する。その習慣が、感覚に頼らず利益を積み重ねられる会社をつくります。

社長へのワンポイント

月次資料を開いたら、売上の確認だけで終わらせず、「粗利」「現金」「時間」「車両の稼働」を同じ順番で見てください。そして、前月と最も大きく変わった数字を一つ選び、その理由を現場に確認してみてください。毎月一つの変化を追うだけでも、経営の見え方は大きく変わります。

次回は8月21日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社AppLogi 代表取締役

廣田 幹浩

国内大手コンサルティング会社SCM&ロジスティクスソリューショングループ グループマネージャー職を経て現職。300社を超える荷主向け物流効率化、数100社超の運輸・配送関連経営コンサルティングの実績をベースとして、2018年に株式会社AppLogiを設立。最新の運輸・配送関連クラウドアプリケーションを提供する。
株式会社AppLogi

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