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第143回 営業戦略では、ターゲット、競合対策、アプローチの三つの方向性を明確に
新たな期を迎え、営業戦略を策定している人が多い時期でしょう。苦労して営業戦略を策定しても営業現場で実践しない、できない……。今日の変化の速い市場で売上を上げていくためには、営業活動の方向性を定める営業戦略は重要です。今回は、適正な営業戦略に必要なターゲット、競合対策、アプローチの三つの方向性についてご紹介します。
営業戦略では、ターゲット、競合対策、アプローチの三つの方向性を明確に
市場の変化が速く、技術や商品の高度化が進む中で、新規事業や新規マーケットへの営業、従来の営業からの変革の重要性が高まっています。そして、新規事業や新規マーケットへの営業、従来の営業からの変革を進めるためには、営業活動の方向性を定める営業戦略は重要です。
しかし、期初に一生懸命に営業戦略を策定しても、3カ月、半年たってみると進んでいない。
- 営業戦略が漠然としていて、何をすればよいか分からない
- 営業担当者がアポイントを取れない、提案できない、今までの営業を変えられない
- 日々の仕事に振り回されて忙しい、技術部や企画部など他の部門の協力が得られない
- そもそも営業戦略が非現実的
みなさんの会社ではいかがでしょうか?
営業支援システムの拡販を目指し、営業戦略を策定したが……
4月のある日、システム開発会社のセントテクノロジーでは営業部長Aさんが営業戦略を策定し、営業部のミーティングで説明していました。
「今期はクラウド営業支援システムで取引先を拡大していきます」
【セントテクノロジーのクラウド営業支援システム】
商談情報を共有できる営業管理システムの機能がついたWeb会議システム。
説明した内容は……
- 背景と目的
- DXを進めている企業が多いため、クラウド営業支援システムの需要は拡大
- 昨年、大口のお客さんの取引がなくなり売上が減少
- 今後のことを考えると新規取引先の獲得は必須
- 戦略
- クラウド営業支援システムを切り口に新規開拓営業を進める
- ターゲットは年商50億円以上の中堅規模以上の企業
- 商談情報の共有とオンライン商談を同じシステムで対応できるという強みをアピールして案件を獲得
- 具体的な活動
- 5月と6月に展示会に出展
- 展示会の来場者にテレアポで訪問を獲得し、営業活動を進める
- 案件を獲得したら商品企画部に同行してもらい、技術的な提案を進める
- 売上目標
- 新規取引先の売上目標は1億円
- 計画は、売上目標を達成するために1年間で40件のお客さんを訪問
そして、5月から営業活動をスタートしました。
上期が終了し10月初旬
獲得した案件が2件で売上見込みは1,000万円程度。
このままだと1億円の目標を達成しないどころか2,000万円も届かない。
営業部長AさんとマネージャーBさんは下期の対策について話し合っていました。
営業部長Aさん
「なんで2件しか案件がないんだ?」
「来場者にアポイントが取れてないのか?」
Bさん
「いや、情報システム部の担当者に20件は訪問したんですけど、お客さんが検討していなくて」
Aさん
「そんなことないだろう、オンライン商談が増えているんだからニーズはあるはずだろう」
「訪問したお客さんは何て言っているの?」
Bさん
「商談情報の共有とオンライン商談を同じシステムで対応できるという強みは評価してくれるんですが……」
- 複数の営業部は、それぞれ管理方法が違うからExcelで対応しているので問題ない
- 商談情報の共有は、名刺管理システムの議事録機能を使っているので問題ない
- 既に営業管理システムとWeb会議システムを導入し使っているので問題ない
Aさん
「強みを説明しているだけで、メリットを提案できていないんだろう」
「商品企画部に導入事例資料があるから、もらってきてメリットを提案するように」
Bさん
「分かりました」
そして、下期の営業活動をスタートしました。
半年がたち期末
セントテクノロジーの新規開拓営業は、受注件数が3件で売上は1,500万円。
……1億円の売上目標に対し大きく未達成。
新規取引先の獲得が進まなかった原因とは何か
新規取引先の獲得が進みませんでした。
原因は多々ありますが、営業戦略にも原因があります。
何が良くなかったのでしょうか?
営業部長Aさんが4月に説明した営業戦略から考えてみてください。
営業部長Aさんの営業戦略(1)
「商談情報の共有とオンライン商談を同じシステムで対応できるという強みをアピールして案件を獲得」
しかし、訪問してお客さんに言われていることは、
- 複数の営業部はそれぞれ管理方法が違うからExcelで対応している
- 商談情報の共有は名刺管理システムの議事録機能を使っている
- 既に営業管理システムとWeb会議システムを導入し使っている
Excelやシステムを使っているから問題ないと営業現場の課題を理解していないお客さんが多いようです。そのお客さんに強みをアピールしても購入を検討してもらえないでしょう。「商談情報の共有とオンライン商談を同じシステムで対応できる」と説明しても必要性を感じていないのですから。
強みよりも「営業の管理方法や営業活動の効率化の課題」といった営業現場の課題を理解させることが必要だったのです。
- 複数の営業部でそれぞれ管理方法が違うことによる弊害
- 名刺管理システムの議事録機能だけでは適正な指導ができないこと
- 営業管理とWeb会議とを別々のシステムで行っていることによる営業スピードや効率の課題
営業部長Aさんの営業戦略(2)
「ターゲットは年商50億円以上の中堅規模以上の企業」
訪問先は情報システム部の担当者が多かったようですが、上の営業現場の課題を理解させることはできるのでしょうか?
営業部や営業企画部の人に会わないと課題を理解させることはできないでしょう。ターゲットの規模だけでなく、誰に会うべきかということも必要だったのです。そして、その人にどうしたら会えるかを考えなくてはいけなかったのです。
営業戦略を適正な営業戦術に落とし込む
展示会の来場者は情報システム部の担当者が多いのであれば、情報システム部の担当者から営業部や営業企画部の人を紹介してもらう方法。
- 営業戦略は営業戦術(個々の営業活動の方法)の方向性
- 営業戦略は適正な営業戦術に落とし込むためのもの
適正な営業戦術に落とし込むための営業戦略には三つ必要なことがあります。
- ターゲットの方向性
どのようなお客さんから売上を上げるのか?
そして、お客さんの状況に対し、どのような人に会って受注を獲得するのか? - 競合対策の方向性
何で競合に勝つのか?
お客さんの状況に対し、競合他社の商品と比較して何が有効なのか? - アプローチの方向性
何を理解させて受注を獲得するのか?
お客さんの状況を踏まえて、商品の強みを理解させるべきか? お客さんの課題を理解させるべきか?
- 「営業活動で検討・調整する情報が多く、営業活動で他の部門との連携が多い」という企業の
- 「営業現場の課題を理解させることができる営業部か営業企画部」に会い
- 「別々のシステムを使っていることによる営業スピードや効率の課題」を理解させ
- 「商談情報の共有とオンライン商談を同じシステムで対応できる」という強みで勝つ
明確でない、また三つの方向性が欠けているため、適正な営業戦術に落とし込めない営業戦略が多く見受けられます。営業戦術に落とし込めず実行できない営業戦略に価値はありません。
みなさんの会社ではいかがでしょうか?
営業活動の方向性を定める営業戦略が重要
新規事業や新規マーケットへの営業、従来の営業からの変革にとって営業活動の方向性を定める営業戦略は重要です。
せっかく苦労して営業戦略を策定しても、3カ月、半年たってみると進んでいない。営業戦術に落とし込めず、現場で営業活動を進められない営業戦略に価値がありません。
自分の会社の視点ではなく、お客さんの視点で、営業戦略の三つの方向性を明確にしましょう。
営業戦略の三つの方向性を考える方法は……
「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス
次回は5月19日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
あなたは求人広告の営業マネージャーです。
Aさんだけ売上が上がっているけど、他の部下は上がらない……
どのように指導する?
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