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第144回 新規開拓営業は行動計画にこだわらなければやらなくなる
売上や事業の拡大には新規開拓営業や既存顧客の他部門への営業は大切。しかし、引き合いや既存案件の対応に追われて後回し。顧客の要求に対して行動する営業と、自ら考え積極的に行動する営業とでは計画と行動管理が異なります。今回は新規開拓営業を進めるための計画や行動管理についてご紹介します。
新規開拓営業は行動計画にこだわらなければやらなくなる
営業という仕事は、さまざまなお客さんにさまざまな営業をしなくてはならない大変な仕事です。
- 引き合いや既存案件の営業
- 継続取引を獲得するための営業
- 取引先の他の部門の紹介獲得や提案営業
- 新たな取引先を獲得するための新規開拓営業
全てが大切な営業です。
引き合いや既存案件の営業、継続取引を獲得するための営業は、今期の売上やお客さんを失わないために大切。取引先の他の部門の紹介獲得や提案営業、新たな取引先を獲得するための新規開拓営業は、来期以降の売上拡大のために大切。
しかし、多くの営業担当者が引き合いや既存案件の営業に追われて、新たな取引を獲得するための営業を後回しにしてしまう。
みなさんはいかがですか?
新規開拓営業を進めることが決まって
ある設備機器メーカーの営業部では、期初に営業戦略ミーティングをしていました。
営業部長Aさん
「前期は長年取引していたアドバイス工業が工場を海外に移転したため、取引がなくなり売上を落としてしまいました」
「昨今のアメリカの事情を考えると、他の取引先も工場を海外に移転する可能性があります」
「そのため新たな取引先を獲得しないといけませんので、今期は新規開拓営業を徹底してください」
営業担当Bさん
「今期も新規顧客へのテレアポですか?」
「展示会には出展しないんですか?」
営業部長Aさん
「新規顧客へのテレアポは今期もやってください」
「あと、6月と10月の展示会に出展します」
「来場者のリストは業界別に分けて担当者に配布しますので、各自アプローチしてください」
営業マネージャーCさん
「分かりました」
営業部長Aさん
「今月中にテレアポのリストを作成して、来月から新規開拓営業を進めるように」
「マネージャーはチーム会議で進捗(しんちょく)を確認してください」
そして、翌月から新規開拓営業をスタートしました。
営業マネージャーCさんのチームでは、営業担当者がそれぞれ30社をリストアップ。展示会では多くの来場者と名刺交換ができ、営業担当者一人あたり10社の来場者を担当してアプローチ。
新規開拓営業をスタートしてから1カ月がたち、5月末のチーム会議……
営業担当者に1人ずつ進捗を聞いたら、ほとんど進んでいない。
営業マネージャーCさん
「なんでリストアップしたのにテレアポをやっていないの?」
営業担当Bさん
「リーディング技研で納品した製品にトラブルがあって、対応しなくちゃいけなくて」
Cさん
「1カ月間ずっとトラブル対応していたわけじゃないだろう」
Bさん
「見込み案件の対応とか、他のお客さんの定期訪問もあって忙しくて」
Cさん
「リーディング技研のトラブルは落ち着いたんだから、来月は大丈夫だよな?」
Bさん
「来月は展示会もあるから大丈夫です」
2カ月がたち、7月末のチーム会議
営業マネージャーCさん
「なんでリストアップしたのにテレアポをやっていないの?」
営業担当Bさん
「6月は展示会の準備で忙しかったんです」
「パネルやパンフレットの構成とかで販売促進部とのミーティングが多くて」
Cさん
「展示会の来場者にはアプローチできたの?」
Bさん
「3社は電話したんですけど、アポイントが取れなくて」
Cさん
「えっ、10社の来場者を渡したじゃないか」
「他のお客さんはどうしたんだ? 展示会が終わってもう2カ月近くたつぞ」
Bさん
「忙しくてアプローチできていないです」
「6月下旬に昨年訪問したポータル食品から新製品の問い合わせが入ったので」
Cさん
「ポータル食品は競合のセントテクノロジーと取引しているから無理だろう?」
Bさん
「でも、見積書を提出してほしいって言われて」
Cさん
「見積書を提出したって価格でセントテクノロジーには勝てないだろう」
「うちは一度も取引したことがないし、毎回失注しているから無理だろう」
Bさん
「でも、お客さんから今月中に提出してほしいって言われたので」
Cさん
「それよりも展示会の来場者にアプローチしないと」
「部長も言っていたけど、新たな取引先を獲得しないと来期以降まずいんだよ」
Bさん
「すみません」
なぜ、Bさんはテレアポができなかったのでしょうか?
展示会の来場者にアプローチできなかったのでしょうか?
忙しかっただけでしょうか?
確かに、Bさんは忙しかったのかもしれません。しかし、忙しくて展示会の来場者にアプローチできないのに、ポータル食品の見積書は作成し提出している……
「ポータル食品の見積書の作成」は、受注にならない仕事。
「展示会の来場者へのアプローチ」は、新たな取引先を獲得するための仕事。
Bさんにとって大切な「展示会の来場者へのアプローチ」はやっていないのに、「ポータル食品の見積書の作成」はやっていました。
……なぜ?
仕事の優先順位を決める考え方
仕事の優先順位を決めるために、緊急度と重要度の2軸で考えるフレームがあります。
優先順位のフレーム
仕事の緊急度
早急に対応するべきか否かという時間で判断する軸
仕事の重要度
仕事の成果やリスクの視点で重要か否かという仕事の重要度で判断する軸
- 1. 緊急度:高×重要度:高=緊急度、重要度の両方とも高い
- 2-1. 緊急度:高×重要度:低=緊急度は高いが、重要度は低い
- 2-2. 緊急度:低×重要度:高=緊急度は低いが、重要度は高い
- 3. 緊急度:低×重要度:低=緊急度、重要度の両方とも低い
一番優先順位が高い仕事は「1. 緊急度:高×重要度:高」
次に優先順位が高い仕事は「2-1.緊急度:高×重要度:低」と「2-2. 緊急度:低×重要度:高(緊急度は低いが、重要度は高い)」
最も優先順位が低い仕事が「3. 緊急度:低×重要度:低」
問題なのは「緊急度」の考え方です。緊急度は「仕事の目的達成に対して、早急に対応するべきか否か」を考えるべきものです。
雑多かつ流動的という特性をもった営業の仕事は目先の仕事に追われやすくなります。すると、緊急度を「仕事の目的達成に対して早急に対応するべきか否か」よりも、「期限が決まっているか否か」で判断してしまいがちです。
営業担当Bさんはどのように判断したのでしょうか?
「ポータル食品の見積書の作成」
お客さんから要求されて期限が決まっている仕事:緊急度が高いと判断
受注にならない仕事:重要度が低いと判断
つまり、「2-1. 緊急度:高×重要度:低」
「展示会の来場者へのアプローチ」
期限が決まっていない仕事:緊急度が低いと判断
新たな取引先を獲得するための仕事:重要度が高いと判断
つまり、「2-2. 緊急度:低×重要度:高」
同列と考えたため、期限が決まっている「ポータル食品の見積書の作成」をやって、期限が決まっていない「展示会の来場者へのアプローチ」を後回しにしてやらなかったのです。
緊急度を「仕事の目的達成に対して、早急に対応するべきか否か」で考えて判断したらどうなるでしょうか?
「展示会の来場者へのアプローチ」
目的は来場者からアポイントを獲得して営業活動を進め、新たな取引先を獲得すること。
展示会後すぐにアプローチしないとアポイントが取れなくなる。
今期中に新たな取引先を獲得するためには、早めに訪問し提案しないといけない。
……緊急度は高い。
「展示会の来場者へのアプローチ」は「2-2. 緊急度:低×重要度:高」ではなく、「1. 緊急度:高×重要度:高」だったのです。
新規開拓営業は具体的な行動計画が必要
目先の仕事に追われやすい営業は、緊急度を「期限が決まっているか否か」で判断してしまいがちです。
新規開拓営業のテレアポ、展示会の来場者へのアプローチ、お客さんに要求されていない積極的な提案、リード顧客のフォローや定期訪問……「期限が決まっていない」これらの仕事を緊急度が低いと考えて後回しにしがちです。
そして、これらの仕事は、受注獲得など成果が出るまで時間がかかるものが多く、下期や期末にまずいと気付いても手遅れになってしまいがちなのです。後回しにしやすい、手遅れになりやすい新規開拓営業は、目的達成に向けて具体的な行動計画を作りましょう。「展示会の来場者にアプローチします」と考えただけでは後回しにしてやらなくなります。
新規開拓営業の行動計画は……
「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス
次回は6月16日(月)更新予定です。
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