第105回 課題や原因でなく背景の共感が相談関係を構築する

営業活動の基盤となる顧客との関係は作り方によって大きく変わってしまう。使われる関係になるか、頼られる関係になるか……。悩みを聞いてアドバイスをするという課題解決型営業には頼られるという相談関係が必要です。今回は相談関係を構築するための五つの要件のうち「悩みの共感」についてご紹介します。

課題や原因でなく背景の共感が相談関係を構築する

営業活動は、顧客との関係の作り方で進めやすさも成果も大きく変わる仕事。

お客さんから何でも相談され、自分の意見やアドバイスを受け入れてもらい、こっちのお願いも聞いてもらえる関係を作りたい……。
しかし、現実は、
悩みや課題を相談されるというより決まったことを要求されるばかり。
意見やアドバイスも受け入れてもらえないし、交渉事も無理を要求されたり押し付けられたり。

お客さんの悩みや課題とはどのようなものなのでしょうか?
頼られ、悩みを言ってもらえ、意見やアドバイスを受け入れてもらえる相談関係とはどのようなものでしょうか?

相談の受け答えによる当事者との距離

Aさんは家を買って引っ越しをしようか悩んでいます。

  • 在宅勤務が増えて自宅で仕事ができる場所が欲しい
  • 高齢の両親の世話をするため、実家の近くに引っ越したい
  • 妻が子供の転校を嫌がり引っ越しを嫌がるかもしれない
  • 転職して2年目で家のローンを抱えることに不安がある
  • 今、引っ越さなかったら子供の学校のために実家の近くに引っ越すことは難しくなる

友人のBさんとCさんがAさんの相談にのっていました。2人の相談を比べてみましょう。

Bさんの場合

Aさん
「家を買って引っ越ししようか悩んでいるんだ」

Bさん
「そうなんだ、なんで?」

Aさん
「実家の近くに引っ越した方がいいのかなって思って」

Bさん
「そうなんだ、ご両親の面倒とか?」

Aさん
「両親が高齢になってきたので様子見に行ってあげないといけないから」

Bさん
「そうだよな、両親が高齢だと様子見に行ってあげないといけないよな、家を買って引っ越してあげた方がいいんじゃない」
「一緒に探してやろうか? 俺、不動産屋だし、藤沢あたりの物件も扱っているからよく分かるよ」
「どういう物件がいいの?」

Aさん
「まだ、引っ越すって決めてないからもうちょっと考えてみるよ」

Bさん
「決めたら言ってくれよ、探すの付き合ってあげるから」

Cさんの場合

Aさん
「家を買って引っ越ししようか悩んでいるんだ」

Cさん
「そうなんだ、なんで?」

Aさん
「実家の近くに引っ越した方がいいのかなって思って」

Cさん
「そうなんだ、ご両親の面倒とか?」

Aさん
「両親が高齢になってきたので様子見に行ってあげないといけないから」

Cさん
「様子を見に行ってあげないといけないって、どこか悪いの?」

Aさん
「母は元気なんだけど、父の足が悪くて」
「母も元気とはいっても70歳を過ぎているから、足の悪い父の世話は大変そうで」

Cさん
「そうなんだ、足が悪いって歩けるの?」

Aさん
「車いすとかではないから歩けるらしいけど、少し歩くとすぐに痛くなるみたい」
「階段とかは母がついていかないと危ないらしくて」

Cさん
「そうしたら、お父さんは出掛けるのが嫌になるんじゃない?」
「年とってずっと家にいて出掛けなくなるのもよくないからな」
「お前、一人っ子だから面倒を見てやらないといけないだろう」

Aさん
「そうなんだよ、母は車の運転ができないから、たまに行って車で連れ出してあげないといけなくて」

Cさん
「でも、引っ越すっていっても、お前んとこの子供まだ小学生だろう」
「奥さんが引っ越しを嫌がるんじゃない? 大丈夫なの?」

Aさん
「そうなんだよ、そこが難しくて」
「子供は無邪気だから引っ越し、新しいお家って言ったら喜ぶかもしれないけど、うちの妻は転校させるのを嫌がるから」

Cさん
「でも、藤沢だと海も自然もあるから、子育てにはいいんじゃないの?」

Aさん
「いや、うちの妻は自分が私立で育ったから、中学も高校も都内の私立に通わせたいみたいで」

Cさん
「分かる、うちもそう」
「でも、子供の転校を嫌がって、中学、高校と都内の私立に通わせたいって言っていたら引っ越しできるのは10年以上後だろ」
「奥さん説得しないと」

Aさん
「そうだよな……」

Cさん
「それに、お前のところ子供が2人もいるからそのうち引っ越さなくちゃいけなくなるだろ?」
「子供が中学に入っちゃうとますます中野から離れられなくなるだろう」

Aさん
「確かに……、大きくなってきたら兄弟で別々の部屋にしてあげないといけないから、今の家じゃ無理だよな」
「いずれにしろ引っ越さないといけなくなる」
「中野も嫌いじゃないけど、育った街だから藤沢に戻りたいんだよな」

Cさん
「そうしたら、子供が小さい今のうちの方がいいんじゃない?」

Aさん
「そうだな、妻と話してみるよ」

Cさん
「藤沢から通える私立の中学、高校で奥さんが気に入りそうな学校ってないのかな」
「ちょっと探してみようか?」

Aさん
「いいの? Cさんも忙しいのに悪いな」

Cさんのアドバイスを受け入れて、Aさんは奥さんを説得しようと考えています。
Bさんのときは「引っ越すって決めてないからもうちょっと考えてみるよ」と言っていたのに。

BさんとCさんとの違いは?

背景を通して相談内容の全体像を把握する

会話の量以外に相談関係に影響する大きな違いがあるのです。
少し考えてみてください。

Bさんは、Aさんの悩みを聞いている……「実家の近くに引っ越した方がいいのかな」。
悩みだけでなく原因も聞いている……「両親が高齢になってきたので様子見に行ってあげないといけない」。
これは、Cさんも同じ。

そして、BさんもCさんもアドバイスをしています。
Bさんのアドバイスは「家を買って引っ越してあげた方がいいんじゃない」「俺、不動産屋だし、藤沢あたりの物件も扱っているからよく分かるよ」
Cさんのアドバイスは「子供が小さい今のうちの方がいいんじゃない?」

大きな違いはここからです。

Bさんが会話していなくてCさんが会話していることは……、
「両親が高齢になってきたので様子見に行ってあげないといけない」という悩みの原因の背景である

  • 父親の足の容体
  • 世話をしている母親の苦労
  • 一人っ子という家族構成
  • 奥さんが引っ越しを嫌がる
  • 妻は自分が私立で育ったから子供を中学も高校も都内の私立に通わせたい
  • 育った街だから藤沢に戻りたい

Bさんは、悩みと悩みの原因とを聞いただけでアドバイスしていることに対して、
Cさんは、悩みと悩みの原因とを聞いた後に、背景についてじっくり会話して共感しています。そして、背景を共感した後にアドバイスしています。

つまり、悩みの原因の背景の会話。

背景について会話し共感すると、自然に悩みの原因や悩みについて一緒に考えられる流れになっていきます。
背景を共有し共感することで、相手は自分の悩みを理解してくれる人という印象を持ち相談しやすくなるのです。

自分の悩みを共感できる人と思わせることは、相談関係を構築するため(相手に相談させるため)に必要なことです。
そして、この「悩みの共感」で最も大切なことが悩みそのものではなく「悩みの背景」を共感することです。

「売り込み」ではなく「相談にのる」

営業現場では、お客さんの課題と原因を聞いただけですぐに提案や売り込みをしているシーンが見受けられます。

お客さんから「今、ノートパソコンの購入を検討しているんです」と言われると……、
「そうなんですか、なぜご検討されているんですか?」と検討している原因を聞く。

お客さんに「営業社員が社外で仕事ができるようにしてあげないと残業を削減できないから」と原因を言ってもらうと……、
「働き方改革も進めているでしょうから、配布してあげた方がいいですね」
「当社はノートパソコンも豊富に扱っていて軽くて営業社員が使いやすいノートパソコンもあるので、ご紹介させていただきます」
「ご要望や条件など、詳しくお聞かせいただけますか?」

その結果、「まだ決定ではないので、少々お待ちください」と逃げられてしまう……。

皆さんの営業はいかがですか?

課題とその原因だけ聞いても、お客さんに課題を理解している営業とは思われないのです。

お客さんと課題の背景についてじっくり会話しましょう。
すると自然に相談される関係になるのです。

お客さんとの相談関係の作り方「相談関係の五つの要件」は……
「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス

次回は2月21日(月)更新予定です。

今月のクイズ(営業のクイズ)

新規開拓営業
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情報システムの担当者と面談しても提案にならない。営業部長に会わないとだめかな……。
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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
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