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第102回 「でしょうか?」でなく限定質問の「ですよね?」で顧客の情報を聞き出す
戦略や課題、内情、予算や競合……、営業ではお客さんに聞いても教えてもらえない情報がたくさんあります。しかし、課題解決型営業や戦略営業では必要な情報です。今回は直接聞いても教えてもらいにくいお客さんの情報の聞き出し方についてご紹介します。
「でしょうか?」でなく限定質問の「ですよね?」で顧客の情報を聞き出す
会社の内情を聞こうとしても教えてもらえない
お客さんに会社の内情を聞こうとしたけど教えてもらえなかった……、ほとんどの営業担当者が経験していることでしょう。そして、「あの人はドライだから教えてもらえない」と教えてもらえなかった原因を相手の人柄のせいにしている人が多い……。
しかし、実際には聞き方、聞き出し方に原因がある方が多いのです。
事前に顧客の戦略や事業を調べてみたが……
ある求人広告会社の営業担当Aさんが上司から指導されました。
「採用状況や求人広告が必要かどうかだけじゃなくて、お客さんの戦略も聞いてくるように」
「そのために、訪問する前にお客さんの戦略や事業について調べていくように」
「単純に『御社の戦略を教えてください』とか『どのような課題がありますか?』と聞いても教えてくれないから、調べた情報を話しながら聞くんだよ」
ある日、Aさんは飲食チェーンの会社に訪問しました。
面談相手は、採用担当のBさんです。
事前にお客さんの戦略について調べると……。
- 都心の駅近くの店舗が多かったけれど、最近は郊外のロードサイド店を増やしている。
- 都心の店舗は飲食だけでなく宅配事業も強化している。
Aさんは調べただけではなく、お客さんの状況を想像しました。
- コロナ禍によって営業時間やお酒の提供などを制限されて、売上が下がっているから生き残りのために宅配事業を強化しているんだろう。
- 在宅勤務が進んだので、都心より郊外で自宅近くの店舗の来店数が増えるのかも。
そしてAさんはお客さんを訪問しました。
採用したい人材や採用の計画を聞いて見積を提出することになりました。
一通り用件が済んだので、その後……。
Aさん
「御社のことを調べたら、郊外のロードサイド店を増やしているようですが、郊外に力を入れているのでしょうか?」
採用担当Bさん
「そうですけど……」
Aさん
「やはり、郊外の店舗に力を入れているんですね」
「それは、コロナ禍で在宅勤務が増えているので都心の店舗が厳しくて、働く人の自宅近くの需要が増えているからでしょうか?」
採用担当Bさん
「いえ、違います」
「コロナ禍以前から郊外の店舗を増やす計画だったので郊外の出店を増やしているんですけど……何かあるんですか?」
Aさん
「いや、何かというわけじゃないんですが、御社の戦略を知っておきたくて」
ちょっと引かれていると思いながらも……。
「そうなんですか、コロナ禍以前から郊外の出店を増やす計画だったんですね。それは何か理由があるんでしょうか?」
採用担当Bさん
「今、販売促進部の採用を検討していて、御社に相談しているんですけど何か関係があるんですか?」
「私は採用担当なので詳しく知りません」
Aさん
「いや、すみません、失礼しました」
「では、明日にはお見積りをお送りさせていただきます」
Aさんは会社に戻って上司に……。
「戦略について話してみたんですけど引かれてしまいました」
「採用担当のBさんはドライな人なので、あの人に教えてもらうのは無理です」
ここで問題です。
なぜ、Aさんは戦略について教えてもらえなかったのでしょうか?
教えてもらえなかったのはBさんの人柄が原因だったのでしょうか?
「教えてもらう」ではなく、雑談の中で「聞き出す」
上の会話を読んで採用担当Bさんになったつもりで想像してみてください。
Aさんとの会話に対しBさんはどのように感じたのでしょう?
Aさんは、上司に指導されたとおり調べ、想像したお客さんの戦略を話しながら聞いています。
単純に「御社の戦略を教えてください」と聞くのではなく、「郊外のロードサイド店を増やしている」や「コロナ禍で在宅勤務が増えているので都心の店舗が厳しい」と話しながら聞いています。
しかし、「……何かあるんですか?」と引かれ、また「私は採用担当なので詳しく知りません」と教えてもらえませんでした。
実は、Bさんに教えてもらえなかった原因の一つはAさんの語尾にあります。
「……でしょうか?」
Aさんは、調べ、想像した情報を話し、そのあとに「……でしょうか?」と質問しています。
ただ、採用担当であるBさんにとって出店戦略の話は直接的に関係のないことで、また面談の目的である「販売促進部の採用」や「求人広告の掲載」にも直接的に関係ないことです。
「販売促進部の採用」や「求人広告の掲載」について考えているときに「御社の戦略を知っておきたくて」と関係ないことを質問されても、不信に思い引く、また積極的に答えようという気持ちにはなりません。
また、詳しく知らないことに対して「郊外に力を入れているのでしょうか?」と真面目に質問されますと、正確に知っているわけではないため答えにくくなります。
質問という手段は相手に目的や意図を意識させてしまうものです。
そのため、直接的に関係ないこと、詳しく知らないことに関する質問は、不信に思って引かれる、また教えてもらいにくいのです。
担当者や商談に直接的に関係ない戦略、また詳しく知らない内情などを教えてもらいたいのであれば、目的や意図を意識させない自然な会話の中で聞き出す必要があるのです。
つまり、雑談の中で聞き出すのです。
そのためには……
準備したお客さんの情報を話して「……でしょうか?」と質問し教えてもらおうとするのではなく、
準備したお客さんの情報を話して「……ですよね」と相手に振って、振られた相手が知っていることを話すという流れで聞き出すのです。
「……でしょうか?」と相手に質問するのではなく、「……ですよね」と相手に振るのです。
お客さんを訪問する前に一生懸命お客さんのことを調べても「お客さんのことはお客さんに聞く、教えてもらう」という意識で「でしょうか?」と質問してしまう。
その結果、せっかくいろんな情報を準備してもお客さんに教えてもらえないという営業担当者が多く見受けられます。
聞き方で失敗している営業が……。
経営課題や戦略など商談の目的と直接的に関係ないこと、また、内情や予算、競合など言いにくいことは、質問し「教えてもらう」のではなく、目的や意図を意識させない雑談の中で「聞き出す」のです。
そのためには、お客さんのことはお客さんに「でしょうか?」と質問するのではなく、お客さんのことを知ったかぶって話し「ですよね」と振りましょう。
限定質問・拡大質問
限定質問は相手にYesかNoかで答えさせる質問、拡大質問は相手に話をさせる質問。限定質問と拡大質問とを繰り返し進めることで会話を円滑にし、会話を発展させたり、深掘りしたりする。
顧客の情報を聞き出す方法は
「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス
次回は11月15日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
顧客の知識・情報
あなたは設備機器の営業です。
担当している大手製造会社の戦略や組織を調べてアカウントプランを作らないといけない。
……どうやって情報を集める?
お知らせ
営業強化を考える会
さまざまな会社の営業責任者やマネージャー、営業担当者が集まり一緒に営業強化を考える
「営業強化を考える会」がスタートします。
11月10日(水) 営業強化を考える会/管理職編
11月17日(水) 営業強化を考える会/営業担当者編
営業強化セミナー
課題解決型営業や戦略営業に関する参加料無料のセミナーを開催しています。
10/20(水)「新規開拓営業セミナー」【Web】
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